SSRI
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(図1)シナプス模式図(図2)SSRIの作用模式図

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(せんたくてきセロトニンさいとりこみそがいやく、英語: Selective Serotonin Reuptake Inhibitors, SSRI)とは、抗うつ薬の一種。シナプスにおけるセロトニンの再吸収に作用することでうつ症状、病気としての不安の改善を目指す薬。2009年5月現在、日本国内で100万人以上が使用していると推定されている[1]

旧来の三環系抗うつ薬は副作用があり、医者または患者によっては敬遠されていたことから、副作用を少なく・より選択的に作用することを目的として開発された。肝毒性、心・血管副作用や、鎮静作用、口渇・便秘など、抗コリン作用が原因と思われる副作用は減少したが、セロトニン症候群賦活症候群SSRI離脱症候群(中断症候群)など、従来の抗うつ剤ではあまり報告のなかった副作用が発生している。

「選択的」とは、他の神経伝達物質に比べ、セロトニンの再取り込み阻害作用のみで、アセチルコリン受容体などは阻害しないこと、ノルアドレナリン対セロトニン、及びドーパミン対セロトニン比が大きいことを意味する[2]
作用機序

シナプス前ニューロンから放出された神経伝達物質セロトニンはシナプス後ニューロンにあるセロトニン受容体に作用する。シナプス間隙に貯まったセロトニンは、セロトニントランスポーターにより再取り込み(吸収)され、再利用される。うつ状態にある人はシナプスにおけるセロトニンの濃度が低下し、セロトニン受容体にセロトニンが作用しにくい状態となっているという仮説(モノアミン仮説)がある(図1参照)。SSRIはセロトニンを放出するシナプスのセロトニントランスポーターに選択的に作用し、セロトニン再取り込みを阻害する(図2)。このことによって結果的にセロトニン濃度がある程度高く維持される。

抗うつ薬の販売者は自社製品を宣伝するために、セロトニンの欠乏によってうつ病が引き起こされており、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)が、この欠乏を正常化するとして宣伝しているが、これは監督庁による製品情報や査読論文によって裏付けられていない比喩的な説明である[3]

現在(2012年)、日本で発売されているSSRIはフルボキサミンパロキセチンセルトラリンエスシタロプラムの4種類である。なおベンゾジアゼピン系抗不安薬などと違いそれぞれ化学構造は大きく異なる。化学構造以外にも、セロトニン再取り込み阻害作用の選択性、各種受容体親和性のプロフィール、薬物代謝、血液中の蛋白結合、副作用プロフィールなども異なっており、臨床上の使用法も異なるとされる[4]
医療用途「抗うつ薬#治療効果」も参照
うつ病

2つの臨床試験のメタ分析によって、うつ病の症例の大部分を占める軽症から中等度のうつ病に対するSSRIの効果は、偽薬と比較して僅かかあるいはまったくない一方で、重度のうつ病でのSSRIの効果は臨床的に有意だということが見出された[5][6]。第二世代の抗うつ薬は、有効/無効が等しいように見える[7]

2008年、認可されている4つの新しい抗うつ薬の、アメリカ食品医薬品局(FDA)に提出された35の臨床試験を結合したメタ分析が広く報道された(SSRIのパロキセチンとフルオキセチン(日本では未認可)、非SSRI抗うつ薬のネファゾドン(英語版)(日本では未認可)、またSNRIのベンラファキシンを含む)。具体的には、軽症のうつ病に対して効果量(英語: effect size)が非常に小さく、しかし重症度に伴って増加し、非常に重度のうつ病に対しては「臨床的な有意」に達した。重症度と効果の間の関係は、医薬品の効果の増加よりも、重度のうつの患者での偽薬効果による緩和に起因したと考えられる[6][8][9][10][11][12]。この研究における統計上の基盤を疑問視する研究者もいたが、全結果を結合してデータを再分析しても、NICEの「臨床的に有意」な閾値を下回ることが見出された(ただし、パロキセチンとベンラファキシン(日本では開発中止)はこの閾値を上回った)[13][14]

2010年のレビューも、軽症から中等度のうつ病ではSSRIの効果は、偽薬と比較して非常に小さいかまったくない一方で、非常に重度のうつ病においては臨床的に有意であるとする結論に至った[5][15]

こうした研究結果を受けて、日本うつ病学会による2012年の診療ガイドラインでは、軽症のうつ病に対しては、必ずしも抗うつ薬は第一選択ではないとされている[16]
問題点「抗うつ薬#議論」も参照
副作用やリスク「SSRI離脱症候群」も参照

2004年、カーディフ大学デイヴィッド・ヒーリーによれば、「選択的」は薬理学者臨床医にとって意味が異なり、薬理学者にとってはノルアドレナリン系以外の全ての脳システムに作用し得るもので、臨床医が脳の一箇所にだけ作用すると考えているとしたら勘違いであると述べている[17]

SSRIの有効性についてはほぼ評価が確立していたが、2000年代後半には「プラセボよりは有効だが、従来考えられていたほどの効果ではない」として再検討が行われてきた[18]。SSRIの多用でうつ症状が改善する率が3割ほどある一方、悪化する例が3割というように、SSRIの反応性には個人差があることが指摘されている[19]。不安や恐怖感を高める受容体の働きを抑え、抑うつ症状を改善させるSSRIだが、人によっては衝動性を抑える受容体の働きも鈍くなるといわれている。恐怖感がなくなり、さらに衝動性が高まることにより、攻撃的な行動に駆られるのではと考えられている[20]

SSRIは新薬である、神経症からうつ病まで幅広く作用する、三環系や四環系など従来の抗うつ薬に比べ副作用が少ないなどの背景から、第一選択薬として選ぶ医療機関も多く、多用される傾向にあるが、個人によっては強い副作用が出ることもある。特に、飲み始めにより服用が逆効果になることもあり得る。服用においては、飲み始め・減薬・絶薬・依存を含め、リスクと効果を見極めつつ、個々の体質も含め慎重になされなければならない[21]

副作用として、食欲不振や増加、体重増加または減少、性欲異常などが比較的多くみられる。特にセロトニンの再吸収阻害作用が強くなるにしたがって性機能副作用は増加する。抗うつ薬の中ではSSRIは取扱が楽であるが、双極性障害(躁うつ病)では、躁転のリスクがあり、単独での使用は推奨されていない[22]

急に服薬を止めると、めまい、頭痛、幻聴など気分や体調が悪くなることがあるので、重篤な副作用が起きた場合や躁転した場合を除いて、勝手に服用をやめてはいけない。(これらの症状は一過性であり、依存や中毒ではない)このことは、同剤の添付文書にも明記されており、投薬量の増減には慎重な判断が必要である。

賦活症候群(アクチベーションシンドローム)という中枢神経刺激症状を呈することがあり、注意が必要である。症状としては、不安焦燥感、衝動性、不眠、自殺企図などがある。これらの症状にも個人差があり、必ずしもSSRIのみの抗うつ薬に現れるものではない[19]

18歳以下の若年者に投与する場合には、自殺念慮、自殺企図、凶暴化の増加が報告されている。この害作用はSSRIの適応であるうつ病や不安障害などの病態の進展との区別が難しいことから、その認識が遅れたが、プラセボ(偽薬)を対照として用いるランダム化比較臨床試験成績からその存在が明確になった[23]

2009年、偽薬効果を研究するハル大学アービング・カーシュ博士は、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、2006年の最新のデータ解析で「プラシーボと比べて、SSRIは24歳までのうつ病患者の自殺志向や自殺行動のリスクを2倍に高める」と結論を下したと述べている。24歳以上も同じだと思われるが、このデータ解析からはまだ結論が出ていない[24]。しかし、米国ではFDAの警告以降に若年者の自殺死者数が増加している。FDA警告の結果、若年者の抗うつ薬治療が少なくなり、結果として自殺者が増えたとすればかえって問題である[25]

また、近年ではSSRIの長期服用で前頭葉類似症候群(frontal lobe-like syndrome)が起こるという研究がなされている。米国精神科医、Dr.J.ZajeckaはSSRIを長期に使用した場合、無気力・無関心、疲労感、精神的に鈍い感じが残る状態に陥ることがあるとした。これらの症状は、SSRIの長期間使用により、前頭葉や脳幹のノルアドレナリンドーパミン活性が低下し起こると考えられている[26]。これらの症状が出たら処方の変更が推奨される。セルトラリンは、弱いドーパミン再取り込み阻害作用も伴うため、前頭葉類似症候群は起こりにくいとされているが、これも個人差がある[19]


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