P-T境界
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P-T境界の前段階であるガダルピアン末の絶滅では鰓のない代謝の低い生物属の65%が絶滅したが鰓のあるグループの属レベルでの絶滅率は49%であり、P-T境界では前者の属単位での絶滅率87%に対し後者の絶滅率は38%であった[30]
陸上の動物

陸上の動物においてもペルム紀末に2段階の大量絶滅が起こった。

爬虫類:ペルム紀中期に生息していた26属のうち、ガダルピアン末に相当する約2億6000万年前に9属が絶滅。その後多様性が回復し44属になったがP-T境界後に再度大きな影響を受け、生き残ったのは7属だけとなった
[31]

単弓類:ディキノドンなどの単弓類は、P-T境界において35属が2属に減った[32]

昆虫類:昆虫類の歴史においてP-T境界は唯一の大量絶滅事件である。ペルム紀に22目が生息していたと見られるがそのうち8目が消滅し、他の5目が多くの科を失った。昆虫類はその後は1,2目しか絶滅していない[33]

植物

古生代は沼沢林のシダ類、ヒカゲノカズラ類および木本シダが繁茂していたが、中生代には針葉樹イチョウソテツおよび現生シダに置き換わった。古生代の石炭紀から続くペルム紀の地層には石炭が大量に埋蔵されているが、P-T境界を境に石炭が突然無くなる。これは全世界的に同時に起こっており、南極オーストラリアインド、中国などで確認されている。厚い石炭層が再度出現するのは中期三畳紀の終わりもしくは後期三畳紀からである[34]。石炭の消滅の原因については、石炭の元となる泥炭が生成する湿地帯が長期にわたる気候変動(温暖化等)で消滅したとも考えられるが、全世界的に一斉に石炭が消えていることから気候変動だけではなく湿地帯に生息していた植物類が消滅したと考えられている。またP-T境界を境に平野部の河川の流れ方が急激に変わったことが知られている。ペルム紀の湿潤な平野部の河川は現在と同様に蛇行しながらゆっくり流れ、流域には泥岩が多く堆積していたが、P-T境界を境に突然泥岩が減り砂岩礫岩が出現する。また河川の流れ方も蛇行が減って網状に流れるタイプに変った[6]。これはP-T境界において流域の植物が壊滅的に減少して土壌が無くなったこと、気候がより温暖・乾燥化したことによる、雨水による浸食が激化したためと考えられている。この突然の変化は南アフリカ、オーストラリア、ヨーロッパウラル山脈の南部、インドなど世界各地のP-T境界の地層で確認されている[35]
当時の地球環境と絶滅の原因
超大陸の形成

2.5億年前、地表に存在するほとんど全ての陸地が1か所に集合して超大陸パンゲアを形成した。パンゲア以外の地表はひとつの大きな海パンサラッサとなった。なおパンゲア大陸内部の地中海としてテチス海が存在した。それまでいくつも存在していた大陸と海洋がひとつずつに減ってしまうことによって生息環境の多様性が減り、生物多様性が減少したことで種の数が減る可能性がある。この場合の生物種の減少は長期的(数百万年から数千万年程度)なものになると考えられるが、P-T境界においては大量絶滅が百万年以内に発生していることから、超大陸の形成と絶滅の関連性は小さいと考えられる。
シベリア洪水玄武岩

1992年に、過去6億年間でもっとも大きな火山噴火のひとつとされているシベリア洪水玄武岩シベリア・トラップ)の噴出が、P-T境界と同時期に起こったと発表された。シベリア洪水玄武岩は現在残っている面積は日本(約38万平方km)の約2倍の67万5千平方kmであるが、元の範囲の推定値は拡大し続けている[36]。火山活動は1000km以上離れた少なくとも4箇所の独立した中心地を持ち[37]、溶岩はアメリカ全土(約963万平方km)の面積に近い700万平方kmを覆い、噴出総量は400万立方kmと推定されている[38][39][40]。火山活動の中心地のひとつシベリア北西部ノリリスク地区は溶岩の厚さが3700mあるが、ここの溶岩をアルゴン年代法で分析した結果火山活動の開始は2億5000万年前プラスマイナス160万年であるとされた[41]。また同じ地区の溶岩をウラン・鉛年代測定法で分析した結果、噴火年代は2億5170万年前プラスマイナス50万年から2億5110万年プラスマイナス40万年とされている[42]。すなわち生物の大絶滅と同時に起こっており、P-T境界の大絶滅の重要な原因と考えられている。現在見られる玄武岩質溶岩の噴火はハワイキラウエア火山噴火のように比較的おだやかで、火山灰を成層圏まで吹き上げるような爆発的な噴火ではない。シベリア洪水玄武岩も大部分はそのような噴火であったと考えられるが、一部においては非常に爆発的な噴火を起こしたことが確認された。すなわち揮発成分を多く含みマントル深部から急速に上昇したとされ、またダイヤモンドの母岩でもあるキンバーライト・パイプ(地殻中のマグマの上昇速度は新幹線並みとされる[43])がタイミル地方東部で確認されている[36][44]

火山の噴火による環境への影響は下記のものが想定されているが、実際にどのような環境変化が生物を大量に死滅させたかは確認できていない。

空気中に放出された大量の火山灰による地上への日射量減少による低温化、いわゆる「火山の冬

放出された硫黄が空中で酸化されて「硫酸エアロゾル」となって大気中に漂い、地上に到達する日射量を減少させることによる低温化[45][46]

大量の硫黄が空中で酸化して生成した酸性雨による環境破壊

火山ガスの主成分の二酸化炭素(温室効果ガス)による温暖化

シベリア洪水玄武岩は厚い石炭層の上を覆った。地下の石炭は高温により分解してメタンガス(二酸化炭素よりも強い温室効果ガス)や二酸化炭素となって空中に放出された可能性があり、これらの温室効果ガスに由来する温暖化

大規模な火山活動で排出された二酸化炭素による温暖化、それに伴うメタンハイドレートの溶解により(水蒸気も二酸化炭素よりはるかに強い温室効果ガスである)温暖化が加速され、さらに多くのメタンハイドレートの溶解

世界各地のP-T境界の地層から大量の硫化物が見つかっている事[47]や、中国煤山のP-T境界の地層からマントル由来のストロンチウム同位体の顕著な増大から、シベリア洪水玄武岩とP-T境界の大絶滅が同時進行であったと推定される[48]。なおP-T境界の前段階であるガダルピアン末の大絶滅において、中国雲南省にある洪水玄武岩の峨眉山巨大マグマ区との同時性が検討されている。この洪水玄武岩はシベリア洪水玄武岩より規模はかなり小さいもので、年代分析ではガダルピアン末の大絶滅と重なる数字が出されているが、両方の事件が同時に生起したという確認は取れていない[49]
スーパーアノキシア

スーパーアノキシア(Superanoxia:超酸素欠乏事件)とは、P-T境界で起こった大規模な海洋無酸素事変である。世界の各所に産出する当時の海洋起源の堆積岩泥岩チャートなど)の研究から、約2億5,100万年前の前後約2,000万年にわたって海洋酸素欠乏状態にあったことが判明している。地球史上では約100万年程度の酸素欠乏事件は何回か発生しているが、全海洋規模かつ約2,000万年という長期間にわたる酸素欠乏が起こったのはP-T境界のみであった。スーパーアノキシアはP-T境界の前段階のガダルピアン末の大絶滅と同じ時期の2億6000万年前に始まり[50]、最盛期はP-T境界に一致している。最盛期にはその前後の地層にふんだんに見られる放散虫の化石が全く消滅しており、大洋の表層でも大量絶滅が起こっていたと考えられる[51]。P-T境界における酸素欠乏については、「大絶滅により光合成を行う生物が極度に減少した結果、海洋中の酸素が減少した」という考え方と、「何らかの原因で海洋が低酸素化した結果、呼吸できなくなった生物が大量に死滅した」という二通りの解釈がなされている。
海水準の変化

顕生代の海水準の変化は主に気候が影響している。すなわち氷河時代には大量の水が氷床として陸上に固定されるため海水準が低下し、温暖化によって海水準は上昇する。急激な海水準の低下は、浅海に住む生物の生存に打撃を与え絶滅の原因となる。古生代の石炭紀後期からペルム紀中期にかけて、地球は寒冷な氷河時代(ゴンドワナ氷河時代)であった。パンゲア大陸の南部を形成するゴンドワナ大陸が広い範囲で氷床に覆われた[52]。これらのことから、1980年代までの研究ではP-T境界の大絶滅の原因として海水準の低下を指摘する説もあったが、1990年代以後の中国南部や他の地域での研究結果から「P-T境界の50万年前から海水準は上昇しつつあった」とされている[53]
炭素同位体比の急変

P-T境界の大絶滅と同時に、地上や海中において堆積した炭酸塩岩中の炭素同位体比が急変したことが確認されている。地球の炭素は質量数12の12Cと質量数13の13Cが約99:1の比率で存在しているが[54]、この炭素同位体比率を測定すると、空中の二酸化炭素、生物体内の有機物など存在する場所によって微妙に異なっている。地質年代に起こった出来事を分析するのにこの炭素同位体比を比較する手法が最近重要視されている。同位体比は標準物質[55]の13C比率との偏差の千分率(‰)で表され、一般にδ13C と表記される。同位体比が変化する原因は生物活動による。光合成生物が大気中の二酸化炭素[56]を固定する際に12Cをより多く取り入れるため、植物や植物を食べた動物のδ13Cは元の二酸化炭素より低い値(-20から-25‰)をとる。


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