TCR(ティーシーアール)とは、国際自動車連盟(FIA)のもと、世界スポーツコンサルティング(WSC)が運用しているツーリングカーレース車両の規定である。
概要フォルクスワーゲン・ゴルフGTi
2014年7月に、フォーミュラカーに倣い世界ツーリングカー選手権(WTCC)の改造範囲を広げた新型マシンを「TC1」、改造範囲の狭い旧型マシンを「TC2」とし、さらにその下に「TC3」を創設してツーリングカーレースのピラミッドを築く構想が発表された[1]。同年12月にはTC3の名称が「TCR」に変更され、2015年からインターナショナルシリーズ、アジアシリーズ、ポルトガルシリーズなどがスタートした[2]。
すでに同様のコンセプトで成功を収めていたグループGT3の例もあって、たちまちメーカー・プライベーターの注目を集めて大活況の様相を呈している。その範囲はピラミッド頂点のTC1のようなスプリントレースに留まらず、24時間級の耐久でも採用するレースが増えている。日本でも2017年にスーパー耐久で導入が始まった。
2017年末にはマニュファクチャラーの減少著しいWTCC(TC1/TC2)が終了し、代わってTCRインターナショナルが世界ツーリングカーカップ(WTCR)へと格上げされたが、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響なども受け参戦エントラントが減少し、WTCRも2022年限りでシリーズを終了した。
沿革
2014年 - TC3構想発表。同年TCRに改称。
2015年 - TCRインターナショナル、TCRアジアなどが開幕。
2016年 - ニュル耐久シリーズ(VLN)、ニュルブルクリンク24時間にTCR導入。
2017年 - スカンディナビア・ツーリングカー選手権(STCC)、スーパー耐久にTCR導入。
2018年 - WTCC消滅と入れ替わりに、WTCRが発足。コンチネンタル・タイヤ・スポーツカー・チャレンジ(CTSC)、ピレリ・ワールド・チャレンジ(PWC)にTCR導入。
2019年 - TCR japan シリーズ発足(スーパーフォーミュラシリーズのサポートレースとして開催)
2022年 - WTCRシリーズ終了。
2023年 - WTCRの後継としてTCRワールドツアー発足。
車両規定アウディ・TT(特例)ヒュンダイ・i30 N
2014年9月15日にレギュレーションが定められた。2016年1月22日に小さな変更が加えられている。最新のレギュレーションは2018年2月27日[3]。
ベース車はツーリングカーのFIAグループA規定に準じた車両
4または5ドア
前輪駆動
全長4.2m以上
全幅1,950mm以下
最低重量はベース車のギアボックスを搭載する場合は1,230kg、レース用ギアボックスを搭載する場合は1,265kg(ドライバーを含む)
シングルターボを装着した4気筒の量産型ガソリンエンジンかディーゼルエンジン
排気量1,750cc?2,000cc
最大出力350PS、最大トルク420Nm
ウェットサンプ式
量産車と同じ触媒
ハイブリッドシステム禁止
テレメトリ禁止
ギアボックスは量産車のものかTCRが定めるパドルシフトのレース用ギアボックス
ホイールは鋳造製のみ認められる
フロントサスペンションは量産車のレイアウトだがパーツは自由
リアサスペンションは量産車のデザインだが強化部品にすることができる
フロントブレーキは最大6ピストン、ブレーキディスク最大直径380mm
リアブレーキは最大2ピストンで量産車のアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)を使用できる
ホイールサイズはリム最大10インチ×18インチ
最低地上高80mm
トラクションコントロールシステム(TCS)などのドライバーエイドは基本的に禁止だが、許可されているレースもある[4]。
車両価格13万ユーロ(約1,670万円)以下
グループGT3などと同様に、TCR技術技術部門によってTCR規定全体でバランス・オブ・パフォーマンス(BoP)により最大エンジン出力、各ギアの最大過給圧及び回転数、最低地上高、最低重量で性能調整が行われる。さらに各シリーズごとに独自の重量調整(compensation weight)が行うことができる(WTCR[5]など)。
2018年現在アルファロメオ、アウディ、フォード、ホンダ、ヒュンダイ、起亜、スバル、オペル、プジョー、セアト(クプラブランド)、フォルクスワーゲン、ルノーなどのTCR車両が存在する。なお、各メーカーのワンメイクレース用マシンでも、TCRに近いものであれば同一クラスへの参戦を認められることもある
車両開発は大きく分けて、メーカーで全て開発生産、メーカーがファクトリーやプライベーターに開発生産を委託、メーカーが一切関わっていない完全なプライベーターの3タイプに分かれる。なおWTCRではワークスチームおよびセミワークスの参戦は禁止されている[6]。
欧州の自動車業界で電気自動車(EV)シフトが進んでいることを受け、2021年からはEV車のみで争われる「PURE ETCR」(後のFIA eツーリングカー・ワールドカップ(英語版))が創設されているほか、2023年からはハイブリッドカーによる「HTCR」規定も創設される[7]。 現行のTCRマシン[8]
主なTCRマシン
メーカー車両エンジンマシン開発補足BoP値段
アルファロメオジュリエッタ TCRアルファロメオ 1750 TBi
ウェイト:-40kg
地上高:70mm?120,000
アウディRS3 LMS DSGフォルクスワーゲン EA888 2.0 R4 TFSI
(340hp/6,200rpm, 460Nm/2,500rpm)Audi SportDSG 6速パドルシフト
最低重量 1,230kgパワー:102.5%
ウェイト:-10kg
地上高:60mm?109,000
アウディRS3 LMS SEQフォルクスワーゲン EA888 2.0 R4 TFSI
(340hp/6,200rpm, 460Nm/2,500rpm)Audi Sportパワー:100%
ウェイト:-10kg
地上高:70mm?129,000
セアト/Cupra[9][注釈 1]レオン TCR
Cupra TCRフォルクスワーゲン EA888 2.0 R4 TSI
(340hp/6,200rpm, 420Nm/2,500rpm)SEAT Sport/Cupraパワー:100%
ウェイト:-20kg
地上高:70mm?115,000
セアト/Cupra[9]レオン TCR DSG
Cupra TCR DSGフォルクスワーゲン EA888 2.0 R4 TSI
(340hp/6,200rpm, 420Nm/2,500rpm)SEAT Sport/CupraDSG 6速パドルシフト
最低重量 1,230kgパワー:102.5%
ウェイト:-20kg
地上高:60mm?95,000
ホンダシビックタイプR FK2 TCRホンダ K20C1 i-VTEC DOHC Turbo
(340hp/6,200rpm, 420Nm/3,800rpm)JAS Motorsportパワー:97.5%
ウェイト:-20kg
地上高:70mm生産終了
ホンダシビックタイプR FK7/FK8 TCRホンダ K20C1 i-VTEC DOHC Turbo
(340hp/6,200rpm, 420Nm/3,800rpm)JAS Motorsportパワー:97.5%