IPCC第4次評価報告書
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気温や水温の変化や水資源・生態系への影響、人間社会への被害の予測結果について、現在までに分かった事項をまとめている。

報告書には下記のような項目が含まれる。
気候変化による自然および人類の環境への影響に関する現時点での知見

自然環境が地域的な気候変化の影響、特に気温上昇の影響を受ける。(1.3, 4.4, 8.2, 14.2, 15.4)

氷河減少、永久凍土減少、大洋での生態系の変化

湖沼や川の水温上昇

陸域での生態系の変化(春期到来の早まり、極域や高地への動植物の移動)

海水の酸性化


人為的温暖化の影響が物理的・生物学的に現れている可能性が高いとの結論は下記の4つの事実から導かれる:
第一作業部会の報告から、人為的な温室効果ガス増加が現在観測された地球温暖化の殆どをもたらした可能性がかなり高いと結論づけられる。

物理的・生物学的な変化を示す75の研究の29000以上の観測データの89%以上が温暖化による変化の方向と合致する。(図SPM.1, 1.4)

温暖化が顕著な地域と、温暖化と矛盾しない顕著な変化が観測された地域の一致が、自然起源の要因だけでもたらされた可能性はかなり低い。(図SPM.1, 1.4)

多くの研究が、観測事実との比較によって人為的要因と自然要因をはっきりと区別する。自然要因だけよりも人為的要因を考慮した予測がはるかによく観測事実と整合する。(1.4)


その他の自然や人間の環境への影響が現れ始めた。

氷河湖決壊リスクの増大(1.3)

アフリカの乾期の長期化と降雨の不定性の増大(1.3)

海面上昇による海岸線の湿地やマングローブ減少、高波・洪水被害増加(1.3)


将来の影響に関する現時点での知見

水資源

水資源の大幅な増減、雪解け水減少(3.4)

旱魃の影響増大、豪雨増加、洪水危険性の増大 (WGI 表SPM-2, WGII 3.4)


生態系

生態系の回復力を超える影響がある可能性が高い(4.1?4.6)

陸域生態系の炭素の吸収は今世紀半ばに飽和し、その後減少する可能性が高い。現状の水準以上の排出が続いた場合、排出に転じる可能性があり、気候変化を加速する。(4.ES, F4.2)

1.5?2.5℃の平均気温上昇で、約20?30%の種の動植物が絶滅の危機に瀕する。(4.4, T4.1)

1.5?2.5℃を超える上昇幅で、生態系の構造や機能に大きな変化が予測される。水食料の供給に悪影響が予測される。(4.4)

海洋の酸性化が進行し、珊瑚や貝類、それらに依存する種への悪影響が予測される。(B4.4, 6.4)


食料、繊維、森林資源への悪影響(5.4, 5.5, 5.6)

海岸地域や低地への悪影響(6.3, 6.4, 6.5, T6.11)

工業、居住、社会への悪影響(5.4, 7.1?7.5)

健康への影響 (8.ES, 8.2?8.4)

アフリカ、アジア、欧州、米国、両極域など、地域別の具体的な予測

長期的な大規模変化

1?4℃の平均気温上昇で、数世紀から数千年の間に4?6m以上の海面上昇が起きる(中程度の確信度)。グリーンランドや
西南極氷床が完全に融解すれば、各々7m、5mの海面上昇を起こす。(WGI 6.4, 10.7, WGII 19.3)

海洋循環の速度低下と海洋温度上昇、それによる生態系、漁業、海洋による二酸化炭素の吸収、海水中の酸素濃度や陸域の植生への影響(WGI 10.3, 10.7, WGII 12.6, 19.3)


気候変化による各種コスト増大

2?3℃を超える平均気温の上昇で、全ての地域で利益が減少またはコストが増大する可能性がかなり高い。(9.ES, 9.5, 10.6, T10.9, 15.3, 15.ES)

炭素1トン当たりの社会的コスト(social cost of carbon:SCC)は$10?$350(平均$12/t)と推定されている。(20.6)

気候変化の被害は重大で、時間と共に増大する可能性が高い。(T20.3, 20.6, F20.4)


気候変化への対処に関する現時点での知見

現時点で対処は始まっているが規模は限られる。(7.6, 8.2, 8.6, 17.ES, 17.2, 16.5, 11.5)

現状より大規模な対処が必要である。広範な対応手段が存在する。(7.6, 17.2, 17.4)

持続的な発展は気候変化を緩和できる。逆に気候変化は持続的発展を妨げ得る。(20.3, 20.7, 3?8章の7節)

第三作業部会報告書:気候変動の緩和策

第三作業部会(WG III)による報告書 ⇒"Mitigation of Climate Change"(気候変動の緩和策)が2007年10月に発行された。この報告書は気候変化の緩和について科学的、技術的、環境的、経済的、社会的な面からの評価する。既に有効性が確認された緩和策や、今後普及が期待される緩和策を列挙する。緩和策を講じた場合のシナリオを大気中の二酸化炭素濃度に応じて6つの「カテゴリー」に分類し、それぞれ緩和コストや被害予測を示す。自助的努力や様々な政策の効果と役割についても言及する[8]
温室効果ガス(GHG)の排出傾向

GHG(greenhouse gas)の排出量は1970年から2004年までに70%増加した。

最も増えたのはエネルギーセクションからの排出で、145%増加した。(1.3, 6.1, 11.3, 図1.1, 図1.3)

多くの国や地域で気候変化の緩和に有効な気候変化やエネルギーセキュリティ、持続的発展に関する様々な政策が見られるが、規模は地球規模の排出量を抑制するにはまだ十分でない。(1.3, 12.2)


現状の緩和政策や持続的発展策では、世界のGHG排出量は今後数十年増え続けると予測される。(1.3, 3.2)

短・中期的な緩和策(2030年まで)

今後数十年間の間にGHG排出量の増加を抑制し、現状以下の排出量にすることは経済的に可能である。(3.6, 10.4, 11.3)

最終的に二酸化炭素濃度を445?535ppmに抑えると、GDPへの影響は2030年時点で3%未満の減少と予測される。これは年間成長率0.12%未満の減少であるが、影響量は地域により異なる。(表SPM.4, 囲みSPM.3, 3.3, 3.4, 11.4?11.6)

全分野で、生活や行動様式を変えれば気候変化を緩和できる。(4.1, 5.1, 6.6, 6.7, 7.3)

GHG排出量の削減で大気汚染が減少し、緩和策のコストをその分削減する効果をもたらし得る。(11.8)

先進国(Annex I countries)の行動は世界の経済とGHG排出量に影響を与える。ただし炭素リーケージ
(ある地域での排出抑制に伴う他地域の排出量増大分)の影響量に不確実性が存在する。(11.7)

GHG排出量の抑制と気候変化の緩和策について:

下記手法の有効性が指摘されている。

低排出なエネルギー源の開発・利用(再生可能エネルギーコジェネレーション原子力石炭から天然ガスへの移行など)(4.3,4.4)

二酸化炭素の回収・貯留(CCS) (4.3,4.4)

エネルギー設備更新、エネルギーセキュリティ確保の政策。(4.1?4.5, 7.3, 11.3, 11.6, 11.8)

運輸部門での緩和技術適用(低燃費車、ハイブリッド車、クリーンディーゼル、バイオ燃料車など)(5.4)

既存・新築の建造物のエネルギー効率の向上。これには副次的な利益が大きい。(6.4?6.8)

工業部門、特にエネルギー集約型産業でのエネルギー消費量や排出量削減。(7.1, 7.3, 7.4, 7.6)

農業部門での土壌への炭素固定促進、GHG排出量抑制、バイオマスエネルギー資源の供給。(8.4, 8.5, 8.8, 8.10)

森林を活用した緩和策(緑化、森林管理、バイオマスエネルギー利用)。(9.4, 9.5, 9.7)

廃棄物利用。(10.3?10.6)


下記要因が障害として挙げられる。

運輸部門での需要増加、消費者の嗜好や政策欠如。(5.3?5.5)


地球工学的対策技術(海洋への鉄散布、大気中二酸化炭素の直接除去、太陽光の大気上層での遮蔽)の効果は概して不確かで未立証である。(11.2)


長期的な緩和策(2030年以降)

環境中のGHG量を抑制した水準に保つには、GHG排出量をどこかで減らし始めなければならない。時期が早いほど温暖化の影響が小さい。(表SPM.5,図SPM.8)

今後20?30年間の緩和努力が大きな影響力を持つ。


多くの予測シナリオが下記技術を引き続き重要視する。(図SPM.9, 3.3, 3.4)

様々な分野のエネルギー効率改善

再生可能エネルギー原子力や低排出エネルギー源利用

二酸化炭素の回収・貯留

バイオマスエネルギー利用と森林活用


緩和策への投資と世界規模での普及について:(2.7, 3.3, 3.4, 3.6, 4.3, 4.4, 4.6)

公的・私的両面の研究・開発・デモンストレーション(RD&D)が必要である。これによる公的な便益は民間部門で得られる便益より大きく、公的な支援が明らかに正当である。

開発・普及過程での障壁を取り除き目標達成するには適切な奨励策が有効になり得る。


2050年の緩和策コストは平均でGDPの1?5.5%と予測する。(表SPM.6,囲みSPM.3,SPM.4)

政策、手法、手段

気候変化の緩和に有効な政策手法は数多い。効果は制度の出来(design)に依存する。(7.9, 12.2, 13.2, 13.4、表SPM.7)

GHG排出量に関する規制や標準、
環境税(炭素税)、排出権取引化石燃料への補助金削減(4.5)

エネルギー部門:再生可能エネルギーへの固定価格買い取り制度(フィードインタリフ制度)適用や助成、利用義務づけ(4.5)

運輸部門:燃費や排出量規制、バイオ燃料混合、課税、公共交通利用促進

建物部門:規制、標準化、認証、助成策

工業部門:ベンチマーク情報提供、助成、税の減免、自主的努力の要請

他部門も助成や規制が有効である。



産業と政府間で取り決める自助的努力の協定は、関係者へ注意を喚起し政策発達の一翼を担ったが、多くは顕著な効果を挙げていない。しかし少数の国で計測できる排出量削減につながった。


UNFCCCとその京都議定書により、気候問題に関し世界的な注意が喚起され、将来の緩和策に繋がる仕組みの構築が始まった。(1.4, 11.4, 13.3)

成功する国際的緩和協定は費用対効果の面で有効・公正かつ実行可能である。(13.3)

持続的発展と気候変化の緩和

持続的発展への転換は気候変化を大きく緩和できる。そのためにはいくつもの障壁が取り除かれなねばならないかも知れない。(1.2, 2.2, 2.5, 3.3, 3.5, 4.5, 5.4, 6.6, 6.9, 7.8, 8.5, 9.5, 9.7, 10.5, 11.9, 12.1?12.3)

知識面でのギャップ


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