K-Pg境界(ケイ・ピージーきょうかい、英: Cretaceous-Paleogene boundary)とは、地質年代区分の用語で、約6550万年前[1]の中生代白亜紀と新生代古第三紀の境目を指す。この時、顕生代における5回のうち最後の大量絶滅が発生した[注釈 1]。かつては白亜紀と第三紀の境と見なされK-T境界 (ケイ・ティーきょうかい、英: Cretaceous-Tertiary boundary)と呼ばれていた。
恐竜などの大型爬虫類やアンモナイトが絶滅したことで有名であるが、海洋のプランクトンや植物類にも多数の絶滅種があった。種のレベルで最大約75%の生物が絶滅した[2]。また個体の数では99%以上が死滅した[3]。
K-Pg境界では、後述するように、メキシコのユカタン半島付近に直径約10kmの巨大隕石(チクシュルーブ衝突体)が落下したことが知られている。この隕石落下が、大量絶滅の引き金になったと推定されている。 中生代白亜紀(独: Kreide)と新生代古第三紀(英: Paleogene)の境目であることから、K-Pg境界[4]またはK-P境界[5]と呼ばれている。スラッシュで接続しK/Pg境界とすることもある[6]。白亜紀は英語では Cretaceous だが、頭文字がCで始まる地質年代区分[注釈 2]が多いため、ドイツ語の Kreide からとった頭文字Kが略号として用いられる。 かつて、新生代最初の紀は第三紀(英: Tertiary)とされており、この境界も第三紀の頭文字TをとってK-T境界と呼ばれていた。研究の進展に伴い、かつての第三紀は古第三紀と新第三紀の2つの紀に区分されるようになり、1989年に国際地質科学連合は「第三紀」の語を正式な用語から外した[6]。このため、この境界も「K-Pg境界」と呼ばれるようになった[6]。 中生代は陸も海も大型爬虫類の全盛時代であった。陸上では恐竜は三畳紀末から白亜紀の最後にかけて、地上で繁栄していた。翼竜は三畳紀末に空中に進出し白亜紀前期終盤まで繁栄し、その後数を減らしつつあった。海中では三畳紀以来の魚竜はK-Pg境界事件の前には既に絶滅していたが、首長竜や大型のモササウルス類などは白亜紀の最終段階まで生存して栄えていた。また、アンモナイトは古生代から出現し、ペルム紀末の大量絶滅を乗り越え、再び繁栄した。K-Pg境界を境にして、全ての恐竜(鳥類および小型の獣脚類の一部をのぞく)、翼竜、首長竜、アンモナイトが絶滅した。生き残ったのは、爬虫類の系統では比較的小型のカメ、ヘビ、トカゲ及びワニなどに限られた。恐竜直系の子孫で、鳥類(当時では見方を変えれば小型の獣脚類である)も古鳥類
名称
大量絶滅「白亜紀と古第三紀の間の大量絶滅」を参照
水中での状況カナダ、アルバータ州のw:Drumheller近郊でのK-Pg境界の明瞭な地層
海中では海の食物連鎖の基本となるプランクトン類が大打撃を受け、そのためアンモナイト類などの中型生物が多数絶滅し、中型生物を捕食する大型生物のほとんどが絶滅した[10]。
白亜紀に繁栄していた植物プランクトンの円石藻類の85%が絶滅、また同様に海中に大量に生息していた有孔虫類は一部の例外を除きほとんど絶滅した[注釈 3]。
アンモナイトはデボン紀に出現して以降、3度の大量絶滅を経てもなお多様性を維持していたが、K-Pg境界は乗り越えられず絶滅した。
二枚貝類、腕足類、コケムシ類の多くの種が絶滅した。特に厚歯二枚貝はサンゴ類に代わって中生代の海を象徴する造礁生物だったが、K-Pg境界で全て絶滅した。
魚竜はジュラ紀に大隆盛を迎えてからは急激に衰退しはじめ、白亜紀の半ばには既に絶滅しており、首長竜も同時期に多様性を減少させていたが、K-Pg境界で絶滅した。
モササウルス類、淡水性サメ類[注釈 4]が絶滅した。
珪藻類、魚類の被害は比較的少なかった。
白亜紀の名の元は、当時の海洋に多数生息していた円石藻類や有孔虫類の炭酸カルシウムの殻が堆積したチョーク(白亜)である[12]。海洋でのK-Pg境界を記録した地層では、有孔虫類が激減したため境界をはさんだ上下でプランクトンの種類がほぼ全て変化しており、その違い(有孔虫の化石の有無や地層の色の違い)が肉眼でも確認できる[13]。 陸上では恐竜がことごとく全滅し、他の生物にも莫大な影響があった。(ただし、鳥類及び小型の獣脚類の一部を除くとアラモサウルスなどのごく僅かな種類が、K-Pg境界の上から見つかった報告例があることから、その後もしばらく生き延びていた可能性が化石から示唆されている)[14]
陸上での状況
翼竜類はジュラ紀に最盛期を迎えるが、白亜紀以降は鳥類の台頭と入れ替わりに衰退して多様性を減らしていき、K-Pg境界で絶滅した。
恐竜類のうち、鳥類(鳥類は小型の獣脚類の一種である)を除く全ての竜盤類(竜脚形類も含む)及び鳥盤類が絶滅。ケラトプス科のように北アメリカで多様性を得たり、ティタノサウルス類のように巨大化しながらも衰退して個体数も多様性も減らしていた種はK-Pg境界で全て絶滅した[注釈 5]。
哺乳類の被害は比較的軽微だったが、それでも少なくとも種の35%が絶滅した。特に全長が1m以上の大きさで恐竜の子供など小動物を主食にしていた肉食の種はほぼ全て絶滅した可能性が高く[16]、15?20cm程度で昆虫やミミズ、種子を主食にした雑食の種は被害が少なかった。
北アメリカの植物種の79%が絶滅した。
エナンティオルニス類などの現生鳥類の姉妹群のほとんどが絶滅した。鳥類(新鳥類)は多様性を維持していたので、無事生き残った[注釈 6]。
それ以外に両生類・昆虫類・恐竜以外の爬虫類(トカゲ類・カメ類・ワニ類・ヘビ類)などの被害も軽微だったが、今なお理由は不明である[18]。