X1_(コンピュータ)
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X1 ロゴHu-BASIC(スクリーンショット)
シャープX1用フロッピー版

パソコンテレビX1(エックスワン)は、シャープテレビ事業部が製造していたパソコンの名称である。型名はCZ-800[1]シリーズ。

先行してシャープ電子機器事業部がMZシリーズを製造しており、社内的には矢板(テレビ事業部)と大和郡山(電子機器事業部)の2つの部門で全く別の製品として展開した。
X1シリーズ

X1の初代機は、1982年11月に発売された。

X1の発売当時、シャープからは部品事業部・情報システム事業部が開発したMZシリーズが既に発売されていた。また情報システム事業部では、業務用のミニコン・オフコンも開発していた。X1はそれらとは異なり、栃木県矢板市のテレビ事業部が企画した製品である。そのため、当時の一般的なパソコンとは一線を画するものになった。
テレビとの連携

「パソコンテレビ」と銘打ち、専用のディスプレイテレビまたはオプションのデジタルテロッパーと組み合わせることで、テレビ画面とパソコン画面の重ね合わせ(スーパーインポーズ)を実現した。また、パソコンのサブ電源を切っていても、80C48省電力チップ制御によりキーボードやプログラムからテレビのチャンネルや音量を操作可能で、有線リモコンのように使用できた。

キーコンビネーションによるテレビ操作(X1本体のサブ電源がオフでも操作可能)同時押しの軸キーテンキー動作
SHIFTキー1?9キーテレビチャンネルの1?9に切り替え
/,*,-キーテレビチャンネルの11?12に切り替え
←及び→キーテレビチャンネルを昇順/降順に切り替え
↑及び↓キーテレビの音量調整(PSGなどの合成音声には無関係)
0キー音声ミュート
+キースーパーインポーズON
=キースーパーインポーズOFF
,キーテレビ放送のみ表示

本体のIPL-ROM (Initial Program Loader) にテレビタイマーエディタがあり、チャンネル指定や曜日指定、毎時指定などテレビのオン/オフタイマーやチャンネルの切り替えを7件まで[注 1]プログラムできる。本体前面のサブ電源スイッチをオフにしていても内蔵マイコンによる制御で動作した。

初代機は赤/白/銀の3色のカラーバリエーションが用意された。また、AV機器のように積み重ねて使用することを想定して、本体、キーボード、ディスプレイテレビ、FDDやテロッパなどコンポーネントの横幅が39cmに統一されていた。X1Gでは本体縦置きも可能で、そのときは高さと専用ディスプレイの高さが一致するなど純正の組み合わせでは統一したデザインになる。

なお、横幅については一部オプションやX1Cシリーズ、X1G、X1twin、turboZ以降の専用ディスプレイTVは上記とは異なる。
ホビー用途の機能

同時期の汎用的なパソコンと異なり、基本仕様は前述のテレビとの連携も含めホビー要素に特化されたものとなっている。CPU速度、解像度など、基本性能としては各社横並びの性能であったが、これらの要因や機能によりホビー用途、特にゲームに強みを発揮したと言える。
テキストおよびグラフィック

テキスト画面のフォントがソフトウェア的に再定義可能なPCGになっており、ピクセルごとに任意の色が指定可能な8×8ピクセルで256種類のパターンを定義し表示可能である。また、テキストとグラフィック(B/R/Gの3面それぞれ)について優先度を任意に設定できる。これによって、フォントの書き換えタイミングに制限はあるものの、PCGを背景に利用することによりキャラクタを描画する演算のみで背景の上を動くキャラクターを表示できる。ソフトウェア的に合成が必要な競合機種と比べ、カラフルな画面構成のソフトウェアが多く発売された。なお、CRTC(画面描画LSI)は汎用のHD46505を使用していた。
サウンド

明確にホビー用途の機種以外は搭載されないかオプションとされることの多かった時期に、3重和音8オクターブのPSG機能を標準で搭載していた。しかしX1シリーズは周期的な割り込み機能が1秒単位のものしかなく、安定した曲の再生をするにはミリ秒単位での周期的なPSG操作が必要であるため、CPUクロックを計算したプログラムを記述するか、定期的に映像同期信号の変化を監視する必要がある。この問題はFM音源ボードを始めとするCTCを搭載した拡張ボードを増設するか、あるいはCTCを標準搭載したX1turbo以降で改善されることになる。
入力装置

ジョイスティックポートとしてD-sub9ピン台形のコネクタを2ポート標準搭載し、PSGのレジスタを介して各々8ビットの入出力ポートとして使用することが可能である[注 2]。コネクタ形状並びにGNDの位置はATARI仕様の物と同一になっており、カタログ上はATARI仕様準拠になっている[注 3]。8ビットのI/Oがそのまま接続されていることから電源ピンが存在せず、電源供給を必要とする連射付きジョイスティックなどの使用には別途電源が必要になる。

当時のパソコンゲームはアクションゲームなどであってもキーボードで操作するものが多かったが、X1を含め多くの機種では、複数キーの同時押しなどに一定の制限があった。X1では電波新聞社ゼビウスを発売した時にジョイスティック(XE-1)をセットにしたパッケージが用意され、他にもMSXなどで普及した規格のジョイスティックの多くが利用できた。X1Gではファミコンのコントローラーに使用感の近いもの(CZ-8NJ1)が標準添付された。
I/O空間の利用

Z80は、8080では8ビットだったI/O空間を16ビットの空間として利用できるように仕様が拡張された[注 4]。X1シリーズではこの仕様を利用し、メインメモリをバンク切り替えなどによってVRAMに割り当てる当時の一般的な実装ではなく、I/O空間に直接VRAMをマッピングした。

この実装は同じくZ80を採用したSONYのSMC-70やSMC-777などでも用いられており、メインメモリー空間のバンク切り替えを用いることなく常に64KBのメインメモリー空間と48KBのVRAM空間にアクセス可能なメリットがあった。また、初代X1と同世代であるPC-8801では、テキストVRAMをメインメモリに置きDMACにより転送することから、バス調停によるメモリアクセスウェイトが存在したため、相対的にX1はメインメモリのアクセスが高速でもあった。

その反面、直交性の低い当時のCISC CPUではI/O空間へのアドレス指定に煩雑な面が存在し、またメモリー空間と比較して読み書きに要するステート数が多いといったデメリットも存在した。加えてVRAMの配列が特殊な並びになっていることによるアドレス計算の煩雑さなどから、グラフィックス制御そのものは扱いやすいとは言い難かったが、サイクルスチール回路の導入や独立したテキストVRAM回路の設計など、システム速度の足を引っ張らない工夫がされていた。

同じパターンが書き込まれてしまうため実質画面クリアにしか利用できないものの、全3プレーン同時アクセスも可能になっている。
クリーン設計とIPL-ROM

電源投入直後、最初にIPL (Initial Program Loader) が起動し、FDD、拡張ROMボード、CMTの順にブートを試みる。それらの応答がない場合やユーザー操作によるキャンセルによりメニュー画面に切り替わり、ブートするデバイス3つとテレビタイマーのエディタの計4つから選択する画面へと遷移する。

基本設計は同社のMZシリーズ同様、本体にROMでシステムプログラムを直接を持たない、クリーン設計になっている。MZとよく似た仕組みでありながら、X1のIPLでは読み込み時はROM、書き込み時はRAMにCPUがアクセスするようにし、Z80のメインメモリのフルサイズである64KiBのデータを一度にRAMへ書き込む事を可能にしている。

初期の本体に標準搭載された二次記憶装置はデータレコーダのみであり、標準の構成では当時の一般的なシステムであったBASICの起動まで数分を要するというデメリットがあった。しかし、FDDとDISK-BASIC (CZ-8FB01) の利用や、拡張ボードとしてあらかじめBASICの書き込まれたROMを搭載したCZ-8RB01等の利用により、その時間を短縮することが可能だった。ROMボードを用いた場合でも直接メモリ空間にマッピングされるのではなく、IPLによってボード上のデータがRAMに展開されてから起動した。

本体内蔵のデータレコーダーの速度は2700bpsで、同時期の競合製品の2?3倍という転送速度を誇り、同社MZシリーズの一部に由来する電磁制御の可能なデッキはプログラムで頭出しやデッキオープンなどの制御が可能になっている。これらの機能を活かすことで、競合機種ではFD版のみで提供されたソフトが、X1では廉価なテープ版でも提供されることが多い傾向にあった。但し、フロッピーディスクと比較した場合高速とは言いがたいシーケンシャルデバイスのテープ版のゲームがFD版と同様の快適さで遊べるかどうかは別問題であり、テープ版ではデータを減らすために仕様が異なる実装のゲームもあった。

比較的初期のX1D(第3世代)に標準搭載された3インチフロッピーディスク[注 5]が国際的にも(8インチFDに代わり)大幅にシェアを伸ばした5.25インチミニフロッピーディスクに押され、X1D及び外付け3インチFDDは廃止、X1turboの登場時に5インチFDDを採用するといった紆余曲折や、純正FDDの価格が高価だったことなどの要因があり、FDによるソフトウェア資産が出そろうのを遅らせ、カセットテープとFDで分散、あるいは両方の媒体で提供されることとなった。

これらはMZシリーズでも同様の傾向があり、標準搭載のデバイスがデータレコーダの時期が長く、割高なFDDへの移行は緩やかなものとなっていた。
リセットボタン

X1turbo発売以前のX1シリーズには、NMIリセットボタンのみしか装備されていなかった。NMI (Non Maskable Interrupt) リセットは、Z80 CPUに強制割り込み信号を送り特定のアドレスにジャンプさせるもので、ホットリセットを行う目的がある。X1ではそれを積極的にリセットスイッチとして利用した。しかし、ジャンプ先アドレスはZ80の仕様として0x0066番地で固定されており、市販のソフトウェアでNMIリセットを行うと、リセットを想定していないソフトウェアではフリーズしてしまうなど意図しない動作を起こす。これを逆手に取り、NMIリセットのジャンプ先に故意に裏技となるものを仕込んでおくゲームも見られた。

X1turbo及びX1Fより、IPLリセットボタンが追加された。これは電源投入時とほぼ同じ挙動をさせ、IPLを呼び出す再起動用のリセットボタンである。リセット時に明示的にメモリがクリアされることは無いため、起動時に利用されない空間の内容については保持されている。
その他基本仕様

CPUにはZ80A(クロック4MHz)を採用し、割り込みは強力なモード2を使用した。ただし内部割込みはキー入力のみで、タイマ割り込みなどはなかった。

サブCPUとして80C49を搭載し、キーボード内の80C48との通信やデータレコーダの制御などに使用した。シリアル通信を採用したことに関連し、設計上キーマトリクスの取得ができず、Shiftなどを除きキーの同時押しは検知できなかった。キーボード分離型では接続コネクタに3.5mmの3極ミニフォーンプラグを使用していた。

シャープとハドソンの共同開発による Hu-BASIC が標準添付された。当時の水準では柔軟な記述を許容するなど、扱いやすく高機能なものだった。しかし、塗りつぶしなど一部の描画ルーチンの最適化が甘かったためグラフィック描画の遅さが目立ち、またFD版でなくとも毎回テープから起動する必要があったことと相まって、「X1は遅い」という誤解を招くことになった。


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