MIMO
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この項目では、通信技術の一種について説明しています。茨城県水戸市にあるショッピングセンターについては「MIMO (水戸市)」をご覧ください。
SISO, SIMO, MISO, MIMO

MIMO (multiple-input and multiple-output、マイモ)とは、無線通信において、送信機と受信機の双方で複数のアンテナを使い、通信品質を向上させることをいう。スマートアンテナ技術の一つ。なお、"input" および "output" との言い方はアンテナを装備した機器を基準とするのではなく、信号を伝送する無線伝送路を基準としている(伝送路から見て入力となる送信側が "input"、伝送路から見て出力となる受信側が "output" となる)。

帯域幅や送信出力を強化しなくともデータのスループットやリンクできる距離を劇的に改善するということで、無線通信業界で注目されているテクノロジーである。周波数帯域の利用効率が高く(帯域幅1ヘルツ当たりのビットレートが高くなる)、リンクの信頼性または多様性を高めている(フェージングを低減)。以上からMIMOは、IEEE 802.11n (Wifi)、4G3GPP Long Term EvolutionWiMAXHSPA+といった最近の無線通信規格の重要な一部となっている。
歴史
背景

この分野で最初期のアイデアとしては、A.R. Kaye と D.A. George(1970年)、W. van Etten(1975年、1976年)まで遡る。ベル研究所の Jack Winters と Jack Salz は1984年と1986年にビームフォーミングに関する応用についての論文を発表した[1]
原理の考案

Arogyaswami Paulraj と Thomas Kailath は1993年、MIMOを使った 空間多重化 (SM, spatial multiplexing) の概念を提唱した。1994年には空間多重化に関する特許(アメリカ合衆国特許第 5,345,599号)を申請しており[2]、特に無線放送での応用を強調している。

1996年、Greg Raleigh と Gerard J. Foschini はMIMOテクノロジーの新たなアプローチを考案し、リンクのスループットを効果的に改善すべく、一つの送信機に複数のアンテナを設置した構成を検討した[3][4]

1998年、ベル研究所はMIMO通信システムの性能を改善する主要テクノロジーである空間多重化の実験室レベルでのプロトタイプ開発に成功した[5]
無線規格

世界初の実用化は2001年のことで、Iospan Wireless Inc. がMIMOと直交周波数分割多元接続テクノロジー (MIMO-OFDMA) を使ったシステムを開発した。Iospanの技術は、ダイバーシティコーディングと空間多重化の両方をサポートしていた。2005年、Airgo Networks はMIMOに関する特許に基づき、まだ規格策定中だった IEEE 802.11n をいち早く実装した。翌2006年には、数社(ブロードコムインテルマーベル他)がMIMO-OFDMを採用し、まだ規格が確定していない802.11nの実装を行っている。同じく2006年、数社(Beceem Communications、サムスン電子、Runcom Technologies 他)がMIMO-OFDMAを採用しWiMAX(IEEE 802.16e)の実装を行った。今後の4GシステムもMIMOテクノロジーを採用する予定である。研究レベルでは1Gbit/sのプロトタイプも登場している。
機能

MIMOの主な機能は、プリコーディング、空間多重化 (SM)、ダイバーシティコーディングの3つに分類される。
プリコーディング (en)
プリコーディングとは狭義には、マルチストリームのビームフォーミングを意味する。広義には送信におけるあらゆる空間処理を意味する。(単一層の)ビームフォーミングにおいては、同じ信号をそれぞれの送信アンテナから適当な位相(および時には適当な利得)に重み付けして送信し、受信側で信号のパワーが最大になるようにする。ビームフォーミングの利点は受信側の信号利得を増大させることであり、そのために異なるアンテナから放射された信号を構築的に加算することができ、多重伝送によるフェージングの影響を低減させる。散乱がなければビームフォーミングは良い指向性パターンを示すが、典型的な携帯電話のビームとは異なる。受信側が複数のアンテナを持つ場合、送信側によるビームフォーミングで全受信アンテナの信号レベルを同時に最大化することはできず、マルチストリームのプリコーディングが使われる。なおプリコーディングを行うには、送信側でチャネル状態情報 (CSI) についての知識を持っていることが要求される。
空間多重化 (en)
空間多重化にはMIMO型のアンテナ構成を必要とする。高転送レートの信号を低転送レートの複数のストリームに分割し、それぞれのストリームをそれぞれの送信アンテナから同じ周波数チャネルに発信する。受信側のアンテナ・アレイで個々のアンテナの空間特性が十分に異なるなら、それらの信号がそれぞれのアンテナによって受信され、並列のチャネルとしてそれらのストリームを分離することができる。空間多重化は、高いSN比通信路容量を増大させる非常に強力な技法の1つである。空間ストリームの最大数は、送信側または受信側のアンテナ数の少ないほうに制限される。空間多重化には伝送路についての知識は必ずしも必須ではない。空間多重化を複数の受信機への同時送信に使うこともでき、それを空間分割多元接続 (SDMA) と呼ぶ。
ダイバーシティコーディング (en)
送信側にチャネル状態情報についての知識が全くない場合の技法。空間多重化とは異なり単一のストリームを送信するが、その信号は時空間符号化という技法で符号化される。その信号を(ほぼ)完全な直交符号としてそれぞれの送信アンテナから発信する。ダイバーシティコーディングは、複数アンテナリンクにおける個々のフェージングを利用して、信号のダイバーシティを強化する。チャネルについて知識がないため、ダイバーシティコーディングでビームフォーミングを行うことはできない。

送信側でチャネルについての知識があれば、空間多重化とプリコーディングを組合わせることができ、復号の信頼性とのトレードオフで空間多重化とダイバーシティコーディングを組合わせることもできる。
形態
マルチアンテナ型

802.11n 製品などはマルチアンテナ型(シングルユーザーMIMO)の実装である。MIMOが縮退するとSISO (single input and single output)/SIMO/MISOとなる。受信側が単一アンテナとなる縮退状態がMISO (multi input and single output) で、送信側が単一アンテナとなる縮退状態が SIMO (single input and multi output) である。SISOは送信側も受信側も単一アンテナの通常の無線通信を意味する。

シングルユーザーMIMOの基本技法として、次の具体例がある。

Bell Laboratories Layered Space-Time (BLAST)
, Gerard. J. Foschini (1996)

Per Antenna Rate Control (PARC), Varanasi, Guess (1998), Chung, Huang, Lozano (2001)

Selective Per Antenna Rate Control (SPARC), Ericsson (2004)

アンテナの配置間隔はなるべく広い方が望ましく、基地局では波長の何倍という値になる。アンテナの配置は携帯型の送受信機では重大な問題であり、設計とアルゴリズムによる対策の両面で検討が進められている。
マルチユーザーMIMO

近年、マルチユーザーMIMO技術の研究が盛んになっている。完全なマルチユーザーMIMO(ネットワーク型MIMO)は高い可能性を秘めており、部分的なマルチユーザーMIMOの実用化研究が盛んである。
マルチユーザーMIMO (MU-MIMO, en
)
MU-MIMOは高いスループット能力を実現しつつ、SU-MIMOよりも受信アンテナ数が少なく機器の複雑性も小さくて済むため、3GPPWiMAXの最近の規格では、サムスン、インテル、クアルコム、エリクソン、TI、ファーウェイ、フィリップス、アルカテル・ルーセント、フリースケールといった多くの企業が仕様を実現するための技術候補の1つとしてMU-MIMOを挙げている。シングルユーザーMIMOのスケジューリングが単独のユーザーだけに割り当てるのに対して、PU2RC (Per-User Unitary Rate Control) ではネットワークがそれぞれのアンテナを異なるユーザーに割り当てることを可能にする。ネットワークはコードブックベースの空間ビームまたは仮想アンテナを通してユーザーデータを送信することができる。空間的に識別可能なユーザーとコードブックベースの空間ビームをペアにするなどの効率的なユーザースケジューリングは、無線ネットワークの単純化という観点で議論が進められている。PU2RC は IEEE 802.16m (WiMAX2) の system description documentation (SDD) に含まれている。
協調MIMO (CO-MIMO)
分散して存在する異なるユーザーのものであるアンテナ群を利用するMIMO。
MIMO ルーティング
MIMOルーティングとはクラスター単位のルーティングであり、各クラスターは1つ以上のノードからなる。従来の(SISO)ルーティングはノードからノードへのルーティングであるのに対して、MIMOルーティングはクラスター単位である点が異なる[6]
用途

空間多重化技法は受信機を非常に複雑化させるため、一般に変調方式としてマルチパスに起因する問題を効率的に扱える直交周波数分割多重方式 (OFDM) または直交周波数分割多元接続 (OFDMA) と組合わせて使用する。IEEE 802.16e ではMIMO-OFDMAを採用している。2009年10月にリリースされた IEEE 802.11n はMIMO-OFDMを推奨している。

移動体通信でも、3GPP3GPP2の最近の規格でMIMOが採用されている。3GPPでは、HSPA+および Long Term Evolution (LTE) でMIMOを取り入れている。さらに携帯電話環境でMIMOを完全サポートするため、 ⇒IST-MASCOT などの研究コンソーシアムはより進んだマルチユーザーMIMOの開発を提案している。

MIMOは無線通信だけに限定される概念ではない。有線通信でも活用可能である。例えば Binder MIMO Channels に基づいた新たなDSL技術(ギガビットDSL)が提案されている。
数学的解説MIMO伝送路モデル

MIMOシステムでは、送信機が複数の送信アンテナを使って複数のストリームを送信する。送信ストリームは送信機側の N t {\displaystyle N_{t}} 個の送信アンテナと受信機側の N r {\displaystyle N_{r}} 個の受信アンテナの間の全部で N t N r {\displaystyle N_{t}N_{r}} 個の伝送路から成る行列チャネルを通る。受信機は複数の受信アンテナで信号ベクトルを受信し、それら信号ベクトルを復号して元の情報を得る。ナローバンドのフラットフェージング型MIMOシステムは次の式でモデル化される。 y = H x + n {\displaystyle \mathbf {y} =\mathbf {H} \mathbf {x} +\mathbf {n} }


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