Pre-mRNA_スプライシング
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「RNAスプライシング」はこの項目へ転送されています。その他のRNAスプライシングについては「スプライシング」をご覧ください。

pre-mRNAスプライシング(プレ・エムアールエヌエー・スプライシング, pre-mRNA splicing)とは、タンパク質生合成において、転写 (生物学)で合成された一次転写産物からイントロンが除去されエクソンが結合する過程をいう。pre-mRNAとは、mRNA前駆体のことである。この過程の結果生じるRNAをメッセンジャーRNA(mRNA)といい、次の段階である翻訳でタンパク質合成の直接の引き金となる。生物学の分野でRNAスプライシング RNA splicing または単にスプライシングという時はこれを指すことが多い。図1.mRNA前駆体におけるエクソンとイントロンおよびスプライシングを受けた後の成熟mRNAの簡略図。UTRはmRNA末端にあるエクソンの非翻訳領域。
概要

タンパク質代謝において、どのタンパク質が合成されるかは基本的に遺伝子塩基配列で決定される。なぜなら、遺伝子の塩基配列はタンパク質のアミノ酸配列と対応し、タンパク質代謝の最終段階である翻訳を経ることで塩基配列が指し示す唯一のタンパク質が合成されるからである[注釈 1]。しかし、多くの真核生物の遺伝子内にはイントロン intron と呼ばれる翻訳できない配列[注釈 2]が存在し、これがアミノ酸をコードする配列であるエクソン exon [注釈 3]を分断している。このため余分な配列であるイントロンの除去を行わない限り、そのままでは正常なアミノ酸配列へと翻訳することができない。この過程は遺伝子自体であるDNAに変更を加えるものではなく、転写で合成した使い捨てのmRNA前駆体(pre-mRNA)に対して行われる。 DNA EEEEEEEEEEEiiiiiiiiiiiiEEEEEEEEEEEEE EEEEEEEEEEEiiiiiiiiiiiiEEEEEEEEEEEEE


転写 ↓ pre-mRNA EEEEEEEEEEEiiiiiiiiiiiiEEEEEEEEEEEEEスプライシング等↓ mRNA EEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE 翻訳 ↓ タンパク質 AAAAAAAA E:エクソン i;イントロン A:アミノ酸

 図2.セントラルドグマにおけるPre-mRNAスプライシングの立ち位置
スプライシング反応にかかわるイントロンの構造

Pre-mRNA スプライシングは一次転写産物上のどこで行われるのか、すなわち生物はイントロンとエクソンをどのように区別するのかは、イントロンに見られる特徴的な配列から知ることができる。その重要なエレメントは5'-スプライス部位 5' splice site 、3'-スプライス部位 3' splice site [注釈 4]、分岐部位(分岐点部位)branch point site の3つである。5'-スプライス部位と3'-スプライス部位はどちらもエクソンとイントロンの境界部分に存在し、それぞれイントロンの5'側末端と3'側末端に位置する。2つは、エクソンとスプライシングを分離する切断反応が起こるべき場所を示す。一方、分岐部位は3'-スプライス部位の数十塩基上流にあることが多く、酵母植物以外では分岐部位から3'-スプライス部位までの間にピリミジン塩基が連続する領域(ポリピリミジン配列 polypyrimidine tract)に続く。

Pre-mRNAは真核生物にありふれた生命現象であり、イントロンのエレメントの具体的な塩基配列は生物種間で異なるが、それぞれ周辺に特徴的なある程度共通した塩基配列を持つ。これをコンセンサス配列(共通配列) consensus sequence という。特に、5'-スプライス部位のGU、3'-スプライス部位のAG、分岐部位のAは最も高度に保存されている[1]。このため、このコンセンサス配列を持つ最も多いイントロンをGU-AGイントロンと呼ぶ。下図1に真核生物共通の、図4に哺乳類でのGU-AGイントロンの配列を示す[2]図3.コンセンサス配列を含むGU-AGイントロンの構造。青がエクソン(exon)、黄がイントロン(intron)である。1.3'-スプライス部位。2.ポリピリミジン配列。3.分岐部位。4.5'-スプライス部位 5' NNNNNNNAGgtragunnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnyuraynnnnnnyyyyyyyyyynagRNNNNNNNNN 3' ^   ^ ^^^^^^^^^^ ^ 5' ss      分岐部位      3' ss   ポリピリミジントラクト 図4.大文字はエクソン、小文字はイントロンを表す。核酸略号は塩基配列参照。

このほか、イントロンは多数の種類がある。現在までに発見されている8種類とその存在場所を示す[3]
GU-AGイントロン
真核生物の核内mRNA前駆体
AU-ACイントロン
真核生物の核内mRNA前駆体
グループI
真核生物の核内rRNA前駆体、細胞小器官RNA、ごく一部の細菌RNA
グループII
細胞小器官RNA、一部の原核生物RNA
グループIII
細胞小器官RNA
ツイントロン
細胞小器官RNA
tRNA前駆体イントロン
真核生物の核内tRNA前駆体
古細菌のイントロン
さまざまなRNA
スプライシング反応の中心機構(スプライソソーム)

pre-mRNAスプライシングはスプライソソーム spliceosome という巨大な分子によって成し遂げられる。これはおよそ150個のタンパク質と5個のRNAからなる酵素複合体である[4]。通常の酵素とは異なり、機能の大部分はタンパク質でなくRNAが担う。このような重要な5種類のRNA(U1,U2,U4,U5,U6)は核内低分子RNA small nuclear RNA:snRNA と総称される。ほとんどの真核生物では、核内低分子RNAはどれも100から300bp(塩基長)で、数個のタンパク質と複合体を作っている[4]。このRNA-タンパク質複合体を核内低分子リボ核タンパク質 small nuclear ribonucleoprotein particle:snRNP(スナープ)と呼ぶ。

スプライソソームにおけるsnRNPの構成はスプライシングの段階によって変わり、各段階でスプライソソームに就いたsnRNPがその時必要な独自の役割を果たす。その役割は大きく3つに分けられ、@5'-スプライス部位や分岐部位の識別、Aこの2つの部位を近づけるBRNAの決断と結合反応の触媒、または触媒の補助である[5]
U1 snRNP

U1 snRNPは5'および3'スプライス部位のコンセンサス配列とほぼ相補的な配列を持ち、スプライシングの過程で2つは塩基対を形成する。スプライソソームと一次転写産物を十分な時間、接近させておく役割だといえる。実際、この塩基対形成はスプライシングの成功に必須とされる[注釈 5]
U2 snRNP

酵母のU2 snRNPは分岐部位と塩基対を形成する。また、U6とも相補的であり、どちらの塩基対もスプライシングに欠かせない。U2とU6との塩基対はヘリックスIという構造を構築する。また、U2の5'末端とU6の3'末端は相互作用してヘリックス2を形成する。この相互作用は酵母に必須ではないが、哺乳類では少なくとも高いスプライシング効率を維持するために必要である[6]
U4 snRNP図5.U4およびU6 snRNA複合体

U4とU6はステムIとステムIIの形成に関与する。また、U4はスプライシング反応に直接参加せず、U6と結合して適当な時期にスプライソソームから解離する。その役割は、U6がスプライシングに参加するまでの間にこれを保護することであると予想されている。ステムTを形成するためにU4と塩基対形成するU6の配列は、U2との重要な配列に必要でもある。U4の解離は、U6とU2の塩基対形成によるスプライソソームの活性化の合図かもしれない。
U5 snRNP

U5 snRNPはイントロン第二の反応を成功させるように、イントロン両側のエクソンと相互作用して接近させる。U5 snRNPにはどのsnRNPともmRNA前駆体とも相補的な配列がない。SontheimerとSteitzの実験によると、第二スプライシング反応で5'末端から39-41番目にあるウリジンが、ラリアット構造とつながっているエクソン5'末端とイントロンから切り離されたエクソン3'末端の両ウリジンに結合するようである。これが接近を引き起こす。
U6 snRNP

U6 snRNPもまたU1と同様に5'-スプライス部位と塩基対形成をする。この塩基対形成についてChristine GuthrieとJoan Steitzは、U6の普遍配列ACAGAGとイントロンの+4から+6にあるUGUとの間で行われると仮定し、塩基対はスプライシングの第一の反応前から第二の反応後まで存在することを示した[7]

少なくとも二種類の酵母で、U6 snRNPの遺伝子はmRNA成熟後にも、スプライシング後に残存するタイプのイントロンによって分断されている。
スプライシングの過程図6.スプライシングにおける2段階のエステル転移反応

スプライシングでは2回のエステル転移反応 transesterification が起こる。第一に5'側で、第二に3'側でエクソンとイントロンの境界部分が切断され、イントロンはmRNA前駆体から完全に切り離される。さらに、2番目の反応は分断されていたエクソンを結合させる。このため、反応が終わると一次転写産物にはエクソンだけが残る。

第一の反応は、分岐部位の保存されたA塩基の2'炭素にあるOH(2'-OH)が5'-スプライス部位に保存されたGのリン酸基に対して行う求核攻撃である[1]


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