SARS
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「SARS」は2002年から2003年頃に初確認された呼吸器系感染症について説明しているこの項目へ転送されています。原因ウイルスについては「SARSコロナウイルス」をご覧ください。

この項目では、2002年から2003年頃に初確認された呼吸器系感染症について説明しています。

2012年から2013年頃に初確認された感染症については「中東呼吸器症候群 (MERS)」をご覧ください。

2019年から2020年にかけて初確認された感染症については「新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)」をご覧ください。

重症急性呼吸器症候群


SARSコロナウイルス (SARS coronavirus 1; SARS-CoV-1) はこの感染症の原因病原体である
概要
診療科感染症科 (Infectious disease (medical specialty)) 
分類および外部参照情報
ICD-10U04
ICD-9-CM079.82
DiseasesDB32835
MedlinePlus007192
eMedicinemed/3662
Patient UK重症急性呼吸器症候群
MeSHD045169
[ウィキデータで編集]

重症急性呼吸器症候群(じゅうしょう きゅうせい こきゅうき しょうこうぐん、: Severe acute respiratory syndrome; SARS〈サーズ〉[1])は、SARSコロナウイルス (SARS-CoV-1) によって引き起こされるウイルス性の呼吸器疾患である。動物起源の人獣共通感染症と考えられている。ウイルス特定までは、その症状などから、新型肺炎(しんがたはいえん)、非定型肺炎(ひていけいはいえん、英: Atypical Pneumonia)などの呼称が用いられた[2][3]

2002年11月から2003年7月にかけて、中華人民共和国南部を中心に起きたアウトブレイクでは、広東省香港を中心に8,096人が感染し、37ヶ国で774人が死亡した(致命率9.6%/WHO発表)[4][5](なお、世界30ヶ国8,422人が感染、916人が死亡〈致命率11%〉とする報告もある[6])。このアウトブレイク終息後は、封じ込め宣言後いくつかの散発例があったが、現在に至るまで、新規感染報告例は無い[7][8]

現在の症例定義は、「38度以上の高熱及び呼吸困難、息切れのいずれかの症状」「レントゲン検査において肺炎の症状」を呈し、この原因が不明で、ウイルス検査で陽性となった者とされている[9]。また水様性下痢を呈する例も存在する[10]。感染経路としては飛沫感染や接触感染が考えられている[6][8]
兆候と症状

最初の症状はインフルエンザ様で、発熱筋肉痛、無気力状態 (Lethargy) 、咳嗽咽頭痛、その他非特異的症状が見られる。全患者に見られるのは38 °C (100 °F)以上の発熱だが、始まるまでには2?7日の潜伏期間が存在する[6]。この病気では粘膜病変を伴わず、咳嗽は乾性咳である[6]。SARSでは呼吸困難肺炎、またはその両方が見られることがあるが、これは一次的なウイルス性肺炎、また細菌性肺炎双方の可能性が考えられる。発熱に伴う肺病変は間質性肺炎であるが、これにはウイルスが誘導する免疫・サイトカインの関与が考えられている[6][11][12]喀痰には10億コピー/mLのウイルスが排出されるとされ、この状態では感染性が非常に高い[10]。またウイルス血症も起こしうる[10]

最重症例では、免疫反応によって、サイトカイン・ストームを引き起こすことがある[13]

消化管感染も示唆されており、糞便中にウイルスが数多く排出されるほか、10%の症例では水様性下痢が確認される[10]
診断SARS患者の胸部X線写真(CDC提供)。両肺野に不透明な領域が増え、肺炎を示唆する

2003年のアウトブレイク時、SARS感染は次のような患者で疑われた[9]

38 °C (100 °F)以上の発熱、その他の症状(咳や呼吸困難)を呈している。そして、

以下の2条件のどちらかを満たす。

10日以内に、SARS診断を受けた人物と濃厚接触している[注釈 1]

世界保健機関 (WHO) の発表で現在流行が起きているとされている地域に、渡航歴がある(2003年5月10日現在では、中国の一部、香港シンガポールカナダオンタリオ州ジェラルドトン(英語版))。

現在の症例定義では、渡航歴は問わず、「38度以上の高熱及び咳、呼吸困難、息切れのいずれかの症状」「レントゲン検査において肺炎の症状」を呈し、この原因が不明で、ウイルス検査で陽性となった者とされている[9]

感染の疑いが濃厚な患者では、胸部X線写真で非定型肺炎急性呼吸窮迫症候群などの症状、またはコロナウイルス検査での陽性所見が見られる[9][14]。WHOでは、感染の疑いが「濃厚」(英: probable)だが胸部X線写真で特徴的な症状が見られず、またELISAや免疫蛍光抗体法、PCR法などのテストで陽性となった患者について、laboratory confirmed SARS とのカテゴリを設けた[15]。胸部X線写真については、SARS患者でも像がまちまちであるが、一般的にまだらに浸潤するような不自然な像が見られることが多い[16]。初期ではX線写真で気道炎症所見を認めない[6]。臨床症状はインフルエンザマイコプラズマ肺炎に類似しており、症状のみでの鑑別は難しい[10]

確定診断にはウイルス分離、核酸検出、中和抗体の上昇などが決め手となるほか、迅速診断には咽頭ぬぐい液からのRT-PCR法LAMP法などが用いられる[10]
予防

SARSのワクチンは研究段階である(→#治療)。治療法は確立していないが、2002年の中華人民共和国でのアウトブレイク時の教訓から、一般的な感染防止策の徹底が二次感染防止に有用であることが示されている[10]。また感染経路としては、飛沫感染と直接・間接的な接触感染が想定されている[6]

SARSコロナウイルスは環境中で安定であり、中国政府対策本部からの発表によれば、紙・木などの環境中で3日間、痰や糞便中で約5日間、血液中で15日間生存するという(従来知られていたコロナウイルスでは、環境中で3時間)[6]:表38-18。また消毒用アルコール漂白剤界面活性剤での消毒で失活する[17][18]。隔離と検疫がSARS予防に重要である[19]。他にも次のような予防法が存在する。

手洗い、うがい

接触感染を媒介しうる物 (Fomite) 表面の消毒

サージカルマスクの着用

体液の接触を避ける

SARS感染者の私物を、熱した石鹸水で洗浄する(フォークスプーン類や皿などの食器類、寝具など)[20]

症状を呈した子供の出席停止措置

院内感染対策として、サージカルマスクや使い捨てガウンが有効である[21]
治療SARSコロナウイルスに感染した肺組織の写真。肺胞組織が破壊され、中央に多核巨細胞が出現している

SARSは、SARSコロナウイルスによるウイルス性疾患であるため、抗生物質は無効である。先のSARSアウトブレイク時には、この性質を逆手に用い、抗菌薬が無効であることからマイコプラズマ肺炎を否定し、その上で間質性肺炎肺線維症を防ぐためのステロイド投与・リバビリン治療が行われた[10]。但し、リバビリンは細胞培養レベルでは有効でなく、グリチルリチン甘草の成分)が有効であるとの報告がある[22]

また治療法は確立しておらず[10]対症療法として解熱薬、必要に応じた酸素吸入人工呼吸などが用いられる。SARS患者は隔離病棟に入院させる必要があるが、この際部屋を陰圧(英語版)にし、看護する側も完璧な防護をした上で、患者との不必要な接触を避けることが肝要である。

人に対し安全性・有効性の両方が確認されているワクチンは、治療用・予防用どちらでも存在しない(但し、実験動物レベルでは存在する)[22][23]。生物学的治療法の発見・開発・生産を行うNPOのMassBiologicsは、アメリカ国立衛生研究所 (NIH) やアメリカ疾病予防管理センター (CDC) の研究者と協力し、動物モデルで効果があったモノクローナル抗体を用いた療法の開発を行っている[24][25][26]。またウイルス表面のスパイクタンパク質をターゲットにしたワクチン[27]、レセプタータンパクの拮抗薬[22]遺伝子の一部を欠いた弱毒化ウイルスの利用[28]も検討されている。
予後

SARSからの回復者について中国で出された報告書では、重症の後遺症が長時間続くことが示されている。最も典型的な症状は、肺線維症骨粗鬆症阻血性骨壊死で、どれも就業や自己介護の妨げとなり得る症状である。SARSでは間質性肺炎に引き続く肺線維症が報告されているが、これを防ぐため、ステロイド系抗炎症薬の投与が行われた[10]。骨粗鬆症や骨壊死は、このステロイド剤の副作用として知られるものでもある[29][30]。隔離収容の結果、SARSからの回復後に心的外傷後ストレス障害 (PTSD) や大うつ病性障害を発症した例も報告されている[31][32]
病原体コロナウイルスの電子顕微鏡写真「SARSコロナウイルス」も参照

SARSの原因病原体・SARSコロナウイルスは、コロナウイルス科オルトコロナウイルス亜科ベータコロナウイルス属に分類され、同じ属には中東呼吸器症候群を引き起こすMERSコロナウイルスが含まれる[33]。コロナウイルスはエンベロープを持つ1本鎖RNAウイルスで、ゲノムRNAはmRNAと同じ配列のプラス鎖である[34]。また、コロナウイルスは呼吸器消化器上皮細胞に親和性を持つが、SARSコロナウイルスでは呼吸器や消化管などに発現しているアンジオテンシン変換酵素のACE2が感染のレセプタータンパクとなる[35]


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