P-T境界
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火山活動は1000km以上離れた少なくとも4箇所の独立した中心地を持ち[37]、溶岩はアメリカ全土(約963万平方km)の面積に近い700万平方kmを覆い、噴出総量は400万立方kmと推定されている[38][39][40]。火山活動の中心地のひとつシベリア北西部ノリリスク地区は溶岩の厚さが3700mあるが、ここの溶岩をアルゴン年代法で分析した結果火山活動の開始は2億5000万年前プラスマイナス160万年であるとされた[41]。また同じ地区の溶岩をウラン・鉛年代測定法で分析した結果、噴火年代は2億5170万年前プラスマイナス50万年から2億5110万年プラスマイナス40万年とされている[42]。すなわち生物の大絶滅と同時に起こっており、P-T境界の大絶滅の重要な原因と考えられている。現在見られる玄武岩質溶岩の噴火はハワイキラウエア火山噴火のように比較的おだやかで、火山灰を成層圏まで吹き上げるような爆発的な噴火ではない。シベリア洪水玄武岩も大部分はそのような噴火であったと考えられるが、一部においては非常に爆発的な噴火を起こしたことが確認された。すなわち揮発成分を多く含みマントル深部から急速に上昇したとされ、またダイヤモンドの母岩でもあるキンバーライト・パイプ(地殻中のマグマの上昇速度は新幹線並みとされる[43])がタイミル地方東部で確認されている[36][44]

火山の噴火による環境への影響は下記のものが想定されているが、実際にどのような環境変化が生物を大量に死滅させたかは確認できていない。

空気中に放出された大量の火山灰による地上への日射量減少による低温化、いわゆる「火山の冬

放出された硫黄が空中で酸化されて「硫酸エアロゾル」となって大気中に漂い、地上に到達する日射量を減少させることによる低温化[45][46]

大量の硫黄が空中で酸化して生成した酸性雨による環境破壊

火山ガスの主成分の二酸化炭素(温室効果ガス)による温暖化

シベリア洪水玄武岩は厚い石炭層の上を覆った。地下の石炭は高温により分解してメタンガス(二酸化炭素よりも強い温室効果ガス)や二酸化炭素となって空中に放出された可能性があり、これらの温室効果ガスに由来する温暖化

大規模な火山活動で排出された二酸化炭素による温暖化、それに伴うメタンハイドレートの溶解により(水蒸気も二酸化炭素よりはるかに強い温室効果ガスである)温暖化が加速され、さらに多くのメタンハイドレートの溶解

世界各地のP-T境界の地層から大量の硫化物が見つかっている事[47]や、中国煤山のP-T境界の地層からマントル由来のストロンチウム同位体の顕著な増大から、シベリア洪水玄武岩とP-T境界の大絶滅が同時進行であったと推定される[48]。なおP-T境界の前段階であるガダルピアン末の大絶滅において、中国雲南省にある洪水玄武岩の峨眉山巨大マグマ区との同時性が検討されている。この洪水玄武岩はシベリア洪水玄武岩より規模はかなり小さいもので、年代分析ではガダルピアン末の大絶滅と重なる数字が出されているが、両方の事件が同時に生起したという確認は取れていない[49]
スーパーアノキシア

スーパーアノキシア(Superanoxia:超酸素欠乏事件)とは、P-T境界で起こった大規模な海洋無酸素事変である。世界の各所に産出する当時の海洋起源の堆積岩泥岩チャートなど)の研究から、約2億5,100万年前の前後約2,000万年にわたって海洋酸素欠乏状態にあったことが判明している。地球史上では約100万年程度の酸素欠乏事件は何回か発生しているが、全海洋規模かつ約2,000万年という長期間にわたる酸素欠乏が起こったのはP-T境界のみであった。スーパーアノキシアはP-T境界の前段階のガダルピアン末の大絶滅と同じ時期の2億6000万年前に始まり[50]、最盛期はP-T境界に一致している。最盛期にはその前後の地層にふんだんに見られる放散虫の化石が全く消滅しており、大洋の表層でも大量絶滅が起こっていたと考えられる[51]。P-T境界における酸素欠乏については、「大絶滅により光合成を行う生物が極度に減少した結果、海洋中の酸素が減少した」という考え方と、「何らかの原因で海洋が低酸素化した結果、呼吸できなくなった生物が大量に死滅した」という二通りの解釈がなされている。
海水準の変化

顕生代の海水準の変化は主に気候が影響している。すなわち氷河時代には大量の水が氷床として陸上に固定されるため海水準が低下し、温暖化によって海水準は上昇する。急激な海水準の低下は、浅海に住む生物の生存に打撃を与え絶滅の原因となる。古生代の石炭紀後期からペルム紀中期にかけて、地球は寒冷な氷河時代(ゴンドワナ氷河時代)であった。パンゲア大陸の南部を形成するゴンドワナ大陸が広い範囲で氷床に覆われた[52]。これらのことから、1980年代までの研究ではP-T境界の大絶滅の原因として海水準の低下を指摘する説もあったが、1990年代以後の中国南部や他の地域での研究結果から「P-T境界の50万年前から海水準は上昇しつつあった」とされている[53]
炭素同位体比の急変

P-T境界の大絶滅と同時に、地上や海中において堆積した炭酸塩岩中の炭素同位体比が急変したことが確認されている。地球の炭素は質量数12の12Cと質量数13の13Cが約99:1の比率で存在しているが[54]、この炭素同位体比率を測定すると、空中の二酸化炭素、生物体内の有機物など存在する場所によって微妙に異なっている。地質年代に起こった出来事を分析するのにこの炭素同位体比を比較する手法が最近重要視されている。同位体比は標準物質[55]の13C比率との偏差の千分率(‰)で表され、一般にδ13C と表記される。同位体比が変化する原因は生物活動による。光合成生物が大気中の二酸化炭素[56]を固定する際に12Cをより多く取り入れるため、植物や植物を食べた動物のδ13Cは元の二酸化炭素より低い値(-20から-25‰)をとる。生物が死後分解されずに地中に埋没すると、その分だけ大気の12Cが減ってδ13Cがプラス側に推移する。生物の死骸が変化してできた石炭、石油、天然ガス(主成分はメタン)、メタンハイドレート等のδ13Cの値も大きなマイナス値を示す。海洋で堆積する石灰岩は、化学的に堆積したものも生物活動に由来するものも大気中の二酸化炭素を原料として作られるため、石灰岩のδ13Cの変化は、大気中の二酸化炭素のそれを反映している。ペルム紀後期の石灰岩のδ13Cはほぼ3-4‰で安定していたが、P-T境界で急激に低下し-2‰の値をとり、三畳紀初頭に0-1‰まで回復する。この変動のピークは2回あり急激な変動の期間は約16万年と見積もられている[57]。この急激なδ13Cの変化は大気中の二酸化炭素の変化を示すもので、必然的に地球全体で同時に生起した。海中以外でも陸上のP-T境界の地層に同様の変動が記録されており大絶滅が地上でも同時に起こったことの証拠とされ、またP-T境界の地層を特定するための指標として使われている。この急激なδ13Cの低下の原因については、生物起源の有機物の空中への大量放出や、光合成生物の激減による炭素分別の停止などが考えられる。今まで下記のような仮説が提出されているがどの仮説も決定的な証拠は出ていない[58]

温暖化に伴うメタンハイドレートの大量放出

当時大量に石炭が堆積していたシベリアに洪水玄武岩の流出した結果発生した石炭の分解・燃焼

全世界で地上の草木が激減して土壌が露出・流出し、土壌中の有機物が酸化された

植物が死滅してしまい光合成が長期間低下した結果、大気中の二酸化炭素のδ13C値が火山ガスの値に近づいた

なおメタンの発生に関しては、微生物の働きによるとする意見もある[59]
巨大隕石の落下の可能性

恐竜が絶滅した事件である「K-Pg境界」においては、巨大な隕石が落下したことが確実視されつつある。巨大な隕石が地球に落下した場合の環境への影響は大きく、大絶滅を起こしうるためP-T境界においてもクレーターの探索が行われており、オーストラリア[60]や南極において巨大クレーター発見の報告がなされている。巨大隕石が地球に落下したK-Pg境界では次のような現象が確認されており、生物が大量に死滅する状況を表している[61]

落下の衝撃による巨大クレーターの存在

衝突に伴って発生した空中に飛散した塵(ダスト雲)からの砕屑物の層が地球規模で広がっている。大量のダストが地球全体を覆ったと考えられる。

地球外からもたらされたと判断される元素の濃集、K-Pg境界ではイリジウムの濃集が判明している。

隕石衝突のエネルギーによる全地球的な森林火事の発生、K-Pg境界の地層から白亜紀の地上に存在した森林の6分の一が燃えた量に相当する大量の煤が発見されている[62]。本体の隕石からの高熱以外に落下地点から飛び散った破片が大気圏へ再落下するときの熱が火元となって、落下地点から離れた場所でも火災が起こった可能性がある[63]

衝突により発生した巨大津波(最大波高300m)の証拠

4項目目以後については確認されていない。地球外物質の落下がP-T境界の大絶滅の直接原因となった可能性は今のところ高くない。
絶滅からの生物多様性回復の遅れP-T境界後の三畳紀の陸地に広範に繁殖したミズニラ類の現生種(ミズニラ Isoetes japonica)

過去のすべての大絶滅事件の後には、絶滅した生物種に代わって次世代の生物が繁栄して生物多様性が回復した。たとえばK-Pg境界では恐竜に代表される大型爬虫類のほとんどが絶滅した後、数十万年[64][65]で哺乳類や鳥類が多様性をもたらした。P-T境界において生物多様性の回復は非常に遅れ[66]、400万年後においても種の数が回復せず、本格的に回復したのは約1000万年後[64]である。生物多様性の回復が遅れた原因は、P-T境界後も引き続き地球環境が生物の生存に対して厳しい条件にあった可能性が考えられる[67]


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