RNAポリメラーゼ
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.mw-parser-output .hatnote{margin:0.5em 0;padding:3px 2em;background-color:transparent;border-bottom:1px solid #a2a9b1;font-size:90%}RNA依存性RNAポリメラーゼも参照。

RNAポリメラーゼ[注釈 1] (RNA polymerase) とは、リボヌクレオチドを重合させてRNAを合成する酵素(RNA合成酵素)。

DNAの鋳型鎖(一本鎖)の塩基配列を読み取って相補的なRNAを合成する反応(転写)を触媒する中心となる酵素をDNA依存性RNAポリメラーゼという(単に「RNAポリメラーゼ」とも呼ぶ)。真核生物では、DNAを鋳型にしてmRNAsnRNA遺伝子の多くを転写するRNAポリメラーゼIIがよく知られる。このほかに35S rRNA前駆体を転写するRNAポリメラーゼItRNAU6 snRNA5S rRNA前駆体等を転写するRNAポリメラーゼIIIなどがあり、この三種はDNA依存性RNAポリメラーゼと呼ばれる。

また、RNAを鋳型にRNAを合成するRNA依存性RNAポリメラーゼもあり、多くのRNAウイルスで重要な機能を果たす以外に、microRNAの増幅過程にも利用される。

鋳型を必要としない物もあり、初めて発見されたRNA ポリメラーゼであるポリヌクレオチドホスホリラーゼ(ポリヌクレオチドフォスフォリレース、ポリニュークリオタイドフォスフォリレース)もそのひとつとしてあげられる。この酵素は実際には細菌細胞内でヌクレアーゼとして働くが、試験管内ではRNAを合成することができる。これを利用して一種類のヌクレオチドからなるRNAを合成し、それから翻訳されるタンパク質を調べることで初めて遺伝暗号の決定が行われた。真核生物のもつpoly(A)ポリメラーゼも同様に鋳型を必要とせず、Pol II転写産物の3'末端にpoly(A)鎖を付加することで転写後の遺伝子発現制御機構の一端を担っている。

真核生物の転写装置(RNAポリメラーゼ)は、Pol I、Pol II、Pol IIIの3種がある。それぞれ10種類以上ものサブユニットから構成される(基本的には12種)。また、古細菌のRNAポリメラーゼもサブユニット数が多く、9-14種のサブユニットから構成されている。ユーリ古細菌ではいくつかのサブユニットが省かれているが、一部のクレン古細菌には真核生物の12種類のサブユニットが全て保存されており、真核生物の持つ3種のRNAポリメラーゼの祖先型と考えられている。古細菌のRNAポリメラーゼは、Aサブユニットが2つに分かれている特徴がある。

一方で、真正細菌のRNAポリメラーゼは全体的に真核生物や古細菌のものより単純な構成である。ααββ'ωの4種5サブユニットからなるコアエンザイムに、σが会合したホロエンザイムと呼ばれる形態で正常なプロモーターを認識する。シグマ因子は遺伝子上流のプロモーター配列を認識して転写を開始する役割を担っている。
真正細菌のRNAポリメラーゼサブユニット

大腸菌のRNAポリメラーゼホロ酵素RNA polymerase holoenzyme は2分子のα (α1, 2) および1分子ずつのβ、β’、σ、ω サブユニットを含む[1]。σサブユニット以外だけでも複合体を形成し、これをRNAポリメラーゼコア酵素 (RNA polymerase core enzyme, コアポリメラーゼ (core polymerase))と呼ぶ。コア酵素は実際にRNAを合成する部位で、σサブユニット(σ因子)はコア酵素を特定の遺伝子に導き、ホロ酵素の特異性 specificity (σはギリシャ文字のs) を担うといえる[2]

それぞれの項で各サブユニットを紹介する。
αサブユニット

RNAポリメラーゼホロ酵素において2つ存在するαサブユニットは、開始段階ではプロモーターのUPエレメントの認識を担う。一方、伸長段階になるとコア酵素の会合を含む様々な活性を示す。

リチャード・グルース (Richard Grouse) らはα235 (C末端の94アミノ酸欠損。正常なαサブユニットのアミノ酸数は329であるため、94アミノ酸を失い235) およびR265C (N末端から265番目のアルギニンシステイン置換) という2つのαサブユニット変異体について実験を行った。これにより、RNAポリメラーゼホロ酵素がUPエレメントを認識しないことが明らかにされた[3]。また、グルースとリチャード・エブライト (Richard Ebright) らはタンパク質限定分解法を用いて、αサブユニットのN末端およびC末端がそれぞれ独立してα-NTD (amino terminal domain of the α subunit) およびα-CTD (carboxyl terminal domain of the α subunit) というドメインを形成することを突き止めた[4]。実験に用いられた生物は大腸菌である。N末端ドメインは8?241付近を含む28 kD、C末端ドメインは249?329(末端)付近を含む8 kDである。グルースとエブライトらはまた、両者が明確な構造 (モチーフ) をとらない、少なくとも239?251の13アミノ酸による連結鎖でつながっていることも発見した[5]

このことから、α-CTDの機能について一つの仮説が考えられる。RNAコア酵素においてほかのタンパク質と相互作用するのはα-NTDであり、αCTDは連結鎖の先でコア酵素から離れている。しかし、UPエレメントに対して強力に結合し、DNAとホロ酵素とのつながりをさらに強固に補う[5][6]。後述するRF複合体の立体構造解析から、2つあるUPエレメントのうち-40付近のものはα1が、-60付近のものはα2が連結することが示されている。
βサブユニット

β'サブユニットとともに転写産物の伸長を担う。どちらもDNAとの結合部位を持つが、βサブユニットのそれはN末端[注釈 2]近くのMet30?Met102の領域である[7]静電相互作用で弱く結合する。エフゲニー・ナドラー (Evgeny Nudler) の1996年の実験によると、DNAの-6?+1が結合標的であり、転写中この部位は融解している[8]。DNAとの接続で中心になるのは別のβ'サブユニットの結合部位であるが、βサブユニットのそれはその上流に位置する。このため、上流へと吐き出される転写産物が鋳型鎖との結合を脅かしたとしても、RNAポリメラーゼの活性に大きな影響はない。また、ナドラーの別の実験によると、βサブユニットはβ’の結合にも関わるようである[7]

ホロ酵素の活性部位を構成するタンパク質の一つであり、補因子であるMg+と結合する3つのアスパラギン酸を持つ。

βサブユニットは微生物に対する代表的な抗生物質であるリファンピシンとストレプトリジギンの直接的な作用標的である[9]。したがってこの2つの抗生物質は転写の伸長を阻害する。ただし、ストレプトリジギンは開始段階に効果があるとされている。これは、開始段階にも10ntのRNA(アボーティブ転写産物)を合成する過程[注釈 3]があり、これを阻害するためである[9]
β'サブユニット

β'サブユニットは、転写の開始段階においてRNAポリメラーゼホロ酵素が-11?+1位を巻き戻すことを助ける[9]。この巻き戻しはいわゆる開放型複合体の形成[注釈 4]であるが、その際に非鋳型鎖[注釈 5]の-10領域中にRNAポリメラーゼの結合が必要である。キャロル・グロス (Carol Gross) らの研究によると、結合はβ'の262?309のアミノ酸領域が促す[3]

伸長段階においてはRNAポリメラーゼホロ酵素のDNA結合を担う。すなわち、C末端[注釈 2]近くのMet1230?Met1273で+2?+11の領域に強く疎水性相互作用する[8]。このDNA領域はβサブユニットとの結合部位と異なり、転写中は二重らせんのままである。
σサブユニット

σ70 領域1.1
識別子
略号Sigma70_r1_1
Pfam
PF03979
InterProIPR007127

利用可能な蛋白質構造:
Pfamstructures


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