当記事ではPortable Document Format (PDF) の歴史について概説する[1]。
PDFは1990年代のはじめにアドビシステムズ(現アドビ)により開発され、2008年にオープンスタンダードとなるまではプロプライエタリなフォーマットであった。以降は国際標準化機構の委員会に属する業界のエキスパートらによるボランティア活動でコントロールされている。 PDFは、1990年代初めに、文書共有を目的として開発された。文書の書式とインラインの図表を保持し、異なるプラットフォームのコンピュータのユーザー間で文書を閲覧するために互換性のあるアプリケーションを利用できない場合にも文書を共有できる。競合としてDjVu(開発続行中)、Envoy、Common Ground社の DigitalPaper, Farallon Replicaのほかにアドビ自身が推進するPostScript format (.ps) がある。初期、 World Wide WebとHTMLが興隆する以前のPDFの主要な用途はデスクトップパブリッシングのワークフローであった。 PDFの初期の普及の足取りは緩やかなものであった[2]。アドビのPDF閲覧・作成ソフトAdobe Acrobatは無償ではなく、また初代バージョンのPDFは文書外部へのハイパーリンクを提供しないためインターネットの特長を活かしていなかった。またプレーンテキストと比べてサイズは大きいためモデムによるダウンロードは時間がかかり、また当時ハイスペックだったPCでも表示は遅かった。 バージョン 2.0より、アドビはAcrobat Reader (現在は Adobe Reader) を無償配布するようになった。初代バージョンとの互換性は保たれており次第に書式を固定した電子文書のデファクトスタンダードの地位を確立した。 2008年にアドビのPDF Reference 1.7はISO 32000:1:2008として策定された。以後のPDF(PDF 2.0を含む)開発はIS のTC 171 SC 2 WG 8においてアドビと専門家らの協力により進められている。 1993年から2006年にかけてアドビシステムズはPDF仕様に数度にわたり新機能を追加している。アドビにより2006年以降に発効された Extension Levels 定義のいくつかの分野は ISO 32000-2 (PDF 2.0) に取り込まれた。しかし、開発者はアドビの拡張機能がPDFの標準機能ではないことを注意されている[3]。 バージョン仕様書発行年新機能Acrobat Reader のバージョン インタラクティブ、記入フォーム (AcroForm)Forms Data Format (FDF) により記入内容のインポート、エクスポートをWeb経由で行えるようになったマウスのイベント外部ムービーの再生外部または添付の音声の再生zlib/deflateによるテキストと画像の圧縮Unicode対応色管理と代替画像のサポート 3.0 電子署名ICCおよびDeviceN色空間JavaScript各種ファイルストリームの添付 (ファイル添付)注釈種類の追加Adobe PostScript Language Level 3 imaging modelで追加された機能のサポートイメージのマスク代替イメージスムージングページ番号付けの強化Webキャプチャ表示順以外に論理構造表現のサポートCIDフォントのサポート強化data structures for mapping strings and numbers to PDF objectsプリプレス分野のワークフローのサポート関数のパラメータ化クラスに対応した関数の追加Acrobat JavaScript Object Specification Version 4.054.0 透明効果OpenTypeフォント対応RC4暗号化のキー長が40ビットから128ビットまでに拡張入力フォームのインタラクティブ性の強化 (FDF)、XMLフォーム投稿、FDFファイルの添付、エクスポート時のUnicode対応、FDFファイルの共同編集と署名の追加障碍者向けアクセシビリティ機能Extensible Metadata Platform (XMP) によるメタデータストリームタグ付きPDFinclusion of printer’s marks編集時のページ境界の表示CMaps(フォント対応表)の拡充alternate presentationsPDFファイル間のインポートデータ添付のディクショナリのサポートAcrobat JavaScript Object Specification Version 5.1[10]5.0 マルチメディアの添付と再生の強化object streamscross reference streamsフォーム入力の XML Forms Data Format (XFDF) 対応(PDF 1.4のXML対応を代替)フォーム、リッチテキスト、属性をXML Forms Architecture (XFA) 2.02で記述できるようになった(静的XFAフォームのみ対応)PKCS#7公開鍵のサポート(PDF 1.3で追加されたが1.5のリファレンスに初めて記載された)、公開鍵による暗号化、アクセス許可、ユーザー権限の署名(本文を暗号化する必要がなくなった)、SHA-1、RSA鍵の4096ビットサポート独自の暗号化、復号を実装できるようになったドキュメントの一部を可視、不可視にする (CAD、layered図画、地図、多言語文書などに対応)JavaScriptで実装するスライドショー表示をサポート(Adobe Reader はScalable Vector Graphics|SVG 1.0のみ対応Acrobat JavaScript Scripting Reference, Version 6.0[13]Windows 98サポートの廃止6.0 OpenTypeフォントの埋め込みXFA 2.2 によるリッチテキストと属性のサポート (XFA 2.1 および 2.2 では以下のような分野向けに定義されている: 動的な XFA フォーム, XFA 用の W3C XML 電子署名, Web サービス, XFA 'doc-literal' HTTP 経由のSOAP対応, SOAPによるWebサービスのための WSDL 定義, 等)AES 暗号化PKCS#7 電子署名の SHA256対応,4096ビットまでの DSA 対応Nチャンネルの色空間サポートファイル添付の強化, 添付ファイルとの間の相互参照電子署名による権利管理と改竄検出 Acrobat JavaScript Scripting Reference, Version 7.0[14]7.0 (ISO 32000-1:2008 XFA 2.4によるリッチテキストと属性のサポート複数ファイルの添付 (portable collections)document requirements for a PDF consumer application新しい文字列形式: PDFDocEncoded 文字列、ASCII文字列、byte文字列PKCS#7電子署名のSHA384、SHA512、RIPEMD160対応JavaScript for Acrobat API Reference Version 8.0 (Adobe Acrobat Professional, Acrobat Standard, Reader にてAdobeが拡張した オブジェクト、プロパティについてのドキュメント)[16]8
沿革
Adobe による仕様
1.0First1993[4]Carousel[5]
1.1First, revised1994パスワード、暗号化(MD5, RC4 40ビット)、device-independent color、スレッドおよびリンク, binary format for smaller files[6]2.0
1.2First, revised1996インタラクティブなページ部品(ラジオボタン, チェックボックス等)
1.3Second[7][8]2000日本語フォントの埋め込み
1.4Third[8][9]2001JBIG2画像圧縮
1.5Fourth [8][11][12]2003JPEG 2000画像圧縮
1.6Fifth [8]20043D アートワーク( Universal 3D ファイル形式)のサポート
1.7
[15]) Sixth20063Dアートワークへの対応強化
1.7 Adobe Extension Level 11.7 Adobe Extension Level 12008XFA 2.5[17] (Extensions Level 1) およびXFA 2.6 [18](Extensions Level 2) サポート(XFA 2.6は以下のような分野向けに定義されている: XFA のセキュアな投稿、XFA Foreground (XFAF) 形式のサポート)8.1
1.7 Adobe Extension Level 3Adobe Supplement to the ISO 32000, BaseVersion 1.7, ExtensionLevel:3 [19]2008256-bit AES 暗号化