PC/AT互換機
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またCPU周辺の回路を構成する部品等については、当初は汎用のTTL等を用いていたが、市場性があるとみたLSIメーカが同等の回路を集積した安価な互換LSI等を供給し始め、後にはわずかな数のチップに集積されたチップセットが提供される様になった。これらにより合法的な互換機の作成が容易となった。

1982年には代表的な互換機メーカーであるコンパックが設立され、1983年出荷のCompaq Portableもクリーンルーム設計による互換BIOSを搭載した。さらに、1984年にはBIOSメーカーであるフェニックス・テクノロジーズ(英語版)がクリーンルーム設計による互換BIOSを各メーカーに供給開始し、後にはアメリカンメガトレンドなども参入し、合法的な互換機市場が広く形成された。
上位互換による互換機市場の確立

1986年 コンパックがIBMに先駆けて80386 CPUを採用した際に、従来のXTバスやATバスにバスブリッジを導入し、CPUのクロックと外部バスのクロックを分離した。これは後にEISA陣営によりISAバスと呼ばれ、さらにIEEEで標準化された。このことはIBMオリジナルの各モデル(CPU)のローカルなバス規格であったXTバスやATバスが標準化され、コピーから生まれた互換機が、以後は独自に高速CPUを搭載したり周辺機器を設計することが可能となり、PC/AT互換機市場が確立した。

ハードディスクの規格も当初のST-506ESDIから、1986年コンパックコナー・ペリフェラルが開発したIDE、さらには標準化されたATASATAが主流となり、特定メーカーの影響力は低下した。

ディスプレイ(テキストおよびグラフィック)の規格も、上位互換が徹底され、各社による拡張とデファクトスタンダード形成が継続した。オリジナルのIBM PCで採用されたMDACGAでは、CGAはMGAの全ての画面モードを含んでいた(MDAの上位互換)。次にIBM PC ATで採用されたEGAには、CGAの全ての画面モードと追加された画面モードが含まれた(MDA/CGAの上位互換)。各社はEGAに独自の解像度や色数のモードを追加して速度や価格を競い、これらはスーパーEGA(SEGA)と総称された。更にIBM PS/2で採用されたVGAには、EGAの全ての画面モードが含まれた(MDA/CGA/EGAの上位互換)。従来のPC AT用にもATバス用のVGAアダプターが発売された。各社はVGAと上位互換性を持つビデオチップやビデオカードを発売し、これらはSVGAと総称された。後にSVGAでは一部の画面モードがVESAで標準化された。後のXGAもVGAの上位互換(広義にはSVGAの一種)であった。これらの画面モード切替は、ユーザーがハードウェア的な切替操作をすることなく、ソフトウェアが行えた。なおHercules Graphics Card8514/Aなどは、EGAやVGA等の画面モードを内蔵するのではなく、EGAやVGA等と共存することができた(HGAはユーザーが2画面使用できた、8514/Aは本体側のVGA信号をパススルーできた)。またBIOS画面やOSのインストール画面などではデファクトスタンダードとなった画面モード(MDA/EGA/VGA等)を使用する事で、互換性と拡張性を両立できた。詳細は「ビデオカード#ビデオカードの歴史」を参照
規格競争とIBMの影響力の低下

CPUやメモリの性能が上がるなかで、従来のATバス(ISA)は性能や機能の限界が表面化してきた。1987年、IBMが発売したPS/2は、次世代バスとして従来のATバス(ISA)とは互換性の無い新しいマイクロチャネル(MCA)を採用したが、その使用にはライセンス料の支払いが求められた。対抗する互換機メーカーはISAを拡張したEISA規格を掲げ、規格競争が行われた。しかし、いずれの規格も法人向け上位モデル以外には広く普及せず、従来のATバス(ISA)が使われ続けた。このため特にグラフィック専用の中継ぎ的な規格として1992年にVLバスが策定され一時普及したが、後に多種のデバイスを扱える幅広い標準化を掲げたPCIが登場すると、両陣営とも段階的に移行してデファクトスタンダードとなった。

なおIBM PS/2で採用されたMCAは普及しなかったが、ディスプレイ規格であるVGA、キーボード・マウス用のPS/2コネクタ、3.5インチフロッピーディスクなどは、その後の各社SVGAを含めて「PC/AT互換機」のデファクトスタンダードとなった。
性能向上と「Wintel」の影響力増大

上述のようにオリジナルのIBM PCは16ビットCPUである8088であったが、1985年には32ビットCPUのIntel 80386が登場し、1986年にはコンパックが搭載した。当初はMS-DOSなどで高速な16ビット環境として使用されていたが、OSの32ビット対応も段階的に進展した。

1990年代にはいわゆるWintelが規格主導権を持つようになり、CPUへのRISC技術導入を契機に1994年、IBM・AppleモトローラPowerPC搭載パーソナルコンピュータの規格(PReP)を発表し、対抗するインテルHPIA-64を発表したが、どちらも一般のPC/AT互換機には普及せず、以後もx86(IA-32)のソフトウェア互換性を維持しつつ性能向上が継続した。

2000年代にはCPUの64ビット化が進んだ。インテルのIA-64が広く普及しなかった事もあり、2003年にAMDが出荷開始したIA-32の64ビット拡張である「AMD64」(x86-64命令セット)が普及した。2006年にインテルも同規格を「Intel 64」としてリリースしたため、この64ビット拡張はx64 (x86-64)と総称され、PC/AT互換機でのデファクトスタンダードとなり、WindowsなどのOSはIA-32用(通称32ビット用)とx64用(通称64ビット用)が用意された。

Wintelの増収増益の一方で、PCのコモディティ化の波により伝統的なPCメーカーが衰退し、業界再編が進行した。2002年、互換機市場の創成期からのリーダーであったコンパックヒューレット・パッカードに買収された。2004年、元祖IBM PCを生んだIBMはPC事業をレノボに売却した。2007年、家庭向け低価格PCの小売大手のパッカードベルエイサーに買収された。他方、受注直販方式により在庫を最低限としたデルゲートウェイがシェアを増加したが、2007年 ゲートウェイもエイサーに買収された。また日本では、2011年にNEC、2017年に富士通がPC事業でレノボと提携した。
レガシーフリー

レガシーフリーPC(英語版)、PCシステムデザインガイド(英語版)も参照

その他のハードウェア面では、いわゆるレガシーデバイスを代替するデバイスへ移行した。具体的には、キーボードの接続はATコネクタ(DIN5ピン)からPS/2コネクタ(ミニDIN)を経由してUSBに、マウスの接続はバスマウスからシリアルポート、PS/2コネクタを経由してUSBに、プリンターの接続はパラレルポートセントロニクス)からUSBに、などである。なお、フロッピーディスクのインターフェースは削除されている。

しかし、ソフトウェア面ではアプリケーションプログラムの後方互換性はほぼ維持されている[注 1]。また、パーソナルコンピュータ以外の用途を含め「x86サーバー」「x86システム」と総称される事も増えている。

以上のように、当初はIBM製品のクローンから始まったAT互換機だが、各種の規格争いと標準化を繰り返して発展しており、現在は、IBMはほぼ撤退し、有力メーカーやインテルでも市場(業界、ユーザー)の支持を得られない規格は普及しないデファクトスタンダードとなっている。
年表

オリジナルのIBM PCを含め、歴史的にIBM PC互換機に大きな影響を与えたものには以下がある。

IBM PC互換機の年表年世界日本
1981
IBMIBM PC発売(8088, MDA/CGA, PC DOS。汎用部品によるPC、ビデオカードによる拡張性、BIOS等の情報公開、マイクロソフトによるMS-DOSの各社へのOEM供給)
1982コロンビア・データ・プロダクツ(英語版)がMPC 1600発売(クリーンルーム設計による互換BIOSを搭載した、初の合法的なIBM PC互換機。)
コンパック設立(代表的なIBM PC互換機メーカー)
1983IBMIBM PC XT発売(XTバスは後に8ビットISAとして標準化。PC DOS 2.0による階層化ファイルシステム対応。)
1984フェニックス・テクノロジーズ(英語版)が互換BIOSの供給開始
IBM PC AT発売(80286, ATバス, EGAによる上位互換)IBMがJX発売(IBM PCJrベースの日本語化)
1985東芝J3100/ダイナブック発売(IBM PC XTベースの日本語化)
1987コンパックがDeskpro 386発売(IBMに先駆けて80386採用。CPUクロックとATバスの分離は後にISAとして標準化。)
IBMがPS/2発売(VGAによる上位互換、後の各社SVGAのベースに。上位モデルのMCAは、後にEISA陣営との規格競争へ。)IBMがPS/55発売(PS/2ベースの日本語化)
1988AX協議会各社がAX発売(PC/AT互換機ベースの日本語化)
1990IBMPS/1発売(IBMが個人向けPCでATバスを復活、広義のPC/AT互換機)IBMがDOS/V発売(ソフトウェアによるIBM PC互換機の日本語化)


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