FOD_(航空用語)
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ターボシャフト・エンジン(ベル222に搭載されたハネウェルLTS101)のコンプレッサー・ブレードに発生したFOD(インレット・スクリーンを通り抜けた小さなボルト)による損傷FOD除去システム(ベル412に搭載されたプラット・アンド・ホイットニー・カナダ PT6 エンジン)右上方から入り込んだ空気のうち、清浄な空気だけがカーブした通路に沿ってコンプレッサーのインレットへと流れ込む(スクリーンも設置されている)異物は、慣性力で急激に方向を変えられないため、左上部のスクリーンにから機外に排出される。FODとなる可能性のある異物(米空母上のF/A-18ホーネットの降着装置格納部の中で発見されたフクロウ)

FOD(: foreign object debris)とは、航空機もしくはその関連システムに損傷を及ぼす可能性のある物品または物質である。

外的なFODによる損傷には、バードストライク)、、砂塵、火山灰滑走路上の異物などによるものがある。内的なFODによる損傷には、コックピット内に置き忘れられた物品がコントロール・ケーブルに巻き込まれたり、作動部品を固着させたり、電気コネクターを短絡させたりするものなどがある。 

FODという用語は、「異物そのもの」と「異物による損傷(Forerign object damage)」の双方を指す言葉として用いられる。
実例

FODによる損傷には、内的要因によるものと外的要因によるものがある[1][2][注 1]

内的なFOD損傷とは、機体の内部に存在するFODによる損傷または被害をいう。例えば、コックピットFODによる損傷とは、コックピットで行方不明となった何かが、操縦系統に引っ掛かったり、その作動を制限することを言う。ツールFODによる損傷とは、製造または整備中に機内に置き忘れられた工具類によって生じる被害のことを言う。工具類がコントロール・ケーブルに引っ掛かったり、作動部品を拘束したり、電線を切断したりした場合、飛行の安全に重大な影響を及ぼすことになる。このため、航空機の整備員たちは、機内に工具が残っていないことを確実にするため、飛行前に工具箱内の員数を確認するなど、工具の管理を厳格に行っている。製造段階で使用される工具には、シリアルナンバーが付けられており、それが発見された場合に、どこで使われていたものなのかが確認できるようになっている。

FODの具体的な例としては、次のようなものがある[4]

航空機の部品、小石、舗装の破片、係留用の金具類

車両から脱落した部品

エプロンや滑走路上に放置された金屑、整備工具など

ひょう(風防を破損したり、エンジンを損傷させたりする可能性がある)

翼、プロペラまたはエンジンのインテークに付着した氷

鳥(エンジンなどの脆弱な部位に衝突した場合に損傷をもたらす。バードストライクも参照。)

エンジンのインテークを閉塞する砂塵または火山灰(砂漠での砂嵐や火山の噴火によるもの)ヘリコプターの場合、特にブラウンアウトになった際に問題となる。

製造段階または整備中に機内に置き忘れられた工具、ねじ、金屑、安全線など

離着陸する航空機からは、小さな部品が落下することがある。滑走路に残ったこれらの部品は、他の機体のタイヤを損傷させたり、外板や風防を傷つけたり、エンジンに吸い込まれたりする可能性がある。空港の地上勤務員たちは、定期的に滑走路を清掃しているが、エールフランス4590便のような事故が発生する可能性もある。その事故は、わずか4分前に離陸した航空機から脱落した破片が原因で発生したと言われている。空母USSジョン・F・ケネディ (CV 67) の甲板上でFOD除去作業を行う乗組員たち

空母、軍の飛行場および民間の飛行場においては、運用開始前に異物の除去が行われる。飛行甲板や飛行場の隅から隅までを一列に並んで歩き、FODを回収する。
ジェットエンジンの設計とFOD

現代のジェットエンジンは、ほんの小さな異物を吸い込んだだけでも、大きな損傷を生じる可能性がある。FAAは、全ての型式のエンジンに対し、運転中にニワトリ(凍っていない死体)を発射機で撃ち込むという試験を行うように要求している。その試験を受けたエンジンは、機能を発揮し続ける必要はないが、機体の他の部分に重大な損傷を与えてはならないものとされている。つまり、バードストライクにより、コンプレッサーやタービンのブレードが飛散したとしても、航空機の飛行に支障を及ぼしてはならないのである[5]
FOD損傷を防止するためのエンジンおよび機体の設計

軍用機の中には、FODによるエンジンの損傷を防止するための特別な設計が行なわれたものがある。そのひとつに、S字型に曲がった空気取入口がある。それは、インレットに入った空気の流れを一旦機体前方に曲げた後、再度後方に曲げてからエンジンに導くものである。最初の曲がり部には、強力なスプリングで閉じられたドアがある。インテークに飛び込んだ異物は、そのドアを押し開けて、機外へと飛び出すようになっている。このため、微細な異物を除き、エンジンに異物が吸入されるのを防止できる。この方式は、FODによる損傷の防止には効果的だったが、空気の流路が曲げられることにより、その流れが阻害され、エンジンの有効馬力が減少することから、用いられないようになった。

似たような方式が、Mi-24のようなターボシャフト・エンジンを搭載したヘリコプターに多く用いられた。ボルテックス式またはセントリフューガル・インテークと呼ばれるその方式は、エンジンに入る前の空気をらせん状の経路を通過させることによって、空気よりも重い砂塵などの異物を外側に押し出して分離するようになっている。  

ロシアのミコヤンMig-29およびスホーイSu-27戦闘機は、特殊な形状のインテークを装備しており、整地されていない飛行場からの離陸におけるFODの吸い込みを防止している。メイン・エア・インテークはメッシュ・ドアで覆われ、インテークの上側には必要に応じて開く特別なインレットが設けられている。これにより、離陸に必要な空気をエンジンに供給しつつ、地面上の異物が吸い込まれることを防止している。

FODのリスクを低減するための別な方式としては、アントノフAn-74に用いられているようなエンジンの搭載位置を高くする方式がある。

ボーイング737の初期型には、エンジンが低い位置に取り付けられているこの機体を舗装されていない小石の多い滑走路において運用するための「非舗装滑走路用キット」がボーイング社から供給されていた。このキットは、降着装置用のグラベル(砂礫)・デフレクター、機体下面用の折り畳みライト、降着装置が展開している間に車輪格納部に侵入した砂礫による重要部品の損傷を防止するためのスクリーンなどで構成されていた。また、ボルテックス・デシペイターと呼ばれる、エンジンへの下方からの空気流量を減少させて砂礫の吸い込みを防止する装置も含まれていた[6][7]

エアバス社は、FODを防止するための新しい方法を検討中である。イスラエル・エアロスペース・インダストリーズ社と共同開発した、タクシーボットと呼ばれるパイロットが操作する牽引車は、機体のジェットエンジンを使わずに地上滑走を行うことによって、エプロンやタクシーウェイ上でのFODによる損傷を防止しようとするものである[8]
FODによる損傷の事例
滑走路上の異物

2000年7月25日にパリ近郊のシャルル・ド・ゴール空港で発生したエールフランス4590便の墜落は、FODが原因であった。約4分前に離陸したコンチネンタル航空のマクダネル・ダグラスDC-10スラスト・リバーサーから、チタンの破片が脱落し、滑走路上に落ちていたのであった。当該機に搭乗していた100名の乗客および9名の搭乗員、ならびに地上で被害にあった4名が死亡した。


2007年3月26日、ニューポート・ニュース / ウィリアムズバーング空港から離陸するために滑走していたリアジェット36(N527PA)に「ボン」という異音が発生した。離陸を中断したパイロットは、「尻振り」現象を止めるためにドラッグシュート(減速用パラシュート)を作動させた。ドラッグシュートは開かず機体は滑走路を逸脱しタイヤが破裂した。事故発生後、滑走路上に小石や金属の破片が落ちていたことが空港関係者により確認された。国家運輸安全委員会は、滑走路に落ちていたFODが事故の原因である、と発表した。また、ドラッグシュートの不作動も本事故に影響を及ぼしたとされた[9]

火山灰

1982年6月24日、西オーストラリアのパースに向かっていたブリティッシュ・エアウェイズ9便は、インド洋上空で火山灰の雲に遭遇した。当該機(ボーイング747-200B)の4台のエンジンがすべてサージングを起こし、フレームアウトした。乗客や搭乗員には、「セントエルモの火」として知られる現象が機体の周辺に発生するのが見えた。9便は、降下して火山灰の雲から抜け出し、エンジンが火山灰を吸い込まない状態になってから、再始動を行った。火山灰によってコックピットの風防に傷が生じたため、パイロットの視界が妨げられたものの、無事に着陸した。


1989年12月15日千葉の新東京国際空港(当時、現・成田国際空港)に向かっていたKLMオランダ航空867便は、前日に噴火したリダウト山から噴出した火山灰の雲に遭遇した。当該機(ボーイング747-400)の4台のエンジンは、すべてフレームアウトした。パイロットは、約14,000フィート降下してからエンジンを再始動し、アンカレッジ国際空港に無事着陸した。

機体からの投棄物


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