V8エンジン
[Wikipedia|▼Menu]
1970年にはストロークアップにより排気量を6.75Lとし2020年にベントレー・ミュルザンヌが生産終了するまで現役となっていた。現在においてはツインターボ化やOHVながら可変バルブタイミング機構を採用するなど近代化を施して時代の要求に対応していた。本エンジンは現在販売されている車両に搭載されているエンジンとしてはV型8気筒という括りを除いても最も長寿なエンジンの1つとなっていた。
グラース
戦後自動車業界に参入、超小型車「ゴッゴモビル」のメーカーとして業績を上げたが、1962年以降普通乗用車クラスにも進出、1965年に既存直列4気筒2基を組み合わせた設計のV型8気筒SOHCエンジンを搭載した流麗な高級車「2600GT」を発売した。新興の同社は市場競争力を欠いて1967年にはBMWに救済合併され、販売不振の2600GTも1968年には生産中止された。
フェラーリ
創業当時からV型12気筒エンジンの市販車を製造していたが、その後ポルシェが比較的安価なスポーツカーの911を発売しそれがよく売れたため、フェラーリもV型6気筒の安価な車種を発売しその後V型8気筒の車種を発売した。V型8気筒フェラーリはいわゆるスモールフェラーリとして、ラインナップに定着した。

またヨーロッパでは、アメリカ製V型8気筒エンジンを輸入搭載した高級車・スポーツカーが1950年代から1970年代に多数輩出されている。アラード、ACコブラ、ブリストル、ジェンセン、サンビーム・タイガー(以上イギリス)、ファセルモニカ(フランス)、オペル・ディプロマット(ドイツ)、イソ・グリフォ、デ・トマソ・パンテーラ(以上イタリア)、モンテヴェルディ(スイス)などが挙げられる。いずれも少量生産車で、大型エンジンをわざわざ自社開発するより、強力で信頼性の高いアメリカ製V型8気筒エンジンを輸入搭載する方が容易であったという事情がある。一部のスポーツカーメーカーでは、アメリカ製V型8気筒がOHVレイアウトで低重心であるという点にも着目していた(欧州のスポーツカーエンジンは早くからOHC、DOHC主流でやや背が高くなった)。
ヨーロッパでのV型8気筒エンジンの一般化

1960年代以降、ロールス・ロイスやメルセデス・ベンツなど著名な高級車メーカーが、大型車用の大排気量エンジンにV型8気筒を用いるようになった。エンジンの高速化やシャーシへの搭載しやすさなどを考慮すると、従前主流であった大排気量直列6気筒よりもV型8気筒の方が有利であるためである。ロールス・ロイスはアメリカ車から、メルセデスはBMWから影響を受けてそれぞれにV型8気筒を開発しているが、この時期になるとV型8気筒エンジン自体がありふれたレイアウトとなり、ノウハウも蓄積されたことで、従前に比してその開発は事大視されなくなった。

その後、衝突安全対策の見地から、1980年代以降もヨーロッパや日本に残存していたフロントエンジン・リアドライブの直列6気筒車はBMWを除いて衰退し、代わってV6およびV型8気筒が広く搭載されるようになった。近年はコンピューターを用いた振動解析で、工作精度の改善やバランスウエイト配置の適切化が進展し、乗用車用としての実用上はV型12気筒等と比較しても遜色ない水準のV型8気筒エンジンが製造できるようになっている。世界的に見ても、4L前後のクラスの量産型高級車ではV型8気筒が主流のエンジンであり、構造が複雑なV型12気筒エンジンを用いる自動車は、一部メーカーの特殊な高級車や超高級スポーツカーの範疇に限られるようになっている。2000年代には6L以上の大排気量とツインターボを備えるV型8気筒エンジンが、1,000馬力以上の高出力を発生させる常套手段となった。
日本のV型8気筒

乗用車用としては1964年にトヨタ自動車が既存のクラウンのボディを拡幅、これにアルミニウム製の2.6L V型8気筒OHVエンジンを新規開発して搭載したクラウン・エイトが最初である。のちこれを3.0Lに発展させる形で1967年にはやはりV型8気筒エンジン搭載車のセンチュリーが開発された(2代目は5.0L V型12気筒エンジンになった)。一方日産は1965年に4.0L V型8気筒エンジン車のプレジデントを開発している。いずれも少量生産の特殊な高級車であり、一般的な存在ではなかった。

1980年代後半以降、トヨタと日産は量産型の高級車・上級車にV型8気筒エンジンを搭載するようになり、トヨタ・セルシオ(レクサスLS)に見られるように静粛性とスムーズさで世界的に注目されるV型8気筒エンジンを開発するようにもなった。しかし3?4気筒、排気量0.66?2.0 Lが主力である日本の乗用車向けエンジンの中ではV型8気筒エンジンは相当に大型なカテゴリーに属し、乗用車分野では21世紀初頭の現在まで、大型車を生産するトヨタ、日産、三菱の三社みが手がけていたに過ぎない。2010年に4代目日産・シーマが生産終了して以降、国内向けではトヨタ一社が生産しているのみである。

大型車においては1960年代に三菱MAR820高速バス仕様車に搭載されたことが始まりで、高速道路網の拡充を受けて、観光タイプや大型トラックの主力エンジンとして普及した。その後いすゞV型10気筒に移行したが、後にはV型8気筒に回帰、1995年から2005年にかけてはキュービックエルガの大型路線バス(LV280,380系等)にも搭載された。しかし年々厳しくなる排出ガス規制の波には勝てず、最後の牙城だった観光バスもターボ付き直列6気筒に転換され、またいすゞ・エルガの天然ガス自動車のV型8気筒エンジン搭載モデルも2007年11月に直列6気筒エンジンに変更された[注釈 4]。現在日本で新車購入が可能なV8エンジン搭載の大型車は、スカニアの重トレーラー用トラクターのみである[2]
モータースポーツ

1950年に開幕したF1世界選手権ではV8は最初はほとんど採用されていなかったが、1960年代にクライマックスやBRM、レプコなど採用するコンストラクターが増加。そして1967年にV8自然吸気のフォードコスワースの名機DFVエンジンが登場し、フェラーリ以外のエンジンを駆逐した。以降1980年前後にターボエンジンが台頭するまで長らく選手権を支配し、史上最多の155勝を記録した。またDFVの派生型は北米チャンプカー・ワールド・シリーズ(現インディカー・シリーズ)やF2/F3000でもベンチマークとして1990年頃まで多数のエントラントが使用した。

インディ500では1963年にフォードがV8インディアナポリスエンジンプッシュロッド型で、当時無敵であったオッフェンハウザーの4.2L 直列4気筒16バルブエンジンと互角に戦い、1965年には後継の32バルブ型で勝利。先述のDFVの派生型であるDFXに切り替えてからは完全に覇権を手中に収めた[3]。1980年代後半からGMイルモアなども台頭するが、それらもV8エンジンで、以降も長らくV8エンジンの時代が続いた。

世界ラリー選手権(WRC)ではメルセデス・ベンツの450 SLCがV8エンジンのラリーカーとしてアフリカラウンドで優勝するなど活躍。フォードと使い分けたビョルン・ワルデガルドが1979年にドライバーズチャンピオンとなっている。またフェラーリ・308もラリーでしばし好成績を残した。

日本では1960年代に日産・R391が米シボレー製の、トヨタ・7がヤマハと共同開発したV8をそれぞれ採用していた。富士グランチャンピオンレースではDFVも持ち込まれるようになり徐々に浸透。グループC後期の全日本スポーツプロトタイプカー耐久選手権(JSPC)ではトヨタ・日産ともにV8ターボで活躍した。CARTではホンダ・トヨタ・日産(インフィニティ)がV8自然吸気で参戦した。

2000年?2010年代初頭にかけては従来からV8のNASCARやCART/IRLに加え、F1GP2、ドイツのドイツツーリングカー選手権(DTM)、日本のSUPER GT(GT500)/フォーミュラ・ニッポン、豪州のスーパーカーズ選手権ストックカー・ブラジルアルゼンチンスーパーTC2000、耐久のLMP2 / LMP3などのビッグカテゴリがこぞってNAのV8のみを指定する形となり、全盛期を迎えた。

しかし2010年代半ば頃から環境意識の高まりと共にダウンサイジング化の波が訪れ、上記のカテゴリのほとんどがV6ないし直4ターボへと置き換えている。グループGT3を中心とした市販スーパーカーをベースとするカテゴリでは2020年現在もV8が健在であるが、こちらも徐々にベース車の6気筒ターボへの移行が進んでいる。しかしこうした流れの中でもアメリカのレーシングカーではV8の人気は根強く、2024年現在もNASCARやLMDh、GT3、スーパーカーズ選手権などでアメリカ製V8の採用が続いている。

フォーミュラカーレースではエンジン設計の特性上、甲高いサウンドとなるV8やV10[4]を望むファンの声は依然として多く、スーパーフォーミュラでは直4ターボでV8自然吸気のサウンドを再現しようという動きもある[5]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:70 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef