LRV_(月面車)
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LSSM MTAの開発においては、先行の小型ローバーに関する研究は全て用い、市販で手に入る部品は出来る限り用いられた。車輪の選択は非常に重要で、当時は月の表面についてほとんど情報がなかった。MSFCのSpace Sciences Laboratory (SSL)は、月面の性質の予測を担当していた。BECOはSSLの元請企業でもあり、車輪と表面様々な条件を試験する試験場を用意した。Pavlicsの弾力性のある車輪のシミュレートでは、ナイロンのスキーロープで覆われた直径4フィートのチューブが用いられた。MTAでは、それぞれの車輪が小さな電子モーターを備え、全体の電源には一般的なトラック用のバッテリーが用いられた。横転事故を防止するためにはロールバーが取り付けられた。

1966年初頭、BECOのMTAの試験の準備が完了した。MSFCはクレーターや岩を模した小さな試験場を設置し、LSSMとMOLAB MTAを比較した。提案されたミッションに対しては、小さなローバーが最適であることがすぐに明らかとなった。加速、バウンド高さ、高速での転覆率等の危険が伴う試験には、遠隔モードでの操縦も行われた。6分の1の重力下でのLSSMのパフォーマンスは、嘔吐彗星KC-135Aの飛行で検査され、非常に柔らかい車輪やサスペンションの必要性が示された。Pavlicsの金網状の車輪はMTAには用いられなかったが、ミシシッピ州ヴィックスバーグにあるアメリカ陸軍工兵司令部の水路実験所において、様々な土壌における試験が行われた。後に、金網状の車輪が低重力下で試験された際、塵の混入を防ぐためのフェンダーの必要性が発見された。LSSM MTAはアメリカ陸軍のユマ性能試験場やアバディーン性能試験場で広範な試験が行われた[10]
アポロ計画のLR V

1965年から1967年にかけて、月探査に関するサマーカンファレンスが開催され、科学者にNASAの月探査計画に対する評価や勧告を行う機会が与えられた。これにより、LSSMは計画の成功に欠かせないものであり、大きな注目を集めていることが分かった。フォン・ブラウンは、MSFCに月面車タスクチームを結成し、1969年5月、NASAは有人月ミッションにLunar Roving Vehicle (LRV)を使用することを決定し、MSFCの開発したManned Lunar Rover Vehicle Programを採用した。Saverio F. Sonny MoreaはLRV計画の責任者に指名された[11]

1969年7月11日、アポロ11号が月面への着陸に成功する直前頃、アポロ計画のLRVの最終設計と製造の見積依頼が出されることがMSFCにより公表された。ボーイング、ベンディックス、グラマン、クライスラーはこの募集に応募した。3か月間の提案評価と交渉の後、1969年10月28日にボーイングが元請に選ばれた。ボーイングは、ハンツビルのHenry Kudishの下でLRV計画を運営した。主な下請けとして、Ferenc Pavlics率いるゼネラルモーターズの防衛研究所が移動システム(車輪、モーター、サスペンション)を提供した。ボーイングは電子系とナビゲーションシステムを提供した。車両の試験は、ワシントン州ケントにあるボーイングの工場で行われ、シャーシの製造と全体の組立てはハンツビルにあるボーイングの工場で行われた[12]

最初のボーイングへの支払いは1900万ドルで、最初のLRVを1971年4月1日までに納入することを求められた。しかし、費用が見積もりを超過し、最終的な費用は、NASAの当初の見積もりとほぼ同じ3800万ドルを要した。4台の月面車が完成し、3台はそれぞれアポロ15号、16号、17号に用いられ、残りの1台は中止されたアポロ計画のために作られたものである。Savero Moreaによる論文は、LRVシステムとその開発に関する詳細な情報を与えてくれる[13]1972年4月、月着陸船オリオンの近くに停めたLRVで作業をするジョン・ヤング

アポロ15号、16号、17号のミッションで、LRVは素晴らしい移動性を発揮した。最初に用いられたのは1971年7月31日で、月探査の範囲を大きく広げることに成功した。以前のアポロの宇宙飛行士は、かさばる宇宙服のため、着陸地点の周りを徒歩で探査するだけだったが、その制限はLRVによって解消された。しかしこの範囲は、LRVが故障した時に戻れる範囲という運用上の制約を受けた[14]。LRVの設計上の最高速度は約13km/hであったが、ユージン・サーナンは、18.0km/hを記録し、月面上での(非公式な)最高速度記録を作った[15]

LRVはわずか17か月で開発されたが、大きな故障もなく、月面上で予定された全ての機能が用いられた。アポロ17号のハリソン・シュミットは、「LRVは、我々が期待していたような、信頼できて安全で柔軟な月面探査車であった。これなしでは、アポロ15号、16号、17号での重要な科学的発見はなし得なかったし、我々の現在の月の進化の理解も実現できなかっただろう」と述べた[14]

LRVに小さな不具合が生じることはあった。アポロ16号のLRVの後部のフェンダーは、ジョン・ヤングチャールズ・デュークを助けるためにLRVをぶつけた際、失われてしまい、車輪から出た塵が乗組員やコンソールや通信装置を覆った。これによりバッテリーの温度が高くなり、そのため消費電力が多くなった。修理は行われなかった。

アポロ17号のLRVのフェンダーは、ハンマーを持ったユージン・サーナンとたまたまぶつかった際に破損した。サーナンとシュミットはテープで貼って戻したが、表面が塵で汚れていたため接着が悪く、1時間の走行でフェンダーは失われ、宇宙飛行士は塵をかぶることとなった。2度目の船外活動の際、船外活動地図とダクトテープ、月着陸船のクランプを用いて、代替のフェンダーが作られ、取り付けられた。帰還の際、必要なクランプを回収するためにこの代替品は分解された。地図は地球に持って帰られ、現在は国立航空宇宙博物館に収蔵されている。塵による摩耗は、間に合わせのフェンダーの一部であった証拠である[16][17]1971年発行のアメリカ合衆国の切手に描かれたLRV

LRVの前面に取り付けられたカラーのテレビカメラは、地上のミッションコントロールセンターから、旋回、傾け、拡大等の遠隔操作を行うことができた。これにより、以前のミッションよりもはるかに良い画像を撮影することができた。

LRVは、ソビエト連邦ルノホート1号ルノホート2号と同様に、月面に残され、月にある人工物の1つとなっている。
性能と仕様月面でLRVのテストを行うユージン・サーナン

アポロのLRVは、低重力真空環境で月面を横断し、アポロの宇宙飛行士の行動範囲を広げるために設計されたバッテリー式電動輸送機器であった。3台のLRVが月面で使われ、アポロ15号ではデイヴィッド・スコットジェームズ・アーウィン、アポロ16号ではジョン・ヤングとチャールズ・デューク、アポロ17号ではユージン・サーナンとハリソン・シュミットが乗り込んだ。それぞれミッションコマンダーが運転手となり、左のシートに乗った。以下の諸元は、Morea[13]、Baker[18]、Kudish[19]らの論文による。
質量とペイロード

LRVの質量は210kgで、月面での重量は35.0kgwになる。月面上でさらに490kgを運ぶことができるペイロードを備えている。フレームの長さは3.0mで、ホイールベースは2.3m、車高は1.1mである。フレームは2219本のアルミニウム合金のチューブで作られ、3つのシャーシが中央で蝶番で接続されているため、折りたたむことができる。シートもアルミニウムのチューブにナイロンの網を貼った構造で折りたたむことができる。シートの間にはアームレストが設置され、それぞれのシートには、調節可能なフットレストと面ファスナーのシートベルトが備えられた。大きなメッシュのアンテナがLRVの前面中央に設置された。
車輪と電源車輪のクローズアップ

車輪はゼネラルモーターズの防衛研究所によって作られた。フェレンツ・パヴリックスは、弾力性のある車輪を開発するため、NASAから特別な承認を与えられた[20]。この車輪は、アルミニウムのハブと直径81cm、幅23cmのタイヤで構成される。タイヤは、0.84mm径の亜鉛でメッキされた鉄でできた織物から作られた。摩擦を大きくするため、チタン製の板が接地面の50%を覆う。タイヤの中には、ハブを保護する直径65cmの衝突防止枠が設けられ、さらに塵除けが車輪の上から被せられた。それぞれの車輪には、デルコ・エレクトロニクス製の1万rpm、0.25馬力の電子モーターが取り付けられた。

運転は、前部と後部に配されたそれぞれ0.1馬力のモーターによって行われる。四輪操舵で、回転半径は3mになる。

電源は、2つの36ボルトの銀-水酸化亜鉛カリウム一次電池から供給され、それぞれが121 A・hの電力を持ち、92kmの範囲を走ることができた[15]。これらはモーターを動かすのに使われ、これとは別に36ボルトの電源がLRVの前面外側に取り付けられ、通信装置とテレビカメラの電源となっている。運転の間、ラジエーターはマイラー樹脂製のブランケットによって塵から守られているが、停止した際には、ブランケットを開けて積もった塵を手で払わねばならなかった。
コントロールとナビゲーションLRVの構造の略図(NASA)

2つのシートの間のT型のコントローラーによって、4つのドライビングモーターと2つのステアリングモーター、ブレーキが制御された。スティックを前に動かすとLRVは前に進み、左や右に倒すと、LRVも左や右に曲がる。後ろに引くとブレーキがかかる。スティックを引く前にスイッチを押すと、LRVは後ろ向きに進む。ハンドルの前面にはディスプレイがあり、速度、向き、勾配、電力、温度等の情報が表示される。

ナビゲーションは、方位指示計とオドメーターを用いて方位と距離を常に計測、記録し、このデータをコンピュータに送ることによって、出発地点からの軌跡を計算することによって行われる。また、太陽の影から太陽に対する方角を計算する装置も備えられた。
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