DNA修復
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この光回復酵素(フォトリアーゼ)は、可視光紫色青色を利用してピリミジン二量体の相補DNAの修復を行っている。

除去修復機構。損傷を受けたヌクレオチドを除去し、損傷を受けていない鎖の情報を元に修復する機構。

塩基除去修復 (base excision repair: BER)。アルキル化(メチル化など)あるいは脱アミノ化による損傷を修復する機構で、単一の塩基対に対する障害を修復する。

ヌクレオチド除去修復 (nucleotide excision repair: NER)。紫外線によるものを含め、数十塩基対に及ぶ比較的大規模な、二重鎖を歪ませるような損傷に対し行われる修復。

ミスマッチ修復(mismatch repair: MMR、不正対合修復とも)。DNA複製の際に生じた誤りの修正で、単一 - 5塩基対程度の対合しない部位の修復を行う。

校正修復 (proof-reading repair)。DNAの複製に平行して行われる単塩基対のミスマッチ修復。大腸菌の場合DNAポリメラーゼにより行われるが、哺乳類のそれには同様の機構は無く、他の酵素によると考えられている。この修復機構により、複製時に発生する不正対合は100,000,000 - 10,000,000,000に1回の頻度に抑えられている。


一本鎖切断修復(あるいは単鎖切断修復)。酸化により生じた、DNAの一方の鎖のみの切断した部分を再結合させる修復。

組換え修復

なお、レトロウイルスの持つ逆転写酵素には校正修復の機能が無く、これがレトロウイルスの極めて早い変異の原因となっている。レトロウイルスにおいて見られる、表面を構成する蛋白質の構造も変異や、ヒト免疫不全ウイルスにおける抗レトロウイルス剤耐性獲得との関係も指摘される。
二本鎖の損傷

分裂する細胞にとって、特に重大なDNA損傷の様式が、DNA二重ラセンの両方の鎖が切断されてしまう障害で、この障害を修復する機構には二種類ある。一つは一般に良く知られている相同組換えで、もう一つは非相同末端再結合である。

相同組換え(homologous recombination: HR)の場合、切断部の修復の際に用いる鋳型としてまったく同一か、よく似た配列をもつゲノムを利用する。この機構は細胞周期において、DNAの複製中か、または複製終了後の間において主に用いられると考えられている。 これは損傷を受けた染色体の修復が、新しく作成された相同な配列を持つ姉妹染色分体を利用することで可能になるからである。 ヒトゲノムでは繰り返し配列が多く、利用可能な同一な配列を多く含んでいる。これらの他の配列との間で交差して起こる組換えにおいては問題を起こすことが多く、結果として染色体の転座 (chromosomal translocation) や他の染色体再編成を引き起こすことがある。

この修復プロセスの原因である酵素的な機構は、減数分裂中の生殖細胞における染色体交差の原因である機構とほとんど同じである。

非相同末端再結合 (Non-Homologous End-Joining: NHEJ) は、本質的には損傷により生じた二つの末端をつなぐ機構であるが、このプロセスではDNA配列がしばしば失われるため、修復が変異の原因となることがある。 NHEJは細胞周期のすべての段階で実行可能であるが、DNA複製前の、姉妹染色分体を利用した相同組換えが不可能な段階では主として起こる。ヒトあるいは他の多細胞生物などの、遺伝子ではないDNA、いわゆる "ジャンクDNA"がかなりの部分を占めるようになったゲノムを持つ細胞においては、この変異を引き起こす修復も、姉妹染色体以外の配列との相同組換えに比べ、問題が少ない傾向にある。

また、NHEJにおいて利用される酵素的な機構は、B細胞において、免疫系の抗体産生における抗体の可変部領域遺伝子 (VDJ) の組替えで、RAG蛋白質 (RAG proteins) によって作られた切断点の再結合に利用されている。
SOS修復

紫外線照射などにより高度にDNAが損傷を受けると、これに対応するため、一斉に各種蛋白質の合成を始めることが知られている。この反応をSOS応答 (SOS response) と呼ぶ。大腸菌においては、DNA修復に関わる多くの酵素は、それをコードする遺伝子の上流にSOSボックスなる配列をもち、平時は恒常的に発現しているLexAというリプレッサーがここに結合し、転写が阻害されている。RecAがDNA損傷に応じて生じる一本鎖DNAに結合することで活性化すると、LexAの自己プロテアーゼ活性を亢進し、細胞内のLexAの濃度が減少し、DNA修復酵素が発現する。このようにして合成されたDNA修復酵素により行われるDNA修復をSOS修復と呼ぶ。なお、SOS応答は多くの細胞に認められる反応で、特に大腸菌のものが良く研究されている。

SOS応答により誘導されるDNAポリメラーゼは、大腸菌ではポリメラーゼW、ポリメラーゼXが知られており、これらは普段複製を行っている複製ポリメラーゼと違い3'-5'エキソヌクレアーゼ活性(校正機能)を持たず、また、SOS修復のために誘導されるDNA修復は通常の塩基とは立体構造の異なる損傷塩基に対して塩基を挿入する必要性から、複製ポリメラーゼと比べ、塩基対を形成する活性部位が"ゆるい"構造となっており、ワトソン・クリック塩基対に従わない塩基対(例えばフーグスティーン塩基対)を形成するなどということも多い。このため、SOS応答により誘導されるDNAの修復は、必然的に誤りの多いものとなる。

結果として、SOS応答により、環境の変化に伴い多量に発生したDNA損傷を迅速に修復することが出来る。また、同時にゲノムの変異をもたらすが、これは長期的には、環境に適応した新しい変異株の発生をもたらすことで有利に働くと考えられる。
複製後修復(PRR)複製後修復と転写に共役した修復

紫外線照射により生じる塩基二量体はNERによって修復させる。しかし、NERのみでは紫外線による損傷のひとつであるCPD(シクロブタン型ピリミジン二量体:cyclobutane pyrimidine dimer)を完全に取り除くことは難しく、損傷発生から24時間経っても、転写を受ける領域、受けない領域に関わらずゲノムに多くの損傷が残っていることが示されている[1]。そのため、複製や転写の途中でポリメラーゼが損傷に遭遇し、反応が完了できない事態に陥る。これは、染色体異常や細胞死、転写産物量の激減によるあらゆる代謝の異常を引き起こすため、生物にとって非常に有害である。特に紫外線損傷は生物が日光の下にいる以上は常に発生するため、損傷残存によるこのような危機を回避するためには、複製や転写を行う際に紫外線損傷がDNA上に残っていても、どうにか複製・転写を無事に完了させることが求められる。

生物はこうした危機から自らを防御するため、転写に共役した修復(TCR)とPRR(Post-replication Repair:複製後修復)と呼ばれる機構をもっている。前者は、RNAポリメラーゼが損傷に遭遇したときに、NERが活性化されて転写反応進行中の鋳型鎖から速やかに損傷を除去する機構である。後者のPRRは、修復のための機構ではなく、DNAポリメラーゼが損傷に遭遇し複製フォークが停止したときに、通常の複製反応とは異なるいくつかの経路によって損傷の存在する塩基の複製を行い、複製をひとまず完了させる機構であり、ゲノムに残存した損傷は後から別の機構により修復される。

PRRは、酵母を用いた研究で、相同組み換え(HR:Homologues Recombination)により複製を行う経路(Rad51-dependent pathway)とRad6に依存する経路が存在することがわかっており、更に後者は、テンプレートスイッチと呼ばれる無傷の姉妹鎖を使って複製を行う経路と損傷の残っているDNA鎖を鋳型に強行的に複製反応を進める経路(TLS: Translesion Synthesis, 損傷乗り越え複製)があることが明らかになっている。TLS以外の経路では、損傷の無いDNA鎖を鋳型として複製を行うため、本質的に無謬であるが、TLSは損傷DNAを鋳型にして複製を進める性質上、誤謬が生じやすく、それゆえに普段の複製時には機能しないように厳密に制御されている。

Rad6依存的な経路では、無謬性(error-free)の複製が行われるかTLSによる誤りがち(error-prone)な複製が行われるかは、PCNAの翻訳後修飾(Post-replicational modification)によって制御されている。Rad6-Rad18依存的に164番目のリジン残基がモノユビキチン化されるとTLSが行われ、その後Rad5依存的にポリユビキチン化が行われるとテンプレートスイッチによる無謬性複製が行われる。[2]
損傷乗り越え複製(TLS)


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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