Zマシン
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この項目では、核融合実験装置/X線発生装置について説明しています。仮想機械については「Z-machine」をご覧ください。
放電時のZマシン。絶縁のために、装置の大部分は水中に沈められている。2006年の改造前のZマシンでは、放電時に大電流によって励起される漏れ磁場のために、空気と水の境界で絶縁破壊が起こり、写真のような放電が発生した(数マイクロ秒の出来事である)。改造後のZマシン(ZRマシン)では、漏れ磁場が大幅に低減されたために、このように派手な誘発放電は発生しなくなっている模様である。この写真は、1998年8月発行のサイエンティフィック・アメリカン誌に掲載されたものと同じものであり、撮影時期は1997年から1998年頃と思われる。

Zマシン(: Z machine)は、アメリカ合衆国サンディア国立研究所が保有する核融合実験装置であり、2016年には世界最強のX線発生装置でもある。世界各国で行われている核融合研究の主流とは大きく異なる、Zピンチと呼ばれる物理現象を利用した実験装置であり、これによって発生させた強力なX線で物質を爆縮し、熱核兵器の内部と同程度の極度に高温、高圧の条件を作り出すことができる。この方法により、2003年3月には重水素燃料のみで核融合を達成している[1]

この装置はサンディア研究所のパルスパワープログラム (Pulsed Power Program)の一環を成し、その最終目的は慣性閉じ込め方式核融合(Inertial Confinement Fusion : ICF)プラントの可能性の実証とされているが、米国の核兵器備蓄性能維持計画(Stockpile Stewardship Program)[2][3]の一環として、2006年から2007年にかけての大がかりな改造においてはエネルギー省(DOE)傘下の国家核安全保障局 (NNSA : Stockpile Stewardship Program を実行するために2000年に新設された機関)から多額の資金供給を受けている。

改造後はNNSAの下で臨界前核実験(Subcritical Experiment)を補完するための実験装置としても利用されており、2010年11月には最初の少量プルトニウム実験を実施して物議を醸している(この実験は、マスメディアなどでは臨界前核実験とは区別して「新型核実験」と呼んでいる)[3][4][5][6]。この実験は、判明しているだけで今までに12回実施されており(2014年11月の時点、最新のものは2014年10月3日実施)[7][8]、NNSAの担当者は中国新聞の取材に対して「1回の実験で使用されるプルトニウムは8g以下」と答えている[9]

2013年4月29日には、札幌市議会の金子快之議員がサンディア研究所を訪れ、Zマシンを見学している。案内した同研究所のパルスパワープログラムの責任者である Keith Matzen の「確かにプルトニウムの燃焼実験も毎日やっていますが、核兵器の開発とは全く関係ありません」「研究対象はプルトニウムだけではなく、あらゆる物質です」との説明に賛意を表し、「これは明らかに札幌市議会が抗議文を送るような施設ではありません。」との意見を表明している[10][11](札幌市はZマシンによる新型核実験に対して2012年10月3日にオバマ大統領への抗議決議を採択している[12])。

2014年4月5日に朝日新聞は、Zマシンの日本の報道機関への初公開を伝える記事において[13]、「研究所によると、実験では、X線は照射されず、核分裂反応も一切起きない。爆発に近い状態を再現しているわけではないという。」という証言を載せている。

Zマシンはニューメキシコ州アルバカーキカートランド空軍基地内にあるサンディア研究所の Area IV (または Tech Area IV)と呼ばれる拠点地域の建物番号983.mw-parser-output .geo-default,.mw-parser-output .geo-dms,.mw-parser-output .geo-dec{display:inline}.mw-parser-output .geo-nondefault,.mw-parser-output .geo-multi-punct{display:none}.mw-parser-output .longitude,.mw-parser-output .latitude{white-space:nowrap}北緯35度02分08秒 西経106度32分33秒 / 北緯35.035451度 西経106.542522度 / 35.035451; -106.542522座標: 北緯35度02分08秒 西経106度32分33秒 / 北緯35.035451度 西経106.542522度 / 35.035451; -106.542522内に設置されている[14]
Zマシンの物理学

前述のようにZマシンはZピンチと呼ばれる比較的良く知られた物理現象を用いている。Zマシンの大部分はZピンチを発生させるための、ごく短い時間幅の大電力パルスを発生させるための装置群である。

Zピンチについて簡単に説明する。空間中に十分長い2本の導体線を平行に置き、これらに同じ方向の電流を通電すると、お互いが発生する磁場と電流の相互作用によって2本の導体線を近づける方向にローレンツ力が発生する。

今度は空間中に仮想的な円柱を考え(通常その中心軸をZ軸に一致させる)、中心軸に平行に円柱の側面上に等間隔で多数の導体線を置き、2つの底辺に円盤状の導体を電極として置き、これらを電気的に接続する(鳥かごのような構造を想像してもらいたい)。このような構造物はZピンチを利用する分野ではワイヤーアレイと呼ばれていて、実際に非常によく利用されている(Zマシンもこのワイヤーアレイを使用している[15])。

ワイヤーアレイの底面を構成する2つの電極に通電すれば、各導体線には隣接する導体線との距離を縮める方向にローレンツ力が発生する。各導体線を均等に電流が流れるのであれば、各導体線にかかるローレンツ力の合力は、円柱の中心軸に向かう同じ大きさ力となる。つまりZ軸の方向にワイヤーアレイ全体を絞るような力が発生するわけであり、このためこの現象はZピンチと呼ばれている。

導体線ではなく円柱の側面全体を薄い導体(ホイル)とした導体円筒を用いてもZピンチを発生することができる。後述する Saturn を用いて行われていた爆縮ホイル実験とはこのような導体円筒を用いたものである可能性があるが詳細は不明である。導体円筒の場合には円筒の高さ方向だけでなく円周方向にも電流が流れることができるため、ホイルに加わる力は不安定になり、中心軸に正確に向かなくなるため、結局うまくいかなかったものと想像される。その状況証拠として、Saturn が成功し始めたのは、後述するようにロシア側の情報に基づいてワイヤーアレイを採用した後であり、Zマシンは Saturn を踏襲して最初からワイヤーアレイを使用している。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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