EyeSight
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アイサイトのその他の用法については「アイサイト」をご覧ください。
スバル・レガシィ(5代目)(2014年式)に搭載されているアイサイトのステレオカメラ部(日立オートモティブ製)。スバル・フォレスター(5代目)(2018年式)に搭載されているアイサイトのステレオカメラ部(日立オートモティブ製)。スバル・レヴォーグ(2代目)(2021年式)に搭載されているアイサイトのステレオカメラ部(ヴィオニア製)。

アイサイト(EyeSight[1])は、SUBARU(旧・富士重工業)によって開発された運転支援システムである。同社が製造する乗用車に搭載されている。車内前方に装備されたステレオカメラで前方を監視し、障害物[注釈 1]三次元的に認識することで、自動ブレーキ、アダプティブ・クルーズ・コントロール等を制御する「運転支援システム」を基本概念として開発されている。“Eyesight” は英語で「視力視界」の意。

本項では前身技術であるADA、SI-Cruise、およびアイサイトセイフティプラスと命名された安全支援装備群も扱う[注釈 2]

2008年、世界で初めてステレオカメラだけで衝突被害軽減ブレーキや「全車速追従機能付クルーズコントロール」を実現したシステム「アイサイト」(現在はver.1と呼ばれる[3])を発売した[4]
前身技術
ADA
第1世代

1999年、レガシィ・ランカスターレガシィアウトバックの前身)の最上級グレード専用装備として初登場した。ADA(アクティブ・ドライビング・アシスト)は、ステレオカメラを使用し、
車線逸脱警報

車間距離警報

車間距離制御クルーズコントロール
名称は異なるが、追従型クルーズコントロールと同様である。
カーブ警報/シフトダウン制御
ナビゲーションと自車位置を照合し、カーブ曲率に適切な速度に近づける[注釈 3]

という4つの機能を備えていた[5]が、この段階では車速制御をスロットル開度とシフトチェンジに依存していた[6]。システムと直接関係のない装備品が含まれてはいるものの、ベース車種に対し価格差約65万と非常に高額であった。
第2世代

ADAは2001年にマイナーチェンジを受けたランカスターの最上級グレード「ランカスター6 ADA」専用装備として仕様向上が図られ、VDCプレビュー制御が追加された[5]
VDCプレビュー制御

前方の対象物との距離情報などから、制動のみでは危険回避できないと判断した場合、ドライバーの危険回避操作によりVDC(Vehicle Dynamics Control)が作動する前に、VDC制御の特性を変更して、危険回避後の車両の挙動収束性を向上させる。--富士重工業 2003年8月27日[7]
第3世代

2003年、フルモデルチェンジを受けたレガシィ3.0Rに装備された新型ADAは、ブレーキ操作制御を実装し、更にミリ波レーダーが追加された。濃霧や雪といった悪天候下では後のアイサイトをも上回る安定性を獲得したが、運転支援機能、とりわけ衝突回避制御は限定的で、制御の高度化により上昇した製造経費は販売価格にも影響し、商業的成功には至らなかった。第3世代では従来製品に加え、下記のように後のアイサイトに通じる新機能を実現していた。この後、2004年、富士重工業は日立製作所と提携。富士重工業が有するステレオカメラの技術と、日立の単眼式カメラの技術やソフトウェア開発のノウハウ(知識・技能)を結集する形で開発が進められた。画像処理システムについては両社で共同の特許を取得した[8]
車間距離制御クルーズコントロール(機能強化)
速度制御にブレーキを併用するようになった。速度設定範囲は50 - 100 km/h。
追従モニター
センサーによって計測した車間距離を表示し、前走車への異常接近を警告。
ふらつき警報

前車発進モニター
後述するアイサイトの先行車発進お知らせ機能と同様
グリップモニター

VDCからの情報を元に、舗装路から雪道、凍結路まで、刻々と変化する路面状況に応じたタイヤのグリップ力の変化を予測し、センターディスプレイに表示する。富士重工業 2003年8月27日[7]
SI-Cruise

2006年、レガシィの後期型マイナーチェンジの際にADA搭載グレードは姿を消し、レーザーレーダーを用いて追従クルーズコントロールに特化した運転支援システム、SI-Cruiseが代わりに設定された。ステレオカメラこそ採用していないものの、自動制御技術開発の上で、ADAからアイサイトへの中継役を果たした[9][注釈 4]
アイサイトコアテクノロジー
技術

一般に検出したい対象を探すアルゴリズムを構築する単眼カメラを用いた物体認識とは異なり、ステレオカメラでは検出したい物体ではなくまず路面を探し、走行可能領域を3次元的に認識する[10][11]。次に、走行可能空間内にあるすべての点群を障害物候補と認識し、どこからどこまでが1つの物体の塊なのかを判定してグループ化を行う[10][11]。続いて、物体の種類(クルマ、人、壁など)を特定した後、撮像フレーム間の動作量から各物体の速度を計算する[10][11]。速度計算には典型的な時定数フィルタを使った計算式ではなく、独自の計算式を使用している[11]

物体認識については機械学習を用いた識別器を併用し、単眼カメラを用いたシステムと同様に画像中の輝度パターンを利用する[10]
特色

ミリ波レーダーは歩行者や自転車などの検知を不得意とするが、ステレオカメラ方式はこれらに対しても優れた認識能力をもつ[注釈 5]。ミリ波レーダを利用したシステムの場合、上記欠点を補うため、単眼式カメラやその他センサと組み合わされることが多く、結果として費用の上昇を招いているが、アイサイトの場合、カメラのみで高精度、高機能を実現したことによって価格を比較的低く抑えることに成功した[12]。また、車内に装置を設置しているため、車外にセンサが露出しているシステムに比して、泥はねなど不意の汚損に対して若干の強みを持つ。なお、一部車種によってはアイサイト用のウォッシャーノズルを装備する。
機能の限界

カメラ以外のセンサーを備えた他方式と比較した場合、測距や動体予測をステレオカメラに依存する本方式は人間の視覚と同様、天候や周辺の明るさの影響を原理上避けられない[注釈 6]。つまり、夜間や濃霧、豪雨、西日との正対、カメラの死角といった場合の動作が100%保証されているわけではなく、誤動作の例もユーザーによって多く報告されている[注釈 7]。障害物がフェンスやタイル、縞模様のように同一パターンの繰り返し要素があったり、無地の壁であった場合などに、ステレオカメラが距離を誤認する可能性が高まるともされている。舗装の劣化や積雪で車線認識が不可能になる場合があるが、この点はカメラを応用した他社の車線認識システムも克服できていないのが実情である。

他社の衝突被害軽減ブレーキと同じく、アイサイトもまた、あくまで運転者が主体であり装置はその能力を補うものである。ゆえに路面や周囲の環境、事故の形態によっては、100%被害を防げるものではないことに注意が必要である。さらに、適切な運用には、メーカーの注意事項、装置の特性や操作方法に対し十分な理解が不可欠である[注釈 8]。当然、事故を起こした時の責任は運転者(あるいは当事者)が負うもので、基本的にシステムや製造メーカーにはないことを意識しなければならない。
短所

カメラ画像上で対象物の移動量変化が著しく小さい場合、物体を移動物として正しく認識できない場合があり、対象物が小さく遅いほど困難となる。これはカメラの高画質化やアルゴリズムの最適化で改善できる可能性があるが、大掛かりな見直しが不可欠となる。この欠点は2017年の自動車アセスメント(JNCAP)にて露呈し[注釈 9]、新世代アイサイトへのハードウェア刷新に繋がった。ちなみに、JNCAPの対歩行者試験において、同じくステレオカメラ式を採用しているスマートアシストの最新版も、最低速(自車10 km/h)の場合は自律ブレーキがまったく発動していない[17]

カメラ方式の宿命ではあるが、フロントガラス室内側にカメラを設置する都合上、石はね等の損傷によって物体検出能力の低下あるいは完全消失が起こりうる(利点であるカメラレンズ汚損リスク低減とのトレードオフ関係である)。また、フロントガラスは曲面であり、カメラとの相対位置によって撮像の微小な歪みを避けられず、左右画像の差分情報を取得するステレオカメラ式では特に顕著となる。前述の事由などによりフロントガラスの交換が発生した場合、性能を保障する上でエーミング(較正、キャリブレーション)作業が必要となり、作業工賃上昇の原因となる。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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