GPGPU
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GPUはシェーダープロセッサ(ストリームプロセッサ[24]、ストリーミングプロセッサ[25]とも)と呼ばれる演算ユニットを多数持ち、複数のシェーダープロセッサをまとめてクラスタとしている。これらの演算器に命令を与えるインストラクション・ユニットはクラスタごとに1台しか無く、クラスタを構成するシェーダープロセッサはそれぞれ異なるデータを与えられ、そのデータに対して同じ命令内容を一度に実行する。このようなSIMD型データ処理は3次元演算やマルチメディア処理に効果を発揮する一方で、命令中に条件分岐による分岐が入るとオーバーヘッドがかさみ、途端に効率を落としてしまう。今日のCPUでは、このようなペナルティを最小限にするためにプリフェッチ/プリデコードや投機実行/レジスタ・リネーミングといった機能を備えているが、GPUでは備えていない(限定的な条件付きで投機的実行を行なえるものもある。GPUでの動的分岐はDirectX 9.0c世代以降でようやく現実的になった[26][27])。またPC向けのGPUではシェーダープロセッサごとに分岐するためのプログラムカウンターを持たないため、条件分岐の際は個別に異なる命令を発行するのではなく、実際に命令を実行するか否かを分けるためのマスクレジスタを使って分岐する手法が採用されている[28] [29]

また、シェーダープロセッサ間でデータをやりとりする場合、遠くのデータバスを経由することになり、それがボトルネックとなってしまう。この点に関しては、DirectX 10世代の統合型シェーダーアーキテクチャ以降のハードウェアに搭載されている、小容量だがプロセッサグループ内で共有することのできる高速なキャッシュメモリ(共有メモリ)を介することで、プロセッサグループ内でのデータ交換やメモリI/Oの効率を高めることができる[30] [31]

一般のアプリケーションで条件分岐が存在しないものは珍しく、こういった制約によってGPUはオフィススイートのようなアプリケーションの実行には不向きである。GPGPUの発展にはいかに効率を落とさず条件分岐を行なうかというのが1つの課題となっている。原理的にはシンプルなアルゴリズム構造を持ったプログラムによって、並列データ処理に最適化することがGPGPUの特長を最大限引き出すことにつながるといえる。
浮動小数点演算
単精度と倍精度

単精度浮動小数点演算に関してはCPUをはるかに上回る理論演算性能とスケーラビリティを持つGPUだが、倍精度浮動小数点演算に関しては様相が異なる。もともとGPUが扱う多くの画像演算(特にリアルタイム3Dグラフィックス)では、整数演算や単精度の浮動小数点演算で足りてしまうために浮動小数点演算器は仮数部が24ビット程度とそれほど広くなく、単精度の演算器で倍精度の浮動小数点演算を行なうには、分割して幾度も演算器を使う必要があり、性能を大きく落とす要因となる。なお倍精度対応が必須とされる科学技術計算分野を含めたHPC向けに設計された製品では、倍精度専用の演算器を搭載・有効化しているものもある[32]

AMDは2006年に自社のGPU「R580」をベースとした、単精度浮動小数点演算対応のストリームプロセッシング向け製品「AMD Stream Processor」(第1世代AMD FireStream)を発表[33]、続いて2007年R6xxコアを使用した業界初の倍精度浮動小数点演算対応HPC向けGPUである「AMD FireStream 9170」(第2世代AMD FireStream)を発売[34]した(ただし倍精度の理論演算性能は単精度の場合の1/5となる[35])。また2008年に発売されたRADEON HD 4850は1チップでは世界初の1TFLOPS(単精度)を達成し、このRADEON HD 4850にも使用されたR7xxコアを使用して低価格かつ高性能を売りに、HPC分野向けに第3世代AMD FireStreamを発売[36]することになった。2010年には、さらに高性能化した第4世代AMD FireStreamを発売している。2014年に発売されたAMD FirePro S9100/S9150では倍精度演算性能が強化され、倍精度の理論演算性能は単精度の場合の1/2になっている[37] [38]

NVIDIAも、自社のGPU「G80」をベースとした、単精度浮動小数点演算対応のHPC向け製品「Tesla C870」を2007年に投入、さらに2008年に発売された NVIDIA Tesla C1060 で倍精度に対応したが、単精度933GFLOPSに比べて倍精度は1/12の78GFLOPSとなっており[39]、倍精度演算性能が極端に低かった。2010年に発売された Fermi 世代の Tesla 20 シリーズ[40] [41]では倍精度演算性能が強化され、倍精度の理論演算性能は単精度の場合の1/2になったが、2012年に発売されたKepler世代のTesla K20シリーズ[42] [43]、2013年に発表されたK40[44]、2014年に発表されたK80[45] [46]では倍精度の理論演算性能は単精度の場合の1/3となっている。

2020年現在でも、GPUにおける倍精度演算に関してはHPC向けを除き、省電力性能やゲーミング性能を重視・維持するために必要最低限の性能しか用意されないことが多い[注釈 4]。また倍精度専用の演算ユニットでは単精度の演算を行なうことはできないため、単精度を優先するか、それとも倍精度を優先するかはチップ設計段階におけるトレードオフとなる。実際、NVIDIAのMaxwellアーキテクチャのGPUでは前世代に存在した倍精度演算器が省略され、単精度演算器を使って倍精度演算を行なうため、倍精度演算のピーク性能は単精度演算の1/32となる[48]。このため、HPC向け以外のGPUは倍精度の浮動小数点演算が不得意であると言える。
半精度

深層学習の計算においては計算精度が求められないことから、半精度(16ビット)の演算を高速で行えるようにハードウェア側の対応も進みつつある[注釈 5][50]。深層学習においては仮数部の細かさよりも値がオーバーフローしないほうが使いやすいというメリットのため、指数部を増やしたBF16(bfloat16(英語版))と呼ばれるフォーマットが考案され、一部のGPU[注釈 6]でサポートされている[51]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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