PM2.5
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粒子状物質の分類(マイクロメートル)粒子状物質を含んだ煙が街に広がり、大気汚染を引き起こしている。2011年5月、オーストラリア。粒子状物質を含んだ濃い煙霧スモッグ)、2010年4月、台湾。東アジアでは黄砂や人為的活動由来の煙霧の国境を超えた汚染(越境汚染)が深刻化・問題化している。

短期暴露の影響度呼吸器疾患心血管疾患全死因
PM10濃度 +10μg/m3あたり
1日当たり死亡率の増加率+1.3 %+0.9 %+0.6 %
出典:WHO メタアナリシス, 2005。
PM2.5に関しては、必要な研究データが不足しているため
メタアナリシスは行われていない[1]

粒子状物質(りゅうしじょうぶっしつ、: particulate matter, particulates)とは、マイクロメートル (μm) の大きさの固体液体微粒子のことをいう。主に、で舞い上がった土壌粒子(黄砂など)、工場建設現場で生じる粉塵のほか、燃焼で生じた排出ガス石油からの揮発成分が大気中で変質してできる粒子などからなる。粒子状物質という呼び方は、これらを大気汚染物質として扱うときに用いる。

粒子状物質は主に人の呼吸器系に沈着して健康に影響を及ぼす。粒子の大きさによって、体内での挙動や健康影響は異なる。その影響度を推し量る測定基準として、大きさにより分類したPM10やPM2.5(日本では微小粒子状物質とも言う)、日本では浮遊粒子状物質などの指標が考案された。疫学的には、粒子状物質の濃度が高いほど呼吸器疾患心疾患による死亡率が高くなるという有力な報告がある[2][3][1]。また、PM10や浮遊粒子状物質よりもPM2.5のほうが健康影響との相関性が高い[4]。これらに基づきアメリカ合衆国欧州連合 (EU)、次いで世界保健機関 (WHO)、これに続けて世界各国が、PM10やPM2.5濃度の基準値を定めている[5][6]

先進国の一部地域ではWHO指針値に近いレベルまで削減させる事に成功している一方、途上国では家庭でのの使用に加えて都市部で自動車の使用が増大して汚染が深刻化する傾向にあり、1990 - 1995年の時点で途上国の年平均濃度は先進国の3.5倍である[7]。WHOは、PM10の濃度を70 μg/m3から30 μg/m3に減らすことができれば、世界の大気汚染に関連する死亡者年間330万人を15 %減らせるだろうとしている[8]
分類PM10, SPM, PM2.5の分級(捕集効率)特性。SPMはPM6.5 - 7.0に相当する[9]衛星レーダー観測による世界のエアロゾルの光学的厚さ。粒子状物質の分布に近いが、μmより大きな粒子や小さな粒子も含む。Terra衛星、2007-2011年。

粒子状物質は、一般的には大気汚染の原因となる微粒子全般をいう[10]。大きさや生成過程、各国の法令など、いくつかの分類がある。
粒子径での分類

大きさを示すマイクロメートル単位での値を付してPM10、PM2.5などが定義されている。学術文献では下付き添字でPM10、PM2.5のように書く。数字の意味について、普通、粒子径(空気動力学径、以下同)○○μm以下(WHOの定義では「○○μm未満」[7])の微粒子などと説明されるが、ある粒子径以下の微粒子を完全に捕集することは困難であるという測定技術の都合から、厳密には質量中央径 MMD[注 1] または粒子数中央径 CMD[注 2] が○○μm以下の微粒子をいう。例えばPM10は、粒子径10μmで50%の捕集効率(ろ過効率)をもつフィルターを通して採集された、粒子径の異なる微粒子のまとまりのことであり、サンプル空気の中の10μmの微粒子の半分が含まれている。また、PM10はPM2.5を含んでいる(含有率は、例えば北米では40-90%である[11]。)環境基準値として用いられる濃度(単位:マイクログラム毎立方メートル μg/m3)は、こうして採集された粒子径の異なる微粒子のまとまりを計量した値である。

環境基準が設定され始めた当初は黒煙[注 3]や総浮遊粒子状物質 (TSP[注 4]) などの基準値が採用されていた。例えば、アメリカで1971年に設定された最初の環境基準ではTSPの基準値だけが設定されていた[12]。しかし、TSPはほとんど人が吸入しない数十μmの大きな微粒子が含まれていたので、人が吸入するようなより小さな微粒子へと焦点を移し、PM10やPM2.5が新たな基準として採用されている[13][14]。この点で日本では、1972年に設定された最初の環境基準がSPM(≒PM6.5 - 7.0)であり、当初から小さな微粒子を採用していたものの、PM2.5に関しては環境基準の設定が遅く、世界で採用され始めた1997年から12年経った2009年にようやく設定されている[15]
PM10

大気中に浮遊する微粒子のうち、粒子径が概ね10μm以下のもの。粒子径10μmで50%の捕集効率をもつ分粒装置を透過する微粒子。1987年にアメリカで初めて環境基準が設定され、以降世界の多くの地域で採用されて、大気汚染の指標として広く用いられている[16][17][18]。日本では、PM10は環境基準に採用されておらず、代わりに浮遊粒子状物質が採用されている。
PM2.5(微小粒子状物質)世界のPM2.5濃度の分布、2001-2006年、NASA。

大気中に浮遊する微粒子のうち、粒子径が概ね2.5μm以下のもの。

粒子径2.5μmで50%の捕集効率をもつ分粒装置を透過する微粒子。日本では訳語として「微小粒子状物質」の語が充てられるが、日本以外では相当する熟語はなく、専らPM2.5と呼ぶ。PM10よりも微細な汚染物質となるので、呼吸器系など健康への悪影響が大きいと考えられている[10][17][19]。また、粒子サイズが小さいので、長く大気中を浮遊していられるために、発生源から離れた場所でも汚染の影響を受けるという特徴も有する[20]

物の燃焼などによって直接排出されるものと、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、揮発性有機化合物(VOC)等のガス状大気汚染物質が、主として環境大気中での化学反応により粒子化したものがある。発生源としては、ボイラー焼却炉などのばい煙を発生する施設、コークス炉、鉱物の堆積場等の粉じんを発生する施設、自動車、船舶、航空機等、人為起源のもの、さらには、土壌、海洋、火山等の自然起源のものも含まれる[21]

PM2.5は、非常に粒子が細かいため人体内の肺胞の中に入り込み、炎症反応や血液中に混入するなどの恐れがある。アメリカ合衆国環境保護庁は、大気汚染が人体に及ぼす影響について、各地で行った調査報告を発表している。短期曝露による急性影響、長期曝露による慢性影響が、それぞれ死亡および呼吸器系疾患、循環器系疾患のリスクとどのように関係するか統計を取っている[22]

PM2.5は、1990年代にアメリカ合衆国で関心が高まり、1997年に初めて環境基準が設定されて以降、1990年代後半から採用され始め、世界の多くの地域でPM10と伴に大気汚染の指標となっている[2][18]
超微小粒子

Ultrafine particle(ウルトラファイン・パーティクル)、日本では訳語として「超微小粒子」などと呼ばれる。PM0.1など。PM2.5よりもさらに1桁以上小さい、粒子径が概ね0.1μm以下(ナノメートルの大きさ)の微粒子を指す。PM2.5と比べて健康影響が大きいとされるが、研究途上にある[23][24][3]
その他の分類煤煙で汚れた自動車のボディー、1972年アメリカ。粒子径が大きなものは滞空時間が短く、比較的速く降下して堆積する。
ディーゼル排気微粒子

ディーゼル車の排気に含まれる微粒子。(DEP[注 5] または DPM[注 6])PM2.5の大部分を占めているという研究もある[3]


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