M4中戦車
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大型化した76.2mm用砲塔は、75mm用砲塔と共通の砲塔リングであるが、前期型車体では搭載スペースが不十分なため、前面装甲板の一体化などで車内容積が増えた後期改良型車体にのみ載せられていた。砲身を含むと全長が7.47メートルとなる。

当初、75mm砲型と平行して生産することを構想されていた105mm砲型は、生産簡略化及び砲架の不具合などの理由により、その生産開始は1944年となった。この搭載された105mm砲は、105mm榴弾砲M2を車載用に改造したものであり、105mm榴弾砲M4と呼ばれた。使用弾薬には、榴弾であるM1や発煙弾のM84の他、対戦車戦闘用の成形炸薬弾のM67などがある。(この成形炸薬弾は距離にかかわらず、約100mmの垂直装甲板を貫通する性能があった)このタイプの欠点として、弾薬のサイズが車内の広さに対し少々過大気味であり、装弾数も76.2mm砲搭載型よりも少なかった。

イギリス軍では75mm砲搭載型を無記号、76.2mm砲型をA、105mm砲型をB、17ポンド砲型をCと分類していた。シャーマンICは、シャーマンI(M4)ベースのファイアフライ、シャーマンIIIAはM4A2ベースの76.2mm砲型ということになる。また、イスラエル国防軍では、車体に関係なく搭載火砲の種別のみで、M1、M3、M4と分類していた(これはM50/M51スーパーシャーマンも同様である)。

M4:主要生産車体の各型比較名称主砲車体エンジン
M4(75)75 mm溶接車体コンチネンタルR-975
星型ガソリン
M4(105)105 mm 榴弾砲
M4 コンポジット75 mm前面が鋳造、後部は溶接
M4A1(75)鋳造車体
M4A1(76)W76 mm
M4A2(75)75 mm溶接車体GM6046
複列12気筒ディーゼル
M4A2(76)W76 mm
M4A3(75)W75 mmフォード GAA
V型8気筒ガソリン
M4A3(76)W76 mm
M4A3(105)W105 mm榴弾砲
M4A3E275 mm[注 5]
M4A475 mm溶接車体(延長)クライスラー A57
直列6気筒×5 複列ガソリン
M4A6前面が鋳造、後部は溶接(延長)キャタピラー D200A
星型ディーゼル
車体前方に固定機銃を搭載した 鋳造車体のM4A1試作型

76mm戦車砲M1がタングステン鋼芯入りの高速徹甲弾(HVAP)M93を用いた場合は、ドイツ軍88mm砲並みの貫徹力(距離914m、30°で135mm)だが砲身寿命が半減する。加えて発射時の反動が大きいため砲口にマズルブレーキが追加された。この砲弾は、1944年8月から前線に支給されるようになったが、月産10,000発しか製造できなかったので、M10駆逐戦車などに優先して供給され、シャーマンへの供給は十分では無く、バルジの戦いの頃においても、シャーマンには常時1?2発程度の支給に留まった[3]。後の朝鮮戦争では十分に供給され、T-34を撃破する威力を見せた。

なお、被帽付徹甲弾であるM62弾を用いた場合は、距離500mで116mm厚の装甲を、1000mでは106mmの装甲を貫通できた[4]が、実戦においてはドイツ軍戦車であるパンターの防盾を打ち抜く場合は180mの距離まで接近する必要性があった。M93弾の場合は730m~910mの距離でパンターの防盾を貫通できた。しかし、いずれも車体正面は貫通不可能であった[5]

ドイツ軍はパンターなどの自軍戦車の強みである、強力な戦車砲と厚い装甲を活かした長距離での戦闘を望み、戦車兵に1,800mから2,000mでの戦闘を指示したが、ドイツ軍の想定通りの距離での戦闘とはならず[6]、アメリカ軍がドイツ軍の戦車を撃破した平均距離は893mに対しドイツ軍がアメリカ軍の戦車を撃破した距離は946mであり、自軍戦車の強みを十分に活かすことはできなかった[7]。これはパンターが関係した戦闘でも同じであり、パンターが直面した平均交戦距離は850mで、1,400mから1,750mのドイツ軍が望んだ長距離での戦闘はわずか5%、それより長い距離の戦闘は殆どなく[8]、結果的に多くのパンターがシャーマンに撃破されて、76.2mm砲と高速徹甲弾はシャーマンの対戦車能力を大きく向上させることとなった[3]

副武装に、1挺の12.7mm機銃、2挺の7.62mm機銃を搭載する。しかしイギリス軍の車輌では12.7mm機銃を装備していない物が大半である。M4A1とA2の極初期型には、M3中戦車のように車体前方に2挺の7.62mm固定機銃が付いていたが、すぐに廃止された。
防御沖縄戦で日本軍の速射砲や爆雷に対抗するため、現地で増加装甲板を溶接される海兵隊のM4A3(75)W、砲塔にも履帯が巻き付けてある

M4中戦車に対する7.5cm48口径戦車砲の有効距離部位距離備考
防楯100 m戦車が飛翔している徹甲弾に対し30度の角度をとった場合を想定。
砲塔正面1,000 m
車体正面上部0 m
車体正面下部1,300 m

ドイツ軍兵器局が1944年10月5日に作成した資料によると、IV号戦車IV号突撃砲などに搭載された7.5cm48口径戦車砲を使用した場合、車体正面下部は1300m、砲塔正面は1000mで撃破可能としているものの、車体正面上部(傾斜部分)は貫通不可能であり、防楯(砲身付近)は100m以内に接近しなければ貫通できないと分析している[9]

主砲弾薬庫は前期型車体では左右袖部(スポンソン)に設けられていたため、敵弾貫通時に破れた薬莢から漏れ出た装薬に引火、火災がM4の撃破原因の60-80%という高い割合を占めていた[10]。あまりにM4が激しく炎上するため、アメリカ軍やイギリス軍の戦車兵の中ではM4のことを「ジッポー」や「ロンソン」(いずれも有名なライターのこと)と呼んだり、また敵のドイツ兵は「トミー・クッカー」(トミーはイギリス兵の俗称、クッカーは野戦調理用の固形燃料缶のことで、イギリス兵調理器という揶揄)と呼んでいたという[11]。M4が炎上し易かったのは、ガソリンエンジンを搭載したためという誤解もあるが、実際には前述の通り被弾しやすい位置に弾薬庫があったことが原因であった[3]

応急対策として、弾薬箱の位置の車体側面に補助装甲板が溶接された。後期改良型車体では全体を不凍液グリセリン溶液)で満たして引火を防ぐ湿式弾薬庫を床下に設置(湿式弾薬庫搭載型は末尾にWaterの略である「W」が付けられている)されて、火災の発生率は約10-15%と大きく低下した[10]。これにより、前期型車体では装填手が砲塔バスケットのフロアに立っていたのが、後期型車体では床下から砲弾を取り出すのに邪魔な足元のフロアが無くなり、砲塔旋回の際には自力で動いてついていかなくてはならなくなった。また、これとは別に、イギリス軍はシャーマン ファイアフライの改造時にスポンソン上の弾薬箱を撤去し、床上や副操縦席のあった場所に装甲弾薬箱を新設している。

また、前線では予備の履帯や転輪、土嚢を増加装甲代わりに積載したり、コンクリートを厚く塗布するなど、追加防御策が行われている。多くは調達や交換が容易で、パンツァーファウスト成型炸薬弾対策にもなる土嚢が用いられた。しかし、この効果に対しては賛否両論あり、逆に貫徹力を高める間合い(スタンドオフ)を作ってしまうという意見が出る反面、実戦で効果があったと主張する者もいた[注 6]パットン将軍は、「軍人の所業らしくない」とこれを嫌って土嚢装甲を禁止し、麾下のアメリカ第3軍では撃破された友軍やドイツ軍の戦車の車体から切り出した鋼板を貼り付けていた。

アメリカ海兵隊においては、太平洋戦線で日本軍の速射砲に側面や後面を狙い打たれて撃破されるM4が続出したこともあり、現地で鉄板やコンクリートや木材など手に入る材料は何でも増加装甲代わりに装着した。

戦後、イスラエル国防軍が独自改良を行ったM50/M51スーパーシャーマンでは、火力はフランス製のAMX-13用75mm砲やAMX-30用105mm砲の装備により一線級を保っていたのに対し、装甲防御力については重量的限界からほとんど対策されないままであった。
運用
北アフリカ戦線エル・アラメインの戦いに投入されたイギリス軍のシャーマンII(M4A1)

第二次世界大戦の連合国の主力戦車で、アメリカの高い工業力で大量生産された。生産に携わった主要企業は11社にも及び、1945年までに全車種で49,234輌を生産した。各生産拠点に適したエンジン形式や生産方法を採る形で並行生産させたため、多くのバリエーションを持つが、構成部品を統一して互換性を持たせることにより高い信頼性や良好な運用効率が保たれていた。

M4が最初に戦闘に投入されたのは、北アフリカ戦線エル・アラメインの戦いであった。ガザラの戦いトブルク要塞を失ったイギリス首相ウィンストン・チャーチルが、アメリカ大統領フランクリン・ルーズベルト第2回ワシントン会談の席でレンドリースを直談判し実現したものであった。このときにはまだM4の生産が軌道にのったばかりで、完成していた300輌は既にアメリカ軍の戦車師団に配備されていたが、ルーズベルトの政治的判断で、そのM4中戦車300輌をそのままイギリスに供与することとなった。さらにM101 105mm榴弾砲をM4中戦車の車体に搭載したM7自走砲100輌の供与も決定された[12]。ドイツの情報機関もアメリカ製の新型戦車が、輸送艦に搭載されて北アフリカに向かっているという情報を掴んでおり、その性能の分析に躍起となっていたが、その分析資料となったのが、エジプトカイロで入手した南アフリカ軍の雑誌で、その雑誌に掲載されていたクリスマスカードの広告にM4の写真が使われており、ドイツ軍の情報機関はこの写真から主砲の口径などを類推している[13]


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