IPCC第4次評価報告書
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IPCC第4次評価報告書(あいぴーしーしーだいよじひょうかほうこくしょ、英語:IPCC Fourth Assessment Report)とは、国連下部組織の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によって発行された、地球温暖化に関する報告書である。
概要

温暖化の原因・影響・対策について、現在までに得られた科学的知見を集約・評価している[1]地球温暖化に関して世界130カ国からの2千人以上の専門家の科学的・技術的・社会経済的な知見を集約し[2][3]、かつ参加195カ国の政府代表で構成されるパネルにより認められた報告書である[3]

人類の活動が地球温暖化を進行させ、それにより深刻な被害が生じる危険性を指摘する[4]。人類が有効で経済的に実行可能な対策手段を有し、20?30年以内に実効性のある対策を行えば被害を大きく減らせるため、現状より早急且つ大規模な取り組みが必須と指摘する。

報告書の結論は常に複数の証拠と広範な科学技術的な文献に基づき、議論の残る事柄や信頼性に関する情報も併記される[3]。2007年の公表以降、一部氷河の後退速度の予測やオランダの低地の比率など幾つかミスが発見されているが、いずれも報告書の結論に影響するものでは無いと指摘される[5](#AR4に見つかった誤りと訂正節を参照)。主要な結論は変わらず、より多くのデータを加えた第5次評価報告書の作成が進められている[6]

報告書の表題は"IPCC Fourth Assessment Report: Climate Change 2007"である。AR4(4th Assessment Report)とも略される(以下、本記事でも用いる)。IPCCは"Intergovernmental Panel on Climate Change"の略である。
作成の経緯

AR4は2001年のIPCC第3次評価報告書(英語版)(TAR)に続く評価報告書として2002年4月に作成が決定した。3年の歳月、130ヵ国以上からの450名超の代表執筆者・800名超の執筆協力者の寄稿、2500名以上の専門家の査読[3] を経て、2007年2月より順次公開され、 ⇒IPCCのサイト から誰でも入手可能である。過去のIPCCの3回の評価を下敷きにTAR以降に得られた新しい知見を組み込む。

可能な限り査読を受けた国際的に利用可能な文献に基づき執筆されることを基礎とする[3]。非公刊もしくは非査読の文献は、情報源の品質や有効性についての批判的な見地から検討が求められる[3]。報告書の結論は、複数の証拠と広範な科学技術的な文献に基づき書かれる[3]

作業は下記3つの作業部会(Working Group, WG)に分かれて進められた。

第一作業部会(WG I): ⇒"The Physical Science Basis"(自然科学的根拠)

第二作業部会(WG II): ⇒"Impacts, Adaptation and Vulnerability"(影響・適応・脆弱性)

第三作業部会(WG III): ⇒"Mitigation of Climate Change"(気候変動の緩和策)

上記3つの内容をまとめた統合報告書も公開されている。

統合報告書: ⇒Synthesis Report

各報告書は Summary for Policymakers (SPM;政策決定者向け要約)、Technical Summary(TS)などの要約、および個別の章から構成され、電子情報や印刷物の形で入手可能である(#外部リンクの節も参照)。日本では環境省が AR4に関する情報を集約したサイト を提供し、概要をまとめたプレゼンテーション や 一般向けの解説パンフレット を公開している。2009年3月には ⇒WG2報告書本体の和訳 も用語解説と共に公開された。統合報告書のSPM、WG1?WG3のSPMおよびTSの和訳書籍が出版されている(#書籍の節を参照)。

報告書では個々の予測内容や調査結果の不確実性に関わる情報を提供しており、「可能性」(likelihood)や「確信度」(confidence)の評価を行っている。
第一作業部会報告書:自然科学的根拠

2007年2月に第一作業部会(WG I)による報告書 ⇒"The Physical Science Basis"(自然科学的根拠, AR4 WG I)が発行された。この報告書は気候システムおよび気候変化について評価を行っている。多くの観測事実とシミュレーション結果に基づき、人間による化石燃料の使用が地球温暖化の主因と考えられ、自然要因だけでは説明がつかないことを指摘している。
内容

報告書には下記のような内容が含まれる。
人為起源及び自然起源の気候変化要因各要因別の放射強制力の評価結果。正の値が大きいほど、地球温暖化を促進する効果が高い。最右端の人為的要因の合計に比べ、太陽放射の変化によるものは10分の1以下である。

大気中の二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素の濃度は、産業革命前よりはるかに高い。(図SPM-1, 2.3, 6.4, 7.3)

二酸化炭素の増加は、主に人間による化石燃料の使用が原因である。(7.3)

二酸化炭素は、人為起源の温室効果ガスの中で最も影響が大きい。メタン一酸化二窒素ハロカーボン類などが影響した。(図SPM-2, 2.3, 7.3)

1750年以降の人間による活動が、地球温暖化の効果(正の放射強制力)をもたらす(確信度:高)。太陽放射の変化による増加分よりも、人為起源の変化の総量の方が10倍以上大きいと見積もられる。(2.3, 6.5, 図SPM-2, 2.9, 図2.20)

近年の気候変化の直接観測の結果

気候システムの温暖化には疑う余地がない。(図SPM-3, 3.2, 4.2, 5.5)

1906年?2005年の気温上昇幅は0.74℃である。これはIPCC第3次評価報告書
の0.6℃より大きい。(3.2)

1956?2005年の昇温傾向は10年あたり0.13℃である。これは1906?2005年の傾向のほぼ2倍である。(3.2)

世界の平均海洋温度は、少なくとも水深3000mまで上昇した。気候システムに追加された熱の8割超が海洋に吸収され、海水を膨張させ海面水位の上昇に寄与する。(表SPM-1, 5.2, 5.5)

山岳氷河と積雪面積は減少している。(表SPM-1, 4.6, 4.7, 4.8, 5.5)

グリーンランドと南極の氷床の減少が海面水位の上昇に寄与した可能性がかなり高い。(表SPM-1, 4.6, 4.8, 5.5)

先世紀(20世紀)中の海面上昇量は0.17(0.12?0.22)mと推定した。この観測値は確信度が高い。(5.5)

1970年以降、特に熱帯地域や亜熱帯地域で、より厳しくより長期間の干魃が観測された地域が拡大した。(3.3)

極端な気温(extreme temperatures; 極端な高温や低温)現象の発生頻度の広範な変化が観測された。寒い日・寒い夜・霜が降りる日の発生頻度が減少し、暑い日・暑い夜・熱波の発生頻度が増加した。(表SPM-2, 3.8)

北大西洋の熱帯低気圧の強度が増加した。他地域での熱帯低気圧の活動度の強度増加が示唆されるが人工衛星による観測開始前のデータの品質に大きな懸念がある。熱帯低気圧の年間発生数には明確な傾向がない。(3.8)

古気候学的な観点

少なくとも過去1300年間の気候の再現結果から、この半世紀に見られた温暖化は異常である。(6.4, 6.6)

現在よりも遙かに気温の高かった約12万5000年前の両極域の氷雪の減少は海面を4?6m分上昇させたと考えられる。(6.4, 6.6)

気候変化の理解と原因解析

20世紀半ばから見られる平均気温の上昇は人為的な温室効果ガスの増加よる可能性がかなり高い。(9.4, 9.5)

観測事実を踏まえた気候モデルの解析で放射強制力に対する理解の確信度が向上した。気候感度に対し初めて「可能性が高い」と言えるようになった。(6.6, 8.6, 9.6, 囲み10.2)

二酸化炭素濃度が倍になった場合平均気温の上昇幅は2?4.5℃と見積もられ、1.5℃以下の可能性はかなり低い。4.5℃以上の可能性があるが、モデル間の差異が大きい。(8.6, 9.6, 囲み10.2)

今後の気候変化の予測結果

今後20年間の気温の上昇ペースは10年当たり約0.2℃と予想する。全ての温室効果ガスとエアロゾルが2000年当時の水準に保たれれば10年あたり約0.1℃上昇すると推定する。(10.3, 10.7)

温室効果ガスが現状かそれ以上のペースで排出され続ければ温暖化が進行し、地球の気候に多くの変化を引き起こし、影響は20世紀中に観測されたものより大きくなる可能性がかなり高い。(10.3)

今世紀末の平均気温の上昇幅の予測結果は、今後の人為的な排出量のシナリオ(SRESシナリオ)により1.1?6.4℃と差異がある。(図SPM.5)

海面上昇量の予測結果は、今世紀末で18?59cmと予測される。この値は氷床等の流下速度の変化の影響を含まない
[7]。(表SPM.3,図10.33)

温暖化で陸域と海域における二酸化炭素の吸収量が減少し、人為的な排出による影響量が増大する。(7.3, 10.5)

温室効果ガスが一定の濃度に保たれても、気候プロセスとフィードバックの時間的スケールの長さにより人為的な温暖化と海面上昇は何世紀も続く。(10.4, 10.5, 10.7)

第二作業部会報告書:影響・適応・脆弱性

2007年4月に第二作業部会(WG II)による報告書 ⇒"Impacts, Adaptation and Vulnerability"(影響・適応・脆弱性)が発行された。報告書では気候変化による自然および人類の環境への影響およびそれらの適応性と脆弱性に関する現時点での科学的知見をまとめている。気温や水温の変化や水資源・生態系への影響、人間社会への被害の予測結果について、現在までに分かった事項をまとめている。


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