RNA誘導サイレンシング複合体(RNAゆうどうサイレンシングふくごうたい、英: RNA-induced silencing complex、略称: RISC)は、タンパク質複合体、リボヌクレオタンパク質であり、転写や翻訳段階においてさまざまな経路を介して遺伝子サイレンシングを行う機能を持つ[1]。RISCはmiRNAなどの一本鎖RNA断片や二本鎖のsiRNAを利用して、遺伝子調節の重要なツールとして機能する[2]。RNAの一本鎖はRISCが相補的なmRNA転写産物を認識する際の鋳型として機能し、相補的なmRNAが見つかると、RISCを構成するタンパク質の1つであるArgonauteがmRNAを切断する。この過程はRNA干渉(RNAi)と呼ばれ、多くの真核生物でみられる。RNAiは二本鎖RNA(dsRNA)の存在によって開始されるため、ウイルス感染に対する防御の重要な過程として機能する[1][3][4]。 RISCの生化学的な同定は、コールド・スプリング・ハーバー研究所のグレゴリー・ハノン
発見
ハノンらは、ショウジョウバエDrosophilaの細胞において、dsRNAによる遺伝子サイレンシングに関与するRNAi機構の同定を試みており、ショウジョウバエS2細胞(英語版)をlacZ発現ベクターでトランスフェクションし、β-ガラクトシダーゼ活性によって遺伝子発現の定量を試みた。lacZのdsRNAを共にトランスフェクションすると、コントロールdsRNAの場合と比較して、β-ガラクトシダーゼ活性が大きく低下した。ここから、dsRNAは配列の相補性を利用して遺伝子発現を制御していることが示された。
その後、ショウジョウバエのサイクリンEをコードするdsRNAを用いてS2細胞のトランスフェクションが行われた。サイクリンEは細胞周期のS期への進行に必要不可欠な因子であるが、サイクリンEのdsRNAは細胞周期をG1期(S期の前の段階)で停止させた。ここから、RNAiは内因性遺伝子を標的とすることができることが示された。
さらに、サイクリンEのdsRNAはサイクリンEのmRNAのみを減少させ、同様の結果は細胞周期のS期、G2期、M期に作用するサイクリンAのdsRNAを用いた場合でも示された。このことは、RNAiの特徴である、加えられたdsRNAに対応するmRNAのレベルが低下することを示している。
mRNAレベルの低下が(他の系でのデータから示唆されるように)直接的な標的化の結果であるのかどうかを確かめるため、ショウジョウバエS2細胞をサイクリンEまたはlacZのいずれかのdsRNAでトランスフェクションを行い、その後サイクリンEまたはlacZの合成mRNAをインキュベーションした。その結果、サイクリンEのdsRNAでトランスフェクションを行った細胞でのみサイクリンE転写産物が分解され、一方lacZ転写産物は安定であった。逆に、lacZのdsRNAでトランスフェクションを行った細胞のみlacZ転写産物が分解され、サイクリンE転写産物は安定であった。これらの結果に基づいてハノンらは、RNAi機構は配列特異的なヌクレアーゼ活性によって標的mRNAを分解していることを示唆した。彼らはそのヌクレアーゼ活性を担う酵素をRISCと命名した[5]。 RNase III
RNA干渉における機能dsRNAと複合体を形成したArgonauteタンパク質のPIWIドメイン
siRNA/miRNAの取り込み