TGFβ
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TGF-βのコンピュータグラフィクス。TGF-βは3つの異なるアイソフォームからなるサイトカインで、細胞増殖、分化、接着、遊走を含む多くの細胞機能を調節する。

TGF-β(: transforming growth factor β、トランスフォーミング増殖因子β、形質転換増殖因子β)は、TGF-βスーパーファミリーに属するサイトカインであり、多くの機能を有する。TGF-βファミリーにはTGF-βの3つのアイソフォーム(TGF-β1から3、ヒトではそれぞれTGFB1、TGFB2(英語版)、TGFB3(英語版)遺伝子にコードされる)や他の多くのシグナル伝達タンパク質が含まれる。TGF-βは全ての白血球系統の細胞で産生される。

活性化されたTGF-β複合体は、TGF-β受容体(英語版)に結合する。TGF-β受容体は受容体型セリン/スレオニンキナーゼであり、I型とII型の受容体サブユニットから構成される。TGF-βの結合後、II型受容体型キナーゼはI型受容体型キナーゼをリン酸化して活性化し、I型受容体型キナーゼはシグナル伝達カスケードを活性化する[1]。これによって下流のさまざまな基質や調節タンパク質が活性化され、分化走化性、増殖や多くの免疫細胞の活性化に機能するさまざまな標的遺伝子の転写が誘導される[1][2]

TGF-βは、他の2つのポリペプチド、LTBP(英語版)(latent TGF-β binding proteins)とLAP(latency-associated peptide)と複合体を形成した潜在型の形態でマクロファージを含む多くの細胞種から分泌される。プラスミンなどの血清プロテアーゼは複合体からの活性型TGF-βの放出を触媒する。こうした活性型TGF-βの放出は多くの場合、潜在型TGF-β複合体がCD36(英語版)とそのリガンドであるトロンボスポンジン1(英語版)(TSP-1)を介して結合したマクロファージ表面で行われる。マクロファージを活性化する炎症刺激は、プラスミンの活性化を促進することで活性型TGF-βの放出を促進する。また、マクロファージは形質細胞から分泌されたIgG結合型の潜在型TGF-β複合体をエンドサイトーシスし、活性型TGF-βを細胞外液へ放出する[3]。TGF-βの主要な機能は、炎症過程、特に腸での過程の調節である[4]。TGF-βは幹細胞の分化や、T細胞の調節や分化にも重要な役割を果たしている[5][6]

TGF-βは免疫細胞や幹細胞の調節や分化に関与しているため、がん自己免疫疾患感染症の分野で多くの研究が行われている。

TGF-βの発現の増加は多くのがんで悪性度と相関しており、その免疫抑制機能は間接的に腫瘍の成長に寄与するほか、腫瘍細胞ではTGF-βに対する増殖抑制応答のみが選択的に失われていることもある[7]。免疫抑制機能の調節異常は自己免疫疾患の病理への関与も示唆されているが、その作用は他のサイトカインが存在する環境によって媒介される[4][8]
構造

哺乳類のTGF-βは3つの主要なタイプが存在する。

TGF-β1 ? TGFB1[9][10]

TGF-β2(英語版) ? TGFB2[11][12]

TGF-β3(英語版) ? TGFB3[13][14]

鳥類では4番目のメンバーであるTGFB4、カエルでは5番目のメンバーであるTGFB5が同定されている[15]

TGF-βの各アイソフォームのペプチド構造は高度に類似している。これらはすべて大きな前駆体タンパク質としてコードされており、TGF-β1は390アミノ酸、TGF-β2とTGF-β3は412アミノ酸からなる前駆体として産生される。これらの前駆体は、細胞からの分泌に必要な20?30アミノ酸のN末端シグナルペプチド、LAP(latency associated peptide)と呼ばれるプロ領域、タンパク質分解によるプロ領域からの遊離後に成熟型TGF-β分子となる112?114アミノ酸のC末端領域から構成される[16]。成熟型TGF-βタンパク質は二量体化し、多くの保存された構造モチーフを持つ25 kDaの活性型タンパク質となる[17]。TGF-βにはファミリー内で保存された9つのシステイン残基が存在する。そのうち8つはタンパク質内でジスルフィド結合を形成し、TGF-βスーパーファミリーに特徴的なシスチンノット構造を形成する。9番目のシステインは他のTGF-β分子とジスルフィド結合を形成し、二量体を形成する[18]。TGF-βの他の保存された残基の多くは、疎水的相互作用によって二次構造を形成すると考えられている。5番目と6番目の保存されたシステインの間の領域はTGF-βタンパク質で最も多様性の高い領域であり、タンパク質表面に露出して受容体への結合とTGF-βの特異性に関与していると考えられている。
潜在型TGF-β複合体

3種類のTGF-βはすべて、プロペプチド領域を含む前駆体分子として合成される[19]。合成後の段階では、TGF-βホモ二量体はTGF-β遺伝子産物のN末端領域に由来するLAP(latency associated peptide)と相互作用し、SLC(small latent complex)と呼ばれる潜在型複合体を形成している。この複合体はLTBP(latent TGF-β-binding protein)と呼ばれる他のタンパク質と結合するまで細胞質にとどまる。LTBPとの結合によってLLC(large latent complex)と呼ばれるさらに大きな潜在型複合体が形成され、細胞外マトリックスへ分泌される[20]

ほとんどの場合、LLCが分泌される前にTGF-β前駆体のプロペプチド領域(LAP)は切断されるが、TGF-βと非共有結合的に結合したままの状態となっている[21]。分泌後、TGF-βはLTBPとLAPの双方を含む不活性な複合体として細胞外マトリックスにとどまり、活性型のTGF-βの放出にはさらなるプロセシングが必要である[22]

LTBPには4つのアイソフォームLTBP1(英語版)、LTBP2(英語版)、LTBP3(英語版)、LTBP4が知られている[23]


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