Wikipedia:名誉毀損の主張があった場合の法的状況の判断と法的対応に関する議論
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・公共の利害に関する事実でないこと又は公益目的でないことが明らかであるような誹謗中傷を内容とする情報」

「逆に、以下のような場合には、「相当な理由があるとき」には該当せず、関係役務提供者は責任を負わないものと考えられる。
・他人を誹謗中傷する情報が流通しているが、関係役務提供者に与えられた情報だけでは当該情報の流通に違法性があるのかどうかが分からず、権利侵害に該当するか否かについて、十分な調査を要する場合
・流通している情報が自己の著作物であると連絡があったが、当該主張について何の根拠も提示されないような場合
・電子掲示板等での議論の際に誹謗中傷等の発言がされたが、その後も当該発言の是非等を含めて引き続き議論が行われているような場合」

さて、ここで問題となっているのは「xxxxxxxxxxxxxx」及び「xxxxxxxxxxxx」という二つの表現です。この表現に公益目的があるとは考えづらいですし、また、書き込みを読むだけで違法性の判断が可能ですから、「十分な調査を要する場合」ともいえません。「その後も当該発言の是非等を含めて引き続き議論」が行われれば別という考え方もあるかもしれませんが、これは、おそらく「あの企業はひどい企業だ」とかそういう種類の誹謗中傷を念頭においた具体例だと思いますから、この場合とパラレルに考えられるようなものではないと思います。

結局、本件事案は、1項の場合に該当せず、管理者の方々は、当該発言を残しておくと、不法行為責任に問われるリスクを回避できないことになります。したがって、削除が必要になるわけですが、削除した場合に今度は甲さんの表現の自由(憲法21条)を侵害してしまう(その結果、民法709条、710 条により損害賠償責任を負う)リスクがあります。このリスクを回避するためには、プロバイダ責任制限法3条2項の要件を満たし、法定の免責を得る必要があります。

それでは、2項の条文をみて要件を検討していきましょう。
第2項

第2項の条文は、次の通りです。

2特定電気通信役務提供者は、特定電気通信による情報の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、賠償の責めに任じない。
 一 当該特定電気通信役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき。
 二特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者から、当該権利を侵害したとする情報(以下「侵害情報」という。)、侵害されたとする権利及び権利が侵害されたとする理由(以下この号において「侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し侵害情報の送信を防止する措置(以下この号において「送信防止措置」という。)を講ずるよう申出があった場合に、当該特定電気通信役務提供者が、当該侵害情報の発信者に対し当該侵害情報等を示して当該送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会した場合において、当該発信者が当該照会を受けた日から七日を経過しても当該発信者から当該送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。

問題となる要件を順に検討しましょう
「次の各号のいずれかに該当するとき」

今回の件では、乙さんは「侵害情報の送信を防止する措置を講ずるよう申出」ているわけではありませんから、2号の場合には該りません。検討する必要があるのは、1号です。この点に関して、逐条解説は次のように解説しています(以下引用)。

(i)「権利が不当に侵害されている」

「権利が侵害されている」とは、民法第709条の「他人ノ権利ヲ侵害シタル」と同義であるが、「権利が不当に侵害されている」とは、単に違法な権利侵害があることに加えて、正当防衛のような違法性阻却事由等がないことをも含む意である。これは、表現の自由との関係で本項の要件についてはできる限り限定的に規定することが望ましいことによるものである。また、一般的に不法行為における違法性阻却事由についての主張・立証責任は加害者側にあるとされているが、本条においても、特定電気通信役務提供者が違法性阻却事由がないことを主張・立証するのではなく、その情報の発信者が違法性阻却事由があることを主張・立証することになる。

(ii)「信じるに足りる相当の理由があった」

特定電気通信役務提供者が情報の送信を防止するための措置を講じている場合には、当然、当該情報が他人の権利を侵害するものと考えた上で措置をしているはずであるが、当該情報が他人の権利を侵害するものでなかった場合であっても、通常の注意を払っていてもそう信じたことが止むを得なかったときには、責任を負わないこととするものである。どのような場合に「相当の理由」があるとされるのかは、最終的には司法判断に委ねられるところであるが、例えば、次のような場合は、相当の理由があるものとされよう。
・発信者への確認その他の必要な調査により、十分な確認を行った場合
・通常は明らかにされることのない私人のプライバシー情報(住所、電話番号等)について当事者本人から連絡があった場合で、当該者の本人性が確認できている場合

(以上引用、逐条解説15頁)

違法性阻却事由については、民法720条が定めています。「他人ノ不法行為ニ対シ自己又ハ第三者ノ権利ヲ防衛スル為メ已ムコトヲ得スシテ加害行為ヲ為シタル」場合(1項、正当防衛)、「他人ノ物ヨリ生シタル急迫ノ危難ヲ避クル為メ其物ヲ毀損シタル場合」(2項、緊急避難)ということですが、今回の甲さんの行為はいずれにも該当しないように思います。いずれにせよ、解説にもある通り、甲さんが立証する事柄です。

(ii)については、相当な理由が認められるだろう例として、「発信者への確認その他の必要な調査により、十分な確認を行った場合」が挙げられています。ですから、管理者の方々は、甲さんにきちんと確認をとってから消去するのが無難です。
「当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合」

管理者による削除は、「当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において」行われなければなりません。本件の場合には、「xxxxxxxxxxxxxxx」及び「xxxxxxxxxxxxxx」という部分のみが問題となっているわけですから、原則として、この部分のみを削除する必要があります。技術的にそういうことが可能なのであれば、そうすべきですし、それが可能であるにもかかわらず、特定の版をまるまる削除してしまうと、免責を受けられない可能性があります。もしそのようなことが不可能であるのであれば、特定の版をまるまる削除するしかありませんが、その場合でも、その版から当該発言のみを取り除いた版を新たに作成し、それをアップロードするということをしておくとよいと思います(そういうことは技術的に可能なわけですから)。

ちなみに、逐条解説は、「特定電気通信役務提供者が故意に他人の権利を侵害するとされる情報を隠匿する目的で複製をすることなく論理的に消去した場合などは、必要な限度を超えているものと解されることとなろう」「このように規定しているのは、その情報やその情報の流通に関する情報に証拠として意味がある場合があることにも配意したものである」と言っていますから(14頁)、削除する版についてはどこかに複製しておく必要があります。「不特定多数に対する送信を防止」すれば構わないわけですから、管理者のような特定の者のみが閲覧できるという状態は、問題ありません。
まとめ、例外

以上、管理者のとるべき措置について論じてきました。まとめて言えば、「甲さんに確認をとり、複製をして、該当部分のみを削除する」 のがプロバイダ責任制限法による免責を受けるために必要な行為であるということになります。なお、甲さんは、当該発言の発信者に該当するため、プロバイダ責任制限法3条1項但書により、当該法律による免責を受けることはできません。通常の不法行為法によって不法行為の成否は検討されます。

それから、さしあたりプロバイダ責任制限法4条に関するコメントはしていません。



条文

特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
公布:平成13年11月30日法律第137号
施行:平成14年5月27日

(趣旨)
第一条 この法律は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合について、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示を請求する権利につき定めるものとする。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 一 特定電気通信 不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。以下この号において同じ。)の送信(公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信を除く。)をいう。
 二 特定電気通信設備 特定電気通信の用に供される電気通信設備(電気通信事業法第二条第二号に規定する電気通信設備をいう。)をいう。
 三 特定電気通信役務提供者 特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいう。
 四 発信者 特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し、又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者をいう。

(損害賠償責任の制限)
第三条 特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下この項において「関係役務提供者」という。)は、これによって生じた損害については、権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、次の各号のいずれかに該当するときでなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は、この限りでない。
 一 当該関係役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき。
 二 当該関係役務提供者が、当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。
2 特定電気通信役務提供者は、特定電気通信による情報の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、賠償の責めに任じない。
 一 当該特定電気通信役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき。
 二 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者から、当該権利を侵害したとする情報(以下「侵害情報」という。)、侵害されたとする権利及び権利が侵害されたとする理由(以下この号において「侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し侵害情報の送信を防止する措置(以下この号において「送信防止措置」という。)を講ずるよう申出があった場合に、当該特定電気通信役務提供者が、当該侵害情報の発信者に対し当該侵害情報等を示して当該送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会した場合において、当該発信者が当該照会を受けた日から七日を経過しても当該発信者から当該送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。

(発信者情報の開示請求等)
第四条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
 一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
 二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
2 開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。
3 第一項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。
4 開示関係役務提供者は、第一項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。

さしあたり以上です。T. Nakamura 04:52 2003年12月22日 (UTC)

日本法上不法行為でなくとも、フロリダ州において損害賠償を命じる判決が確定した場合には、準拠法に関する問題を経るまでもなく、外国判決の執行としてフロリダ州の判決を日本国内において執行することが可能ですから、日本法またはフロリダ州法の一方において免責されれば足りるとするのは不正確な表現であるかと思います。Falcosapiens 08:56 2003年12月22日 (UTC)Falcosapiensさんのような専門家でもお読み落としになるのですから、おそらく私の書き方が分かりにくかったのでしょう。


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