MU-2
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円は急速に値上がりし、輸出するだけで高い利益を得ていた日本経済は大打撃をこうむった。MU-2も、アメリカに輸出という形をとっていたため、採算割れを起こしてしまい赤字が増大(航空機は初期投資が膨大なため、多少の売上では黒字にならない)、コストダウンを迫られた。それでも1972年(昭和47年)は月産6機、1973年(昭和48年)には月産8機を維持し、赤字ながら販売は好調だった。この様子は、米国に挑戦する日本企業として注目を浴び、CBSは特別番組を制作するほどだった。
生産中止

だが、1973年(昭和48年)秋に起きた中東戦争は、世界的なオイルショックをもたらし、原材料や人件費が暴騰して、急激なインフレーションが起こった。燃料費の高騰によってエアラインは軒並み経営不振となり、また、販売を委託していた北米の各社も経営不振に陥って、MU-2の受注が急減した。そこで、委託販売を止めて再びMAIが直接販売を開始したが、売れ行きは伸び悩んだ。

1987年(昭和62年)、新型機ビジネスジェット機であるMU-300に販売を集中するため、MU-2の生産を終了した。総生産数は762機、世界27カ国で販売され、世界の小型ビジネス機の中でもベストセラーであった。三菱はその後もMU-2のプロダクトサポートを担当していたが、一度MU-300と共にビーチクラフトに移管された。

1998年(平成10年)に再度三菱に移管され、名古屋航空宇宙システム製作所から業務の拠点とするダラスへ社員2名が派遣され、現地社員と共にサポートを行った。2002年(平成14年)と2005年(平成17年)には米国航空雑誌として著名な『アビエーション・インターナショナル・ニュース』誌で、自家用機プロダクトサポートのターボプロップ部門において第1位の評価を得た。
機体愛知県豊山町航空館boonに展示されるMU-2A

外見は高翼・双発エンジンの常識的なものであるが、小型軽量な機体の割に室内容積は大きく、市場では特に500km/hを越える高速巡航性能、航続力、悪天候下でも良好な操縦・安定性等が好評であった。エンジン、内装、燃料タンクなどに改良を加えながら短胴型6種と長胴型4種(自衛隊向けを除く)が生産され、海外向け商品名は、短胴型がSolitaire(ソリテール)、長胴型がMarquise(マーキス)とされていた。

構造や技術には独自のものを取り入れた。最大の特徴である主翼後縁全長に渡るダブル・スロッテッド・フラップは、同級機に比べて5割程度翼面荷重を大きくし、強力な短距離離着陸(STOL)特性・速度性能・高い運動性を保っている。このフラップによって、通常の補助翼は使用できず、ローリング方向の操縦には左右両翼のスポイラーを左右非対称に作動させるスポイレロン(spoileron)を使用する。主翼を小型化したことで、尾翼も小さくなり、機体の軽量化によって、高性能低価格の飛行機を実現した。

エンジンは、このクラスとしては世界に先がけてターボプロップエンジンを採用[6]試作・試験機であるMU-2Aはチュルボメカ社のアスタズII K(715馬力)を搭載していたが、主たる輸出先であるアメリカ合衆国向けの量産機は、米国製ギャレット・エアリサーチ TPE331とした[7]。このため、A型は試作2機・量産1機の3機で生産中止となっている。

降着装置は地上での視界に優れる前脚式で、全てがドアを持った引き込み式である。

MU-2が持つ高速性と機動性は、殊に北米において評価が高く、この機体を形容する言葉として"Hot rod"(ホットロッド)が用いられるほどである。低空でも高速飛行できる特性から、近年では小口輸送用の高速輸送機として貨物機に改造される機体も増えている。
バリエーション
MU-2A
最初の生産型。
チュルボメカ「アスタズ-II」Kエンジン(562馬力)を搭載。
MU-2B
アメリカ合衆国向けにエンジンをギャレット・エアリサーチ TPE331-25A(705馬力)に変更。
MU-2C
防衛庁向け。Bの陸上自衛隊仕様。制式名称LR-1。
MU-2D
防衛庁向けにBを出力増強したもの。三菱社内呼称。
MU-2E
防衛庁向け。Dの航空自衛隊仕様。
MU-2F
Dを出力増強・長胴(ストレッチ)化したもの。
MU-2G
Fの長胴タイプ。胴体下部にバルジを設けて車輪を格納した。乗員2名・乗客4-12名。
MU-2J
Fを出力増強したもの。TPE331-251エンジンを搭載。
MU-2K
Jの長胴タイプ。
MU-2L
Jを出力増強したもの。
MU-2M
Lの長胴タイプ。
MU-2N
Lを出力増強したもの。最終生産型。
MU-2P
Nの長胴タイプ。
スペック

定員 - 7-9(用途別)

全長 - 長胴12.03 m、短胴10.13 m

全幅 - 11.95 m

全高 - 長胴4.17 m、短胴3.94 m

自重 - 3,200 kg (種別により多岐)

最大離陸重量 - 5,250 kg (種別により多岐)

エンジン - ギャレット・エアリサーチ TPE331-10-501M×2(種別により多岐)

最大速度 - 571 km/h=M 0.47

航続距離 - 2,780 km

各自衛隊での運用

MU-2販売当時の日本ではビジネス機の市場が小さかったため、民間ではそれほどの売上にはつながらず、もっぱら自衛隊への納入となった。
航空自衛隊
MU-2SMU-2S救難捜索機

MU-2Dの自衛隊仕様機であるMU-2Eをベースとした救難捜索機として開発されたのがMU-2Sで、航空自衛隊ではMU-2Aとして採用されて、1967年より導入を開始した[8]1987年(昭和62年)までに29機を導入、全国の救難隊に1-2機ずつを配備した。


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