M&A
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企業買収の基本的な仕組み
会社の所有者と経営者について

企業が株式会社等である場合、取締役などが経営者として経営の義務を負い、株主などが所有者として規定(法定又は定款で定める)されている権利を行使することにより、一定の緊張関係を存在させることで企業の統治を行う事で、適切に会社の存在意義と法令遵守が全うされると考えられている(会社法の予定する理想形)。これを所有と経営の分離と言う。具体的には、株主が株主総会において、取締役や監査人の選任、定款記載事項の変更、および株主提案(米国には制度がない)を行い、会社のコントロールを行う事等を指す。経営者の地位は、プロ野球選手と同じ委任契約であり、雇用契約ではない。また所有者の「所有」とは、狭義では法定又は定款で定められた権利行使を約束された権利である(社会通念より弱い「所有」であるのは、債権者保護と間接有限責任の両立が目的であるとされる)。

企業買収とは、一般的には買収者は現在の株主から株式を買い取って新たに株主となり、その会社の「所有」者として経営をコントロールする。株主として配当等の経済的利益を受けるメリットを享受するのが第一の目的とされる(企業のコントロール自体を目的とする場合もある)。

いわゆるオーナー企業で経営者と株主が同じ場合を除き、経営陣は株主に選任されて会社運営を任された立場に過ぎない。買収提案時点での経営陣はそれまでの株主に経営を任された者であるから、買収によって株主が変動することは自らを選任した者たちが株主でなくなることを意味する。取締役は選ばれる立場に過ぎず、本来直接株主の異動に意見を述べる立場にない反面、実際には経営者としての地位保全のためには重要な利害関係を有する出来事となる(私利的な利害)。

経営陣が買収提案に意見を述べるのが正当化されるのは、企業価値(狭義では配当と株価)が維持されるかどうかという目的について、現在の株主に対し買収提案が妥当なものかどうかについての意見を述べるときである。ごく端的に言えば自分の立場が危うくなるから反対するのではなく、株主にとって買収提案に乗ることはメリットがないからやめたほうが良いという現場からのアドバイスという位置づけにすることで取締役は買収提案に反対してもそれが私利私欲に基づくものではないということができることになる。
株式の保有割合

株式は細分化された上で複数の株主に保有されることが予定されており、通常は発行済み株式総数や各議案について行使可能な議決権を有する株式数との関係で割合的に会社の「所有権」を取得することになる。取締役の選任など通常の株式会社の議案については発行済み株式総数の過半数の議決権を有する株主の賛成で承認されること、また会社にとって重要な合併の承認・定款の変更などについては同じく3分の2以上の議決権を有する株主の賛成で承認されることから、会社の株式の保有割合については過半数を有しているかどうか、3分の2以上を有しているかどうかが会社の「所有」に関する区切りとなりうる。また、そこに至らなくても3分の1以上の議決権を有している場合には意に沿わぬ重要決議を阻止することができることとなる。
株式の取得方法

買収者は、株式を現在の株主からの相対取引(個別交渉)により取得することができるほか、公開会社の場合には証券取引所などのマーケットにおいて対象企業の株式を取得することができる。ただし、特定企業の株式を一定割合以上取得するときには大量保有報告書などの証券取引法(金融商品取引法)上の規制を受けることとなるほか、一定の場合には公開買い付けの方法によることが義務付けられるなどの制約が課されることとなる。公開買い付けは買収提案者が条件を公表しつつ広く一般株主から買い付けを行うものであり、それに現在の経営陣が同意する場合には上場企業の場合には適時開示の一環としてその旨を買収先企業も公表することが必要とされることから、少なくともこの時点で買収の取り組みは公然のものとなりその枠組みがいわゆる敵対的買収なのか友好的買収なのかが明らかになる。
M&Aをめぐる戦略
一般的な友好的M&A取引の進め方
基本合意書

基本合意書(MOU)を用いて、交渉に先立って一定の合意を行うことがある。秘密保持や独占的交渉権、誠実交渉義務などの約定がなされる。これより手前で秘密保持契約(NDA)が結ばれることも多い。
デューディリジェンス

対象企業のプライシング、契約書による必要な手当て、リスクの事前把握などを目的として、デューディリジェンス(「DD」)という監査が行われる。当事者や投資銀行によるビジネスDD(事業DD)、弁護士による法務DD、公認会計士による財務DD、弁理士による知財(特許権、商標権、著作権等)DDなどがある。
契約締結

合併契約書、株式売買契約書などの必要な契約書が作成され、締結される。そのドラフトは、当事者同士か、法務DDを担当した法律事務所が中心となって行い、DDの結果を反映することとなる。契約締結に先立って、必要に応じて、各当事者の社内手続(取締役会や株主総会などでの決裁)を経るとともに、関連官庁(業規制当局や競争法当局)の許認可等を得ることがある。
クロージング

契約によって定められた日に決済がなされ、M&Aが実行される。
敵対的買収

敵対的買収(hostile takeover)とは対象会社のその時点の経営者に対して友好的ではない買収を指す言葉で、通常は買収対象会社の取締役会による同意が得られていない買収を言う。経営陣が買収提案に同意しない場合には買収防衛策の導入が図られたり、株主に対し会社経営陣として買収提案に応じないよう働きかけが行われたりすることから、買収の成否をめぐって買収提案者と被買収側会社経営陣などを中心に激しい闘争がなされることとなる。

表現としてはあまり好いイメージとは言えないが、敵対的買収という文脈での「敵対的」との表現は現経営者と買収提案者が「敵対的」であることを意味するだけであり、買収の提案内容とは中立的なもので、あくまで買収提案者以外の株主や投資家・従業員・社会一般にとって敵対的・有害な買収であることなどを意味しているものではない。

ただし、敵対的な買収の場合、対象となる企業の経営陣のみならず、従業員・労働組合・取引先企業・下請けなどにとっても友好的とはおよそ言い難い敵対的な内容で、利己的な買収が強行されるパターンも往々に発生する。また、買収側の企業や経営陣が劣悪な労働環境・ドライな労使関係や商慣行で広く知られていたり、あるいは短期的な自己の利益のため活動しており企業の長期展望など顧みない投資ファンドなどである場合には、買収の対象となった側の企業の内外において様々な情報や関係者間の不安が交錯し、自身の先行きに不安を感じた従業員の大量離職が短期間に発生したり、関係の行き詰まりを見越した取引先や下請けが取引を打ち切るなど、買収に様々なリスクが付いて回ることも少なくない。また、特にこの様な形で社内が混乱している場合には、これに乗じて競合企業から従業員にヘッドハンティングが仕掛けられる場合もある。これらの結果として、特に特定の業務独占資格の有資格者が必要な業種では、買収が成立してもその企業から有資格者が流出し人数不足となることによる業務の停滞や、離職した者がノウハウを基に新たに同業者を立ち上げて競合関係になる、などといったリスクを抱える場合もある。
分類

M&Aは様々な観点から分類できる。以下はその一例である。

買収合意
[8]

有り: 友好的買収

無し: 敵対的買収


買収者[9]

従業員: エンプロイー・バイアウト(EBO)

経営陣: マネジメント・バイアウト(MBO)

@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}他にも資金源に基づく分類(借入含/LBO)がある[要出典]。


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