PACS_(並列計算機)
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PACS(Processor Array for Continuum Simulation, パックス)及びPAXは、1977年、当時京都大学原子力研究所助教授であった星野力に、その頃普及し始めたマイクロプロセッサを使ったアレイ型計算機の構築提案を日立製作所の川合敏雄が行ったことがきっかけで開発が始まった、並列計算機である。
概要

当初の目的は、原子炉の炉心内における核熱水力現象をシミュレートする炉心シミュレータの開発にあった。このような処理は既存の一般的な汎用機でも可能であったが、開発主担当であった星野の回想によれば、ILLIAC IVのような並列計算機を作ってみたいという夢から始まったものである。

具体的には、内部バスをそのままプロセッサ間通信用共有メモリへ接続し、自然の近接作用をそのままプロセッサ・アレイ上に投影する直接写像処理方式が、PACSの哲学であった。これはフォン・ノイマン・ボトルネックを解消するための最善の方法と考えられている。現在でも、いかにして内部バス幅を拡大し、メモリ-CPU間の通信帯域幅を保持するかという点について、継続して研究開発が進められている。

PACSシリーズそのものは、完全な専用計算機でなく、多目的汎用計算機となった。名称から推察できるように、連続体 (Continuum) のシミュレーションを主な応用とするが、隣接するCPU間をトーラストポロジーで繋ぐ隣接結合2次元トーラス型アーキテクチャ[1]を採用し、それ以外のアプリケーションにおいても高い性能を発揮した。近接作用を重視するアーキテクチャは、IBMBlue Geneシリーズ等でも用いられている。
歴史

表 PACSシリーズの系譜

製作年名称理論演算性能CPU数CPU/FPU使用OS提供ベンダ仕様作成元研究補助備考
1978年PACS-97KFLOPS9MC6800?京都大学 原子エネルギー研究所校費最初の試作機。ラッピング等で製作。
1980年PAX-320.5MFLOPS32MC6800/AM9511?京都大学 原子エネルギー研究所校費32台のマイクロプロセッサを搭載した最初の実用機。
1983年PAX-1284MFLOPS128MC68B00/AM9511-4?筑波大学 第3学群 星野研究室校費・科研費PACS-32のクロックを2倍に、台数を4倍にしたマシン。
1984年PAX-32J3MFLOPS32DCJ-11?三井造船筑波大学 第3学群 星野研究室科研費製品型。慶應義塾大学筑波大学での並列プログラミング研究に生かされた。新技術開発事業団の委託で三井造船が開発した商用機「MiPAX」は慶應義塾大学等に納入された。
1989年QCDPAX14GFLOPS480MC68020/L64133?アンリツ筑波大学 計算物理学研究センター文部科学省 科研費(特別推進)量子色力学専用計算機として開発。特に、格子量子力学計算に成果を残す。FPUとしてLSIロジックのDSP(L64133)を使用。
1996年CP-PACS614GFLOPS2048PA-RISCmach3.0カーネル+OSF/1(HI-UXベース)日立製作所筑波大学 計算物理学研究センター文部科学省 研究助成費CPは、Computational Physicsの略。TOP500において世界最高性能を記録(1996年11月)。商用機「SR2201」はRWCP, 東京大学等に納入された。
2006年PACS-CS14.3TFLOPS2560XeonLinux/SCore日立製作所
NEC
富士通筑波大学計算科学研究センター文部科学省 研究助成費CSは、Computational Sciencesの略。

ハイパークロスバー結合によるXeonクラスター
2012年HA-PACS (ベースクラスタ部)802TFLOPSCPU 536 (4288コア) / GPU 1072Intel SandyBridge-EP / NVIDIA Tesla M2090筑波大学計算科学研究センターHAは、Highly Acceleratedの略。
2013年HA-PACS/TCA364TFLOPSCPU 128 (1280コア) / GPU 256Intel IvyBridge-EP / NVIDIA Tesla K20X筑波大学計算科学研究センターTCAは、Tightly Coupled Acceleratorsの略で、GPU同士を直結させる機構。HA-PACSベースクラスタ部に併設。
2014年COMA (PACS-IX)1001TFLOPSCPU 786 (7680コア) / MIC 768Intel Xeon E5 2670v2 / Intel Xeon Phi 7110PCentOS筑波大学計算科学研究センターT2K-Tsukubaの後継として、HA-PACSと並行して運用。
2017年Oakforest-PACS25PFLOPSCPU 8208 (558144コア)Intel Xeon Phi 7250CentOS7 + McKernel筑波大学計算科学研究センター 東京大学情報基盤センター

PACSシリーズは、ユーザオリエンテッドな並列ソフトウエア研究開発の流れを作ったマシンとして、現在QCDPAXとCP-PACS、資料、日誌が国立科学博物館に収蔵されている。
参考文献


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