M-Vロケット
[Wikipedia|▼Menu]

M-V
ASTRO-E の打ち上げを待つ M-V 4号機(2000年2月)
基本データ
運用国 日本
開発者ISAS日産自動車IHIエアロスペース
運用機関ISASJAXA
使用期間1997年 - 2006年
射場内之浦宇宙空間観測所
打ち上げ数7回(成功6回)
開発費用165億円[1]
打ち上げ費用約75億円[2]
原型M-3SIIロケット
公式ページISAS - M-Vロケット
物理的特徴
段数3段
ブースターなし
総質量140.4t
全長30.8 m
直径2.5 m
軌道投入能力
低軌道1.85t
250 km / 31度
脚注
機体によって構成が異なるため、値は一例。
テンプレートを表示

M-Vロケット(ミューファイブロケット、ラテン文字のM[注 1]ローマ数字由来のV[注 2])は、文部省宇宙科学研究所(ISAS)と、その後継機関の独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)傘下の宇宙科学研究所日産自動車宇宙航空事業部(現・IHIエアロスペース)と共同で開発し、ISASが運用していた、人工衛星惑星探査機打上げ用の3段式の全段固体燃料ロケット
概要

M-Vロケットはミューロケットシリーズの第2期計画であるABSOLUTE計画の第2段階であり、第1段階のM-3SIIロケットで打ち上げられたさきがけすいせいによる彗星探査以降、惑星探査の機運が高まったことに伴い提案されたものである。政策としては1989年6月改訂の宇宙開発政策大綱において宇宙科学研究の一層の推進と全段固体ロケット技術の最適な維持発展、内之浦宇宙空間観測所の有効利用を目的として位置付けられ、1990年から開発がはじまった。開発開始以前からM-Vと呼ばれており[3]、第1段に尾翼をもつ点が異なるが、それ以外の設計は完成型とほぼ同じであった[4]

1995年内之浦宇宙空間観測所から最初の打ち上げを予定していたが、モーターケースの素材として採用された高張力鋼HT-230の水素脆性に関する問題が1992年5月に発見され、材料の選定からやり直す必要があったために完成が2年遅れることとなった。先任のM-3SIIロケットは1995年に運用終了となっていた為、打ち上げ予定が大幅にずれ、火星探査機のぞみはこの影響を最も受けてしまった。

1号機の成功以降、4号機の失敗(後述)以外の打ち上げ実験は全て成功裡に行われ、7機打ち上げ6機成功という結果を残したが、2006年7月26日、M-Vロケットの廃止の決定が下された[5]2006年9月23日のSOLAR-Bの打ち上げを最後に現役を退き、糸川英夫博士のペンシルロケットに起源を持つ、完全国産固体燃料ロケットであるミューシリーズの最終機種となった。

ミューシリーズで培われた様々な固体燃料系技術は、H-IIA/H-IIB固体ロケットブースターSRB-Aや、小型科学衛星シリーズの打ち上げで宇宙科学研究所が中心的に利用する予定のイプシロンロケットなどに活用され、その他の技術は多くの国産ロケットに継承される事になる。
特徴
各段の構造と制御第1段のノズル周辺

一段目のM-14は内面燃焼の固体燃料ロケットを高張力鋼(HT-230M)のモーターケース(液体ロケットのエンジンに相当)に納めており、姿勢制御は可動ノズルによる推力偏向制御(Movable Nozzle Thrust Vector Control、MNTVC)によって行われる。一般にMNTVCはジンバルに接続された燃焼室の向きを変えることで行われるが、M-Vでは柔軟な素材(ゴムと金属の多層構造)で製作されたノズルの形を変形させることで行われる。[6]二段目のM-24も高張力鋼のモーターケースを持つが、姿勢制御はノズル内部への液体(過塩素酸ナトリウム)噴射による推力方向制御(Liquid Injection Thrust Vector Control、LITVC)が採用されている。[6]三段目のM-34ではモーターケースの素材として炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が採用されている。オプションで4段目にキックモーターを搭載することも可能であり、その場合には月遷移軌道や太陽周回軌道に500kgの探査機を打ち上げることが可能となる。キックモーターKM-V1のモーターケースの素材も炭素繊維強化プラスチック(CFRP)である。

またM-34とKM-V1では全長を短縮するために、ロケット収納時には折り畳まれ分離後に全長が伸びる伸展ノズルが採用された。この伸展ノズルはM-3SIIロケット4号機のキックモーターではじめて実用化されたものである。M-34の姿勢制御にはMNTVC、KM-V1にはスピン安定が採用されている。
斜め打ち上げ斜めにセットされたM-Vロケット6号機(打ち上げ前の試験にて)

近年開発された大型ロケットには珍しく、海側に傾けたレールランチャーにより斜めに発射される。M-3SIIまでは重力ターン方式による飛行マニューバのため、斜め打ち上げは必須であったが、誘導機能が強化されたM-Vの場合は垂直に打ち上げても衛星軌道投入は可能である。しかし、M-Vが従来通り斜め打ち上げであるのは、ロケットの打ち上げに失敗した場合、いち早く海側に投げ落とすことで発射台の被害を最小限に抑えるためである。
世界最大級と弊害

全備重量139トンというM-Vロケットの大きさは、同じ三段式固体燃料ロケットを採用したアメリカ空軍ICBMであるLGM-118ピースキーパー(88.5トン)や同型モーターを採用したロッキード・マーティン社のアテナ II ロケット(120.7トン)、ロシアSLBMであるR-39(90トン)をしのぎ、世界最大級の固体燃料ロケットとなっている。ただしブースターも含めればスペースシャトル固体燃料補助ロケットと、その派生型のアレスIの一段目が世界最大の固体燃料ロケットである。

しかし、M-Vは大量に作られるこれらのミサイルや多くの商業ロケットとは異なり、1機1機が衛星・探査機に合わせて組み立てられた特注品であり、積荷にあわせた仕様に調整することができるが、その分高価であることが弱点である。また、そのランチャーは発射時の噴進反射波がロケット側に直接跳ね返る構造であるため、発射時に大きな震動が加わり、衛星に損傷を与えかねない危険もはらんでいた。
仕様6号機の打上げ

M-Vロケットは衛星毎にカスタマイズされているため統一的な仕様が存在しない。代表例として1号機及び5号機の仕様を記す。(1号機/5号機)

括弧内は参考としてM-3SIIロケットのもの。

全長: 30.7/30.8 m(27.8m

直径: 2.5/2.5 m(1.41m

重量: 139/140.4 t(61t

低軌道への打ち上げ能力(ペイロード): 1,800/1,850 kg[注 3][7](770kg

主要諸元一覧

1号機[8]段数(Stage)第1段第2段第3段キックステージ
諸元全長[9]30.7m17.1m9.7m6.0m
代表径2.5m2.5m2.2m1.2m
各段点火時質量[9]139t52t14t2.4t
固体
ロケット
モータモータ名称[注 4]M-14M-24M-34a[9]KM-V1


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:50 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef