Hsp90
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Histidine kinase-, DNA gyrase B-, and HSP90-like ATPase
ATPを結合した酵母Hsp90二量体のリボンモデル(αヘリックス=赤、βシート=シアン、ループ=灰色、ATP=スティックモデル)[1]
識別子
略号HATPase_c
PfamPF02518
Pfam clan ⇒CL0025
InterProIPR003594
SMART ⇒SM00387
SCOP ⇒1ei1
SUPERFAMILY ⇒1ei1

利用可能な蛋白質構造:
Pfamstructures
PDBRCSB PDB; ⇒PDBe; PDBj
PDBsum ⇒structure summary

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Hsp90 protein
酵母Hsp90のN末端ドメインの構造[2]
識別子
略号Hsp90
PfamPF00183
InterProIPR020576
PROSITEPDOC00270
SCOP ⇒1ah6
SUPERFAMILY ⇒1ah6

利用可能な蛋白質構造:
Pfamstructures
PDBRCSB PDB; ⇒PDBe; PDBj
PDBsum ⇒structure summary

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酵母熱誘導型Hsp90のドメイン構造。上: Hsp90二量体の結晶構造。結合したATP分子は空間充填モデルで示されている。下: 酵母Hsp90の一次構造。NTD=N末端ドメイン(赤)、MD=ミドルドメイン(緑)、CTD=C末端ドメイン(青) 。Hsp90のATP結合ポケットの結晶構造。ATPはボールスティックモデル(炭素=灰、窒素=青、酸素=赤、リン=橙)、Hsp90はサーフェスモデル(負に帯電している領域が赤、正が青、中性が灰色)で示されている[1]ATPアーゼサイクルと共役したHsp90のpincer型運動。NTD=N末端ドメイン、MD=ミドルドメイン、CTD=C末端ドメイン。Hsp90のシャペロンサイクル。Hsp40Hsp70、p23(英語版)、Hopといったパートナーシャペロンやコシャペロンと協働してフォールディングを補助する。X/Yは、不完全なフォールディングをした未成熟タンパク質、X-Xは適切なフォールディングが行われた成熟タンパク質を表している。

Hsp90(heat shock protein 90 kDa)は、他のタンパク質が正しくフォールディングするよう補助し、熱ストレスに対する安定化をもたらし、また分解を助けるシャペロンタンパク質である。腫瘍成長に必要ないくつかのタンパク質に対しても安定化作用を示すため、Hsp90阻害剤(英語版)は抗がん剤としての研究が行われている。

熱ショックタンパク質に分類されるタンパク質群は、全ての生物種を通じて最も高度に発現しているものの1つである[3]。その名称が示す通り、熱ショックタンパク質は温度上昇によるストレス時に細胞を保護する役割を果たす。こうしたタンパク質はストレスを受けていない細胞でも全タンパク質の1?2%を占めているが、細胞が加熱された場合には4?6%にまで増加する[4]

Hsp90は、こうした熱関連タンパク質の中でも最も広く存在するものの1つである。90という数字はそのサイズが約90 kDaであることに由来している。Hsp90は細菌に存在し、真核生物でも全ての分類群に存在しているが、古細菌には存在しないようである[5]。真核生物では、細胞質のHsp90はあらゆる状況下で生存に必須であるが、細菌ホモログであるHtpGは熱ストレス条件下以外では必須ではない[6]

Hsp90は、熱、脱水やその他、タンパク質の変性が生じるさまざまな方法でストレス処理された細胞からタンパク質を抽出することで単離され[7]、後に非ストレス下の細胞においても必須の機能を果たしていることが発見された。
アイソフォーム

哺乳類細胞には、細胞質基質型のHsp90ホモログをコードする遺伝子が2つ以上存在し[5]、ヒトのHsp90αとHsp90βは85%の配列同一性を示す[8]。Hsp90αとHsp90βは、数百万年前に生じた遺伝子重複によって分岐したものであると考えられている[5]

Hsp90アイソフォームをコードする5種類のヒト遺伝子を下に示す[8]

ファミリー細胞内局在サブファミリー遺伝子タンパク質
HSP90A細胞質基質HSP90AA
(誘導性)HSP90AA1Hsp90α1
HSP90AA2(英語版)Hsp90α2
HSP90AB
(恒常的発現)HSP90AB1(英語版)Hsp90β
HSP90B小胞体HSP90B1(英語版)Endoplasmin/
GRP-94
TRAPミトコンドリアTRAP1(英語版)TRAP1 (TNF Receptor-
Associated Protein 1)

Hsp90Nと呼ばれる、ATP結合部位を欠いた、膜結合型の細胞質基質Hsp90が報告されている[9]。Hsp90Nをコードする転写産物はキメラであり、コーディング配列の最初の105 bpはCD47遺伝子に由来し、残りのコーディング配列はHSP90AA1に由来するものである[8]。しかしながら、Hsp90Nをコードする遺伝子はヒトゲノムには存在せず、クローニング時のアーティファクトか単一の細胞株にのみ生じた染色体組換えによる産物である可能性が高いと考えられている[10]
構造
ドメイン構造

Hsp90は4つの構造ドメインから構成される[11][12][13]

高度に保存された約25 kDaのN末端ドメイン(NTD)

N末端ドメインとミドルドメインを連結する荷電したリンカー領域

約40 kDaのミドルドメイン(MD)

約12 kDaのC末端ドメイン(CTD)

阻害剤やヌクレオチドを結合した酵母やヒトHsp90のN末端ドメイン[14][15][16]、酵母Hsp90のミドルドメインの結晶構造が解かれている[17]。また、大腸菌(2IOP​、2IOQ​)[18]、酵母(2CG9​、2CGE​)[19]、イヌ小胞体(2O1U​、2O1V​)[20]由来のHsp90の全長構造も明らかにされている[21]

Hsp90はホモ二量体を形成し、開いたコンフォメーションでは主にC末端ドメインが単量体間の接触を担っている。閉じたコンフォメーションでは、N末端ドメインも互いに接近して接触を行う[17]
N末端ドメイン

N末端ドメインはHsp90ファミリー内で相同性を示すだけでなく、GHKLドメイン(英語版)(ジャイレース(Gyrase)、Hsp90、ヒスチジンキナーゼ(英語版)(Histidine Kinase)、MutL)スーパーファミリーのATPアーゼ/キナーゼの間でも相同である[12]

ATPと阻害剤ゲルダナマイシン(英語版)の結合ポケットは共通しており、N末端ドメインに位置している。酵母Hsp90(Hsc82)においてATPとの相互作用に直接関与するのは、Leu34、Asn37、Asp79、Asn92、Lys98、Gly121、Phe124である。さらに、Mg2+と水分子がHsp90とATPの間の静電的相互作用水素結合をそれぞれ媒介している。ATPの加水分解にはGlu33が必要である。
ミドルドメイン

ミドルドメインは、N末端側からα-β-αサンドイッチ、ヘリカルコイル、そしてもう1つのα-β-αサンドイッチという3つの領域に分けられる[12]

MDはクライアントタンパク質の結合に関与している。MDと相互作用することが知られているタンパク質には、PKB/Akt1(英語版)、eNOSなどがある[22][23]。さらに、Aha1(英語版)やHch1(英語版)といったコシャペロンもMDに結合し、ATPアーゼ活性を高めることが知られている[17][24]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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