SARS
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また消毒用アルコール漂白剤界面活性剤での消毒で失活する[17][18]。隔離と検疫がSARS予防に重要である[19]。他にも次のような予防法が存在する。

手洗い、うがい

接触感染を媒介しうる物 (Fomite) 表面の消毒

サージカルマスクの着用

体液の接触を避ける

SARS感染者の私物を、熱した石鹸水で洗浄する(フォークスプーン類や皿などの食器類、寝具など)[20]

症状を呈した子供の出席停止措置

院内感染対策として、サージカルマスクや使い捨てガウンが有効である[21]
治療SARSコロナウイルスに感染した肺組織の写真。肺胞組織が破壊され、中央に多核巨細胞が出現している

SARSは、SARSコロナウイルスによるウイルス性疾患であるため、抗生物質は無効である。先のSARSアウトブレイク時には、この性質を逆手に用い、抗菌薬が無効であることからマイコプラズマ肺炎を否定し、その上で間質性肺炎肺線維症を防ぐためのステロイド投与・リバビリン治療が行われた[10]。但し、リバビリンは細胞培養レベルでは有効でなく、グリチルリチン甘草の成分)が有効であるとの報告がある[22]

また治療法は確立しておらず[10]対症療法として解熱薬、必要に応じた酸素吸入人工呼吸などが用いられる。SARS患者は隔離病棟に入院させる必要があるが、この際部屋を陰圧(英語版)にし、看護する側も完璧な防護をした上で、患者との不必要な接触を避けることが肝要である。

人に対し安全性・有効性の両方が確認されているワクチンは、治療用・予防用どちらでも存在しない(但し、実験動物レベルでは存在する)[22][23]。生物学的治療法の発見・開発・生産を行うNPOのMassBiologicsは、アメリカ国立衛生研究所 (NIH) やアメリカ疾病予防管理センター (CDC) の研究者と協力し、動物モデルで効果があったモノクローナル抗体を用いた療法の開発を行っている[24][25][26]。またウイルス表面のスパイクタンパク質をターゲットにしたワクチン[27]、レセプタータンパクの拮抗薬[22]遺伝子の一部を欠いた弱毒化ウイルスの利用[28]も検討されている。
予後

SARSからの回復者について中国で出された報告書では、重症の後遺症が長時間続くことが示されている。最も典型的な症状は、肺線維症骨粗鬆症阻血性骨壊死で、どれも就業や自己介護の妨げとなり得る症状である。SARSでは間質性肺炎に引き続く肺線維症が報告されているが、これを防ぐため、ステロイド系抗炎症薬の投与が行われた[10]。骨粗鬆症や骨壊死は、このステロイド剤の副作用として知られるものでもある[29][30]。隔離収容の結果、SARSからの回復後に心的外傷後ストレス障害 (PTSD) や大うつ病性障害を発症した例も報告されている[31][32]
病原体コロナウイルスの電子顕微鏡写真「SARSコロナウイルス」も参照

SARSの原因病原体・SARSコロナウイルスは、コロナウイルス科オルトコロナウイルス亜科ベータコロナウイルス属に分類され、同じ属には中東呼吸器症候群を引き起こすMERSコロナウイルスが含まれる[33]。コロナウイルスはエンベロープを持つ1本鎖RNAウイルスで、ゲノムRNAはmRNAと同じ配列のプラス鎖である[34]。また、コロナウイルスは呼吸器消化器上皮細胞に親和性を持つが、SARSコロナウイルスでは呼吸器や消化管などに発現しているアンジオテンシン変換酵素のACE2が感染のレセプタータンパクとなる[35]。SARSコロナウイルスはベロ細胞(Vero E6細胞)などで細胞培養できる[35][6]。RNAウイルスではあるが、ゲノム変異はヒト免疫不全ウイルス (HIV) ほど大きなものではなく、比較的安定だと報告されている[35]。また、環境中でも比較的安定であるが(→#予防[6]、エンベロープを持つため、エーテルクロロホルムに感受性がある[34]。このウイルスはコウモリ・ヒトに感染するが、MERSコロナウイルスも同じくコウモリに感染するほか、コロナウイルスの分類では、コウモリコロナウイルスもこの2種と同じグループ2bに含まれる[36][37]
ウイルスの特定

当初、中国衛生局はクラミジア香港大学麻疹ウイルスRSウイルスと同じパラミクソウイルスを原因病原体として発表していた[3]

CDCとカナダ国立微生物研究所(英語版)は、2003年4月にSARSウイルスのゲノムを特定した[38][39]エラスムス・ロッテルダム大学の研究者たちは、SARSコロナウイルスコッホの原則が成り立つことを突き止めた[40][41][42]マカク属カニクイザル)へのウイルス感染で、SARS患者と同様の症状(具体的には鼻腔咽頭・糞便からのウイルス分離と間質性肺炎)が発生することが実験的に証明されている[6][43]

2003年5月下旬、最初の症例が出た中国広東省の地元市場で、食用野生動物を用いた研究調査が行われた[注釈 2]。この結果、ハクビシンからSARSコロナウイルスが単離されたが、ハクビシンは固有宿主ではなく、ヒトへの感染のキーとなる中間宿主だと推定された[47][48][49]


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