ティコ・ブラーエが最も詳しい観測記録を残し、後世に知られたため「ティコの星」の名があるが、この星に最初に気付いたのは、ティコ・ブラーエではなく、おそらく1572年11月6日に発見したヴォルフガング・シューラー(Wolfgang Schuler)である。イタリアの天文学者フランチェスコ・マウロリーコ(Francesco Maurolico)もブラーエより前にこの星を見つけていたと言われる。
しかしティコの業績は、こうした一時的な天文現象が宇宙空間で起こったものである事を証明した点にある。中世からルネサンスにかけ、西洋キリスト教の世界観では、宇宙は神が創った完全無欠な世界で、全てが変わる事なく永遠に続き、従って彗星や新星 [注 2]のように目に見えるほどの速度で変化する現象は宇宙空間で起こったものではなく、大気中の現象に過ぎないと考えられていた。ティコはこの超新星を精密に観測し、全く位置を変えなかった事を確認し、これを宇宙空間の天体であるとする説を唱えた。 SN 1572は、元は白色矮星と通常の恒星からなる近接連星系で、白色矮星に相手の星からチャンドラセカール限界にいたるまで物質(水素)が降着して爆発したIa型であった。一般にIa型の超新星は、かに星雲を形成したSN 1054 [注 3]のようなII型の超新星に見られる典型的ではっきりとした星雲をつくらない。この超新星の残骸は、かなりかすかな星雲としてパロマー天文台で1960年代に発見され、後に衛星ROSAT 2004年10月、イギリスの科学雑誌「ネイチャー」の記事は、SN 1572の近傍におけるG2型[注 4]の恒星の発見を報じた。この星は、ティコの星となった白色矮星に水素を流入させた相手の星であると考えられる。2005年3月に出版されたその後の研究では、「ティコG」と名付けられたこの星についてさらに詳細が明らかにされた。この星は、おそらく爆発の前には主系列星で準巨星であったが、超新星爆発の影響で質量の一部が剥ぎ取られ、外層が衝撃波加熱された。またティコGは高速で固有運動をしており、これは、この星が白色矮星の対をなしていた事の最も有力な証拠である。この星は近隣の他の星の固有運動速度よりはるかに速い136 km/sで動いており、これは、超新星の爆発によって連星の一方であった白色矮星が消滅し、ティコGが宇宙空間に放り飛ばされた結果と考えられるからである。 2008年、国立天文台ハワイ観測所、東京大学数物連携宇宙研究機構、マックスプランク天文学研究所の合同研究チームにより、超新星爆発時の光が周辺の塵へ反射する現象、いわゆる「光エコー」をすばる望遠鏡で観測した結果が発表された[5]。これにより、SN 1572のスペクトルはIa型超新星に特徴的なものであり、SN 1572がIa型の中でも標準的な光度を示す超新星爆発だったこと、そして地球からの距離は約12,000光年であることが明らかとなった。
爆発の状況
現在の研究成果
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 正常な視力の人が感知し得る最も暗い星は6等星であるから、6等以下に光度が落ちた事になる。
^ 超新星も含むが、当時は超新星の概念はまだなかった。
^ 1054年におうし座に出現した超新星。日本や中国に記録が残る。
^ 恒星を光のスペクトル分析によって分類した型の一つ。我々の太陽と同じ黄色の恒星である。
出典^ a b c d e f g h i j k l “SIMBAD Astronomical Database
^ ⇒ティコの超新星に縞模様を発見ナショナルジオグラフィック ニュース
^ ⇒札幌 2011年9月・10月の星空札幌市青少年科学館
^ ⇒[1]9ページ 兵庫県立大学西はりま天文台
^ 超新星残骸ティコの起源を解明 ? ティコ・ブラーエが16世紀に観ていた超新星の謎を、今すばるが解読 ? 国立天文台すばる望遠鏡
関連項目
超新星残骸の一覧
SN 1604 - ティコの弟子ヨハネス・ケプラーが発見した超新星
外部リンク
SN 1572 - ブリタニカ百科事典
⇒Excerpt of Letter to Nature, "The binary progenitor of Tycho Brahe's 1572 supernova"
SN 1572, Tycho's Supernova
⇒The Search for the Companion Star of Tycho Brahe's 1572 Supernova
すばる望遠鏡、ティコの超新星残骸の起源を解明 - アストロアーツ、2008年12月8日
⇒GCVS
表
話
編
歴
超新星
分類
Ia型
Ib・Ic型
II型 (IIP · IIL)
関連項目
近地球超新星
擬似的超新星
極超新星
クォーク新星
パルサーキック(英語版)
構造
対不安定型超新星
超新星元素合成
P過程
R過程
ガンマ線バースト
炭素爆発
原体
高光度青色変光星
ウォルフ・ライエ星
超巨星
青色
赤色
黄色
極超巨星
黄色
白色矮星
残骸
超新星残骸
中性子星
パルサー
マグネター
恒星ブラックホール
コンパクト星
クォーク星
異種星
発見
客星
超新星の観測史
超新星に関する年表
一覧
主な超新星
超新星残骸
候補
質量の大きい恒星
主な超新星
SN 185
SN 1006
SN 1054
かに星雲
ティコ
ケプラー
SN 1987A
SN 2002cx
SN 2003fg
SN 2007bi
SN 2009dc
SN 2011fe
PTF11kx
ガム星雲
G1.9+0.3残骸