SARSコロナウイルス2-デルタ株(サーズコロナウイルスツー デルタかぶ、英語: SARS-CoV-2 Delta variant、別名: 系統 B.1.617.2、VOC-21APR-02)は、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の原因ウイルスであるSARSコロナウイルス2 (SARS-CoV-2) の変異株であり、系統 B.1.617の亜系統の1つである[1]。2020年後半にインドで初めて検出された[2][3]。
世界保健機関 (WHO) は懸念される変異株 (VOC) に指定し、WHOラベルではデルタ株 (Delta variant) に分類していたが、2022年7月時点でVOCから除外されている[4]。
デルタ株は、SARSコロナウイルス2のスパイクタンパク質をコードする遺伝子にT478K、P681R、L452Rの置換を引き起こす変異がある。これらのアミノ酸変異は、ウイルスの伝染性に影響を与えるだけでなく、以前に循環していた同ウイルスの変異株に対する抗体によって中和できるかどうかに影響することが明らかにされている[5]。2021年5月にイングランド公衆衛生庁(英語版) (PHE) は、デルタ株の二次発病率が系統 B.1.1.7(アルファ株)より51 - 67%高いことを示した[6] 。
デルタ株は2021年9月時点でヨーロッパやアメリカ・オーストラリア・日本を含めたアジアなど世界の広い地域で主流の株となっていた。しかし、同年末から2022年にかけてさらに感染力の強いオミクロン株に置き換わられている。 2021年5月6日、PHEはイギリスで最初に同定された系統 B.1.1.7(アルファ株)に相当する感染性の評価に基づいて、系統 B.1.617.2の分類を調査中の変異株 (VUI) から懸念される変異株 (VOC) に変更した。5月11日、WHOもこの系統をVOCに分類し、より高い感染性と中和の減少の証拠を示したと述べた。この変異株は、同年2月に始まったインドのパンデミックの第2波の原因の一部であると考えられている。その後、イギリスでの第3波にも波及している。 5月31日、WHOはこの変異株をデルタ株 (Delta variant) と命名した[7](懸念される変異株や注目すべき変異株にギリシア文字を使用する方針による)。 6月7日、シンガポール国立感染症センター
経緯
7月1日、WHOは前述のイギリスだけでなく、ヨーロッパの他の場所でも同様の影響を与える可能性があると警告した[8]。 デルタ株は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質をコードする遺伝子に変異があり、D614GおよびT478K・P681R・L452Rの置換を引き起こす。これはNextstrain 2020年10月、この系統がインドで初めて記録され、後に系統 B.1.617.2 (lineage B.1.617.2) と命名された[4][9]。2021年5月末、WHOは懸念される変異株 (VOC) や注目すべき変異株 (VOI) にギリシャ文字を使用する新しい方針を導入した後、系統 B.1.617.2に対しデルタ (δ:Delta) のラベルを割り当てた[4][7][9]。 B.1.617系統は、これまでにB.1.617.1 - 3の3つの亜系統に分類されており、このうち、B.1.617.1とB.1.617.2はWHOのラベルで、それぞれカッパ株 (Kappa variant) ・デルタ株 (Delta variant) に分類されている。 B.1.617系統は、スパイクタンパク質にL452R・D614G・P681R変異を共通に有している。また、B.1.617.3はB.1.617.1で発見されたE484Q変異を共有しているが、B.1.617.2にはE484Q変異がない。一方、B.1.617.2にはT478K変異があるが、B.1.617.1およびB.1.617.3には見られない[10][11]。 2021年4月、B.1.617.1 (VUI-21APR-01) がPHEによって調査中の変異株 (VUI) に指定された。4月後半には、他の2つの変異株であるB.1.617.2 (VUI-21APR-02) とB.1.617.3 (VUI-21APR-03) が調査中の変異株 (VUI) として指定された。欧州疾病予防管理センター (ECDC) は、B.1.617の3つの副系統すべてを注目すべき変異株 (VOI) として維持する概要を発表し、「現在の措置の変更を検討する前に、これらのB.1.617系統に関連するリスクをより深く理解する必要がある」とした[12]。 2021年5月6日、PHEは、少なくともB.1.1.7と同程度の感染・伝播性があると評価し、B.1.617.2系統を調査中の変異株 (VUI) から懸念される変異株 (VOC) に引き上げ、VOC-21APR-02 と位置付けた[13]。同年5月11日にはWHOが、B.1.617系統全体を注目すべき変異株(VOI)から引き上げて、懸念される変異株 (VOC) に分類したが、6月に入ると公衆衛生上のリスクがより大きなB.1.617.2系統のみをVOCに分類(他の2亜系統は格下げ)するように改めている[14]。この変異株は、2021年2月に始まったインドにおける第2波の感染拡大の要因の一つであると考えられている[15][16][17]。 デルタ株/B.1.617.2ゲノムには、それがコードするタンパク質のアミノ酸配列に変化をもたらす13の突然変異(いくつかの情報源によると、より一般的な突然変異が含まれるかどうかに応じて15または17)がある。それらのうち、すべてのウイルスのスパイクタンパク質コードに含まれている4種類は、特に懸念されている。 なお、系統 B.1.617の他の亜系統で見られるE484Q変異は、B.1.617.2ゲノムには存在しない[20]。 PANGO
分類
命名
B.1.617の他の亜系統「SARSコロナウイルス2の変異株B.1.617系統」も参照
変異「SARSコロナウイルス2の変異株#ミスセンス変異」も参照
スパイクタンパク質に焦点を当てたSARS-CoV-2のゲノムマップ上にプロットされたデルタ株のアミノ酸変異。
D614G - 614番目アミノ酸残基のアスパラギン酸からグリシンへの置換は、アルファ、ベータ、ガンマなどの他の感染性の高い変異株と共有されている[18]。
T478K - 478番目アミノ酸残基のスレオニンからリジンへの置換である[19]。
L452R - 452番目アミノ酸残基のロイシンからアルギニンへの置換であり、ACE2受容体に対するスパイクタンパク質のより強い親和性および免疫系の認識能力の低下をもたらす。
P681R - 681番目アミノ酸残基のプロリンからアルギニンへの置換であり、ウィリアム・A・ハゼルティンによると、「S前駆体タンパク質の活性S1/S2構成への切断を促進することによって」変異株の細胞レベル感染性を高める可能性がある[20]。
AY系統
系統 AY.1とAY.2は「デルタプラス」(Delta plus) または「ネパール株」とも呼ばれ、ベータ株にも存在するK417N変異(配列417番目の変化は、リジンからアスパラギンへの置換[22])を有している[23][24]。また、系統 AY.3はアメリカで発見され、ORF1a部位にI3731V変異を有している[25]。
2021年6月22日には、B.1.617.2にK417N変異が追加され感染力がさらに強いとされる前述の系統 AY.1(B.1.617.2.1)[26][注 1]について、インドの保健当局は懸念される変異株(VOC)に指定している[27]。既感染者やワクチン接種者の免疫(抗体)、モノクローナル抗体治療にも抵抗を示す可能性があるとされる[28][29][30]一方で、感染力や重症化リスクが高いなどこれまでの変異株より危険というデータは現時点で十分でなく、慎重に判断すべきという専門家の意見も出ている[30]。
症状「新型コロナウイルス感染症 (2019年)#症状と徴候」も参照
最も一般的な症状は、以前の標準的なCOVID-19に関連した最も一般的な症状から変化している可能性が示唆されている。感染した人々は、症状をひどい風邪と間違え、隔離する必要があることに気付かない可能性がある。報告されている一般的な症状は、頭痛、喉の痛み、鼻水、または発熱とされる[31][32]。デルタ株が新規症例の91%を占めるイギリスでは、ある研究において、最も報告された症状は頭痛、喉の痛み、鼻水であることが判明した[33]。
感染者が排出するウィルス量が多いことから、あたかも空気感染(厳密にはエアロゾル感染に該当)しているように観察されるのが特徴である[34]。
治療「新型コロナウイルス感染症 (2019年)#管理」も参照
デルタ株に感染した人への治療は、他のCOVID-19感染者と同じである。
ワクチンの効果「COVID-19ワクチン」も参照
インドの医学研究評議会(ICMR)は、COVID-19症例の回復期血清と、バーラト・バイオテック(英語版)のCovaxin(BBV152)のレシピエントが、有効性は低いものの、B.1.617を中和できることを発見した[35]。