NMOSロジック
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Intel 8080(1974年)は、NMOSロジックで作られた[1]。3つの電源+12V,+5V,-5Vが必要であった[2]MC6800(1974年)の前期版は、ディプリーション負荷NMOSロジックではない通常のNMOSロジックで作られたが、+5V単一電源で動作した。内部に複数電源を生成する回路を内蔵していたからであった[3]

NMOSロジック(N-type metal?oxide?semiconductor logic)は、論理回路とその他のデジタル回路を実装するためにn型MOSFET(金属-酸化物-半導体電界効果トランジスタ)を使用する[4]。これらのn型MOSFETは、ソース端子とドレイン端子の間にあるp型半導体のボディの中に反転層を作ることによって動作する[5]。n型チャネルと呼ばれるこの反転層は、n型半導体のソース端子とドレイン端子の間に電子を通すことができる。n型チャネルは、ゲートと呼ばれる第三の端子に電圧を印加することによって作られる。他のMOSFETと同様にn型MOSFETは、3つの動作領域を持つ。つまり、遮断領域(cut-off / subthreshold)、線形領域(linear / triode)、そして飽和領域(saturation / active)である[6][7]

長年の間、NMOS回路は、かなり速度の遅いp型MOSFETを使う必要があったPMOS回路やCMOS回路と比較して遥かに高速だった[8]。後にディプリーション負荷NMOSロジックが開発されて、NMOSの速度と消費電力はさらに改善された[9]。CMOSよりもNMOSの方が容易に製造できた。CMOSは、p型サブストレート上に作った特殊なn型ウェル[注釈 1]の中にp型MOSFETを実装する必要があるからである[10]

NMOSの主な欠点は、出力が定常状態(NMOSの場合Low)のときですら論理回路を通して直流が流れることであった[11]。当時の他のロジック・ファミリのほとんどが同じ問題を抱えていた。このことは、静的な電力散逸を意味している。すなわち、回路がスイッチングしていないときですら電力が流出し、大きな電力消費が発生する[11]

付け加えると、Diode-transistor logicTransistor-transistor logicエミッタ結合論理などと同様にNMOS回路とPMOS回路は、非対称入力ロジックレベルが原因でCMOSよりもノイズに弱かった[12]
概要

MOSは「金属-酸化物-半導体」という意味である。MOSFETが最初に作られたときの手法を反映してそのように呼ばれている。主に1970年代以前は、一般的にアルミニウムの金属ゲートを使っていたからである[13]。しかしながら、1970年頃からほとんどのMOS回路は、ポリシリコンで作られた自己整合ゲートを使ってきた[13]。自己整合ゲートは、フェアチャイルドセミコンダクターにおいてフェデリコ・ファジンによって最初に開発された技術である。ポリシリコンのゲートは、MOSFETを基本とした集積回路のほとんどの種類で未だに使われている。しかし、高性能マイクロプロセッサのような特定の種類の高速回路のために2000年代初頭から高融点金属ゲートが再登場し始めた[14]NMOSのNOR回路[4]。Rでプルアップされており、OUTからlow (GND)へ電流を流す。

NMOSロジックで使われるMOSFETはn型エンハンスメントモードトランジスタであり、論理ゲート出力と負電源電圧(一般的にグランドのこと)の間、いわゆる「プルダウンネットワーク」(PDN)の中に配置されている[15][4]プルアップ(すなわち「負荷」であり、抵抗として考えることができる。以下参照)は、正電源電圧と各論理ゲート出力の間に配置されている[4]

例えば、NMOS回路で実装されたNORゲートがあるとする[16]。もしも入力Aあるいは入力BのどちらかがHigh(論理回路の1 = 真)であれば、各MOSトランジスタは出力と負電源の間で非常に低い抵抗値の抵抗としてふるまうので、出力を強制的にLow(論理回路の0 = 偽)にする。AとBの両方がHighのとき、両方のトランジスタが導通し、グランドへのさらに低い抵抗の経路を作ることになる[16]。出力がHighになる唯一の状態は、両方のトランジスタがオフのときである。この状態は、AとBの両方がLowのときにだけ発生する。このようにNORゲートの真理値表を満たすことになる[16]

ABA NOR B
001
010
100
110

抵抗器の代わりにMOSFETを使用するエンハンスメントモードn型MOSFETの特性図[17]
閾値電圧 VTは0Vよりも少しだけ高い値のことが多い。エンハンスメントモードなので、VGS ≧ 0 で使用する。飽和エンハンスメント負荷を使ったNMOSロジック (NOT回路)。T1が負荷MOSFETである。T2はスイッチング用MOSFET[11]線形エンハンスメント負荷を使ったNMOSロジック (NOT回路)。T1が負荷MOSFETである。T2はスイッチング用MOSFET[11]

集積回路内部に抵抗器を作ると工数が増える[18]。MOSFETを抵抗器の代わりに使うと工数を削減できる。それを負荷トランジスタや負荷MOSFETという[19]。そのため、nチャネルMOSFETだけで回路全体を作ることができる。しかし、負荷MOSFETの電気特性は抵抗器と異なる。

負荷トランジスタ(プルアップトランジスタ)は論理スイッチとして使われるものと同種のエンハンスメントモードMOSFETである(ゲート・ソース間電圧VGSが0になるとオフになる)[20]

図のように負荷MOSFETのゲートをどこに接続するのかで負荷の種類が異なる。負荷MOSFETのゲートをVddに接続すると飽和エンハンスメント負荷となり、Vggに接続すると線形エンハンスメント負荷となる。線形エンハンスメント負荷の方が電圧降下が少ないため出力電圧をVddに近くできるが、2電源が必要になる[11]

回路図から負荷MOSFETの動作を決める変数は以下のようになる。

ドレイン・ソース間電圧 VDS = Vdd - 出力電圧

ゲート・ソース間電圧 VGS = Vdd - 出力電圧(飽和エンハンスメント負荷のとき)

ゲート・ソース間電圧 VGS = Vgg - 出力電圧(線形エンハンスメント負荷のとき)

ドレイン・ソース間電流 IDS = VDS のおおよそ2乗に比例

出力電圧が低下すると、VDS と一緒に VGS も増えることになる。そのため、IDS は、VDS のおおよそ2乗に比例して増えることになる。つまり出力電圧が低下すると過剰な電流が流れて消費電力が悪化する。その一方で出力電圧が増大すると電流がわずかしか流れないので、動作速度が低下する。

このように抵抗器の代わりにエンハンスメントモードMOSFETを使う方法は速度や消費電力の面で問題がある[11][21]。それらの問題を改善するために負荷としてエンハンスメントモードトランジスタの代わりにディプリーションモードトランジスタを使うことができる[22]。その方法を実装したものは、ディプリーション負荷NMOSロジックと呼ばれている。
歴史「ディプリーション負荷NMOSロジック#歴史と背景」も参照

MOSFETは、1959年にベル研究所のエジプト人技術者モハメド・M・アタラ(英語版)と韓国人技術者ダウォン・カーンによって発明された[23]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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