NTSC
[Wikipedia|▼Menu]
IREとは基準電位(ブランキングレベル)の0Vを0IRE、映像信号の輝度100%の時の電位を100IREとする相対値で同期信号の電位は-40IREと規定されている。つまり同期信号の底から最大輝度まで映像信号全体の振幅140IREを1V p-pとする場合、同期信号はブランキングレベル-286mV、映像信号の最大値は+714mVとなる。直流電圧を伝えられない伝送系を介する場合、また負電圧を扱えない単電源の増幅回路を使用する場合は同期信号の底のレベルもしくは水平同期信号直後のブランキングレベルを各々の機器で内部の基準とする電圧に揃えるクランプ回路を受信側に設けて限定的直流再生を行う。
表示に使うブラウン管の想定ガンマ値を2.2とし、送出側であらかじめ一括補正
ブラウン管も真空管の一種であり、制御グリッドに印加する電圧と表示光量とが直線比例していないという特性を持つ。増幅回路であればほぼ直線比例していると見なせる領域のみを使用し最も歪みの少ない動作点を選べば良いが、ブラウン管は最大輝度:電子ビーム電流最大から黒:電子ビーム電流ゼロまでの全動作領域を使用するため、どこかの段階で何らかの方法で補正してやらなければ画像が異様に暗く表示されてしまう。NTSCではブラウン管の発光輝度は制御入力電圧の2.2乗に比例すると想定して、カメラからの出力直後の段階で信号電圧を0.45乗してガンマカーブを補正してから放送を行っている。数億台分もの補正回路を各受像機毎に付けるより、放送事業者側で一括補正した方が受像機のコストダウンになる為である。
放送時の映像信号帯域は水平解像度にして約330本
当時の16mm映画フィルムと同等の解像度、400ラインペア程度を目標として設定された。水平走査線一本分の時間 1 15750 ≒ 63.5 {\displaystyle {\frac {1}{15750}}\fallingdotseq 63.5} μ秒のうち、帰線消去期間等[1] を除くと映像表示に使える期間は約53.3μ秒となる。更にブラウン管のオーバースキャンによりそのうちの90%程度しか画面に表示されていない場合を想定すると、有効表示時間の最悪値は48μ秒ほどになる。ここに最大400ラインペア、200サイクルを表示しようとするとその周波数上限は 200 48 × 10 − 6 ≒ 4.2 {\displaystyle {\frac {200}{48\times 10^{-6}}}\fallingdotseq 4.2} MHzとなる。伝送路や録画再生機器の周波数特性上限を表す性能指標として使われる「水平解像度何本」という文言は画面縦横比3:4に設定された映像領域を正方形で切り取った時の数字である。放送時の映像信号周波数上限はオーバースキャンによるマスク分を含めた有効映像期間 約53.3μ秒に最大で220サイクル、440ラインペアほど並べられることとなる。画面を正方形に切り出すという事は縦3横4比率である画面の横4ある長さのうち、縦方向と同じ横3の長さに含まれている分だけを評価するという事になるので 440 × 3 4 {\displaystyle 440\times {\frac {3}{4}}} =330が放送波で送られてくる映像信号の水平解像度上限となる。
映像信号は残留側帯波、負極性振幅変調で放送。音声信号は周波数変調
映像信号の4.2MHzという帯域は、そのまま両側帯波の放送電波に振幅変調すると8.4MHzもの広大な周波数帯域を占有してしまう。VHF帯の利用が緒についたばかりの1940年代の放送業界において、そのような資源浪費を許容する余地は無かった。都合の悪い事に映像信号には垂直同期信号の60Hzが含まれており、そこから更に周波数の高い4.2MHzという信号帯域に比してほとんど直流に等しい領域まで同じ利得で伝送出来ないと画面の明るさが急激に変化するシーンで受像機の垂直同期がかからなくなったり画面の上部と下部で明るさが変わってきたりしてしまうため、SSBの採用も出来ない。そこで搬送波周波数より低い側の側帯波も一部を送信して直流付近の信号まで確実に伝送する残留側帯波方式とし、遮断特性はゆるやかだが安価で大量生産に向くフィルターを使えるようにした。また変調は負極性、すなわち映像信号電圧の最も低い同期信号の底で変調波の振幅が定格出力100%になり最も明るい白を表示する時の変調波振幅は12.5%となるよう規定されている。これは、受像機側での自動利得制御を容易にするためである。水平走査期間63.5μ秒の間に電波の振幅が100%になるピーク期間が確実に存在するので、そこが規定のレベルになるよう自動利得制御回路を構成すれば良い。仮にこれが正極性の変調だと、暗いシーンを映しているから電波の振幅が低いのか電波が弱いから振幅も低いのかを区別する為に、復調後の映像信号からもフィードバックをかける回路が余計に必要になる。音声は周波数変調(FM)とし、自局および隣接チャンネルの映像信号から受ける妨害を軽減した。FMラジオ放送は米国において1939年から開始されており、AMラジオに比べて占有帯域は広いものの歪みやノイズが少なく音域も広い上に良好な耐妨害特性を持つ事が既に実証されていた。
映像搬送波周波数はチャンネル周波数帯下端から+1.25MHz、音声搬送波周波数は+5.75MHz、放送波の占有帯域は1チャンネルあたり6MHz
音声信号は映像搬送波周波数+4.5MHzを中心として±25kHzの変移、更に周波数変調がもたらす側帯波(サイドバンド)の広がりを加えた合計6MHzが1チャンネルの帯域幅となる。映像搬送波はチャンネル周波数下端から1.25MHz、音声キャリアは同じく下端から5.75MHz高い周波数に設定されている。放送バンドプランは各々の国で異なっているが、日本においては例えば、チャンネル1は90 - 96MHzを占有し映像搬送波周波数91.25MHz、音声搬送波周波数95.75MHzと定められている。
カラー化における変更点NTSC放送波の1チャンネル中の周波数スペクトラム分布。なお、インターリーブ状の特性はこの図では表現されていない。NTSCの信号のインタリーブ特性を持つスペクトラム分布(概念図)。横軸は周波数の相対値(0=映像搬送波周波数)、縦軸は信号強度、緑線は輝度信号、赤線は色差信号、青線は音声信号の強度を示す。

前節で述べた白黒放送の諸元に対し、カラー放送では色差情報(クロマ信号)を付加する為の色副搬送波(周波数 fsc で示す)を追加した他、水平同期周波数 fh と映像 - 音声搬送波周波数の差 fa が整数倍の関係になるよう変更している。

f s c = 455 2 f h {\displaystyle fsc={\tfrac {455}{2}}fh} ゆえに、 f s c = 315 88 {\displaystyle fsc={\tfrac {315}{88}}} MHz±10Hz( 3.579 5 ˙ 4 ˙ {\displaystyle 3.579{\dot {5}}{\dot {4}}} …MHzの循環小数になる)

f h = f a 286 {\displaystyle fh={\tfrac {fa}{286}}} (なお、 f a = 4.5 {\displaystyle fa=4.5} MHz〈白黒放送の fh=15.750kHz に比べて0.1%の差異〉)

水平同期周波数 fh を変更した理由は、NTSCの輝度信号のスペクトルのピークが fh 間隔で存在し、輝度信号スペクトルと音声信号スペクトルの谷間に色副搬送波スペクトル(こちらもピークが fh 間隔で存在する)のピークが来るようインターリーブさせることで相互妨害が最小で済むような形で合成するためである[2]。当時のテレビ受像機は音声再生にインターキャリア方式を使っていたため、fa を変更すると音声再生に支障が発生することから fh の値を変更した。これに伴って垂直同期周波数は60Hzから 60 1.001 {\displaystyle {\tfrac {60}{1.001}}} Hzに、フレームレートも毎秒30枚から 30 1.001 {\displaystyle {\tfrac {30}{1.001}}} 枚へと0.1%ずつ低下するが、大部分がアナログ回路で構成されている垂直および水平偏向系にとっては製造誤差を見込んだ引き込み範囲内に収まる変更であり、既存の白黒テレビジョン受像機を改造調整することなくカラー放送の輝度信号部分を受信可能にしている。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:78 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef