SNG_(放送)
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SNG (Satellite News Gathering) は、人工衛星通信衛星)を使う、テレビニュースをはじめとする放送番組素材収集システムのことであり、主として、放送局演奏所)外の撮影場所(現場)から番組素材となる映像(動画)、音声電波として通信衛星を経由させ、演奏所に伝送テレビ番組等に活用するためのシステムを総称したものである。もちろん「生中継」も可能である。毎日放送(MBSテレビ)のSNG中継車
背景

いうまでもなくニュースにとって速報性、同時性は命である。放送そのものがニュースのために生み出されたものと言っても過言ではなく、その開始以来、その速報性をより高めるための努力が続けられてきた。

音声のみで比較的小規模なラジオ放送と異なり、映像、音声の両方を扱うテレビ放送は、その規模の大きさゆえに小回りが利かず、テレビニュースの速報性はラジオのものと比較して、必ずしも優れたものであるとは言えなかったのであるが、日本でも昭和50年代ENG革命により、「フィルムカメラ」が「ビデオカメラ」に代わり、テレビニュースの速報性は格段に進歩した。すなわちそれまでは、現場で撮影したフィルムを放送局に持ち帰り、フィルムを現像編集してテレビニュースに用いていたのであるが、現場で使うことのできるVTRの登場により、フィルムの現像に要する手間がなくなったのである。

また、可搬型の小型多重マイクロ波送信機FPU)(フィールド・ピックアップ・ユニット)が登場し、現場の映像、音声をマイクロ波に載せて放送局まで瞬時に伝送できるようになり、テレビニュースにおいても「現場中継」(中継放送)が以前よりも容易になった。

しかしFPUではその準備、すなわちマイクロ波の伝送ルート(マイクロルート)の構築に労力と時間を要する。マイクロ波は直進性が強く、基本的に受信点の見える範囲(見通し範囲)でしか、映像、音声を伝送することができない。すなわち、遠方や、近くであっても受信点がビルや山などの影になると、受信点の見えない現場からその映像、音声を伝送するためには、障害物の上に文字通り「中継ぎ」のための中継点を必要な数だけ設けて伝送しなければならないのである。特に山国日本ではその地形的な制約により、比較的短距離のマイクロルートであっても多くの中継点を必要とする場合が多く、突発する事件事故災害などの現場中継を短時間で実現するのは困難であることが多かった。
SNGによるテレビ報道の飛躍

人工衛星を用いる通信は、地球局から直接、映像や音声などの情報人工衛星局に送り、そこを経由して再び目的地の地球局に送るという仕組みになっている。このため日本国内であれば「中継ぎ」のための中継点をわざわざ設ける必要がない。

通信衛星は地上から見上げる角度(仰角)が高く、また通信衛星にアクセスするためのアンテナは、鋭い指向性と高い利得を持っているので、日本であれば、アンテナのすぐ南側にさえ障害物が無ければ、アンテナを通信衛星に向けて、簡単に通信衛星に搭載されているトランスポンダ(送・受信機(Transmitter-Responderを縮めてTransponder)といわれる中継装置。縮めて「トラポン」とも呼ばれる。以下、トラポンと表記。)にアクセスすることができる。このため地球局の設置場所はどこにあってもかまわない。

また、トラポンからのダウンリンク波は日本各地で同時に受信することができる。すなわち僻地にある災害現場でも、その現場にさえSNG車が到着できれば、即座に現場の映像、音声を一斉に全国に伝送(配信)することができる。

テレビニュースに通信衛星を用いることの卓越した優位性は1960年代に実証され、日常のテレビニュースに応用するための開発が進められてきた。その結果としてのSNGは、テレビによる事件、事故、災害報道に革命的飛躍をもたらし、今日、必要不可欠な放送技術となった。
SNGの導入と運用形態SNGの概要

SNGは、大型であった地球局の設備が1980年代に入り小型化し、「可搬地球局」となって自動車に搭載できるようになったことで、急速にその導入が進んだ。

日本では、電波法第26条に基づく総務省告示周波数割当計画により、固定衛星通信網に用いる周波数は、電気通信業務用又は公共業務用の無線局が利用することとなっており、SNGに用いる通信衛星との通信は、電気通信事業者しか行うことができない。すなわち放送会社はSNGの衛星回線を従来のFPUなどのように「自営回線」とすることはできない。このためSNGの運用は、放送会社がこれら電気通信事業者と契約して、その電気通信事業者の名義で自己所有の地球局の免許(使用許可)を受け、通信サービスの提供を受ける形態をとる。

通信衛星に搭載できるトラポンの数には限りがあり、SNGに使用できる回線数は少ない。また通信衛星の打ち上げや維持管理等には莫大な費用がかかり、これを利用する放送会社は「回線使用料」としてかなりの経済的負担を強いられることになるため、1社が単独でその回線を長時間、占有使用するのには不向きである。またSNGは衛星放送システムと異なり、同一波での送信能力(アップリンク能力)を持つ地球局を日本各地にいくつも必要とし、これらの地球局の個々の判断による円滑なシステム運用は不可能に近い。

そこで放送系列各社でトラポンを「共同所有」、効率よく共同利用するための「統制センタ」を設け、トラポンの運用を一元管理、系列各社が番組素材を必要最小限の時間で目的の演奏所に送る運用形態が構築された。

当初のSNG回線はアナログであり、トラポンを可能な限り有効に利用するため、通常のアナログ標準テレビジョン放送に用いる番組素材伝送用として「ハーフトラポン」と呼ばれる方式が考え出され、送受信を行っていた。これは1つのトラポンの伝送帯域を2分割して運用することにより、2つのチャンネル(2回線)を得る方式であった。周波数の低い帯域側をロアーチャンネル、高い側をアッパーチャンネルなどと呼称していた。ただしこの方式では、隣接する帯域間の混信を避けるため、それぞれの帯域を狭く絞り込むことから、運用上、送信に際して特別な注意が必要であった。その後、さらなる効率化(回線数の増強)や傍受対策などのため、その回線は全てデジタル化された。

SNGには番組素材を伝送する回線(本線)とは別に、同じトラポンを経由する連絡用の回線(OW(オーダーワイヤ)回線などと呼ばれる。)があり、これを用いて演奏所と現場との連絡が行われる。話し始めるタイミング(キュー出し)もこの回線でやり取りされる。すなわちこの連絡用の回線が緊急時の現場からの中継放送などにおいては生命線となる。

しかしこの回線は本線と同じトラポンを経由するため、基本的にブッキング中、すなわち回線の時間割利用を統括するブッキングセンタ(回線予約センタ)に、本線の使用(アップリンク)を予約、割り当てられる必要最小限のトラポンのチャンネル占有使用時間中(本線の使用時間中)のみしか使用することができない。


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