Controller_Area_Network
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Controller Area Network (CAN) は、ビークルバス規格の一種で、ホストコンピュータなしでマイクロコントローラやデバイスが相互に通信できるように設計されている。耐ノイズ性の強化が考慮された堅牢な規格である。メッセージベースのプロトコルであり、元々は、自動車内部の多重化電気配線用に設計されたものだが、機器の制御情報の転送用として普及しており、輸送用機械、工場工作機械などのロボット分野においても利用されている。自動車においては、速度、エンジンの回転数、ブレーキの状態、故障診断の情報などの転送に使用されている。

データ転送速度は、40mの通信路においては最高で1Mbps程度、500mの通信路においては最高で125kbps程度。実際の運用においては、速いもので500kbps、遅いもので83.3kbpsとなっている。通信速度が上がるほど接続できる機器の数が減るので、高級車などでは速度の異なる複数の通信路をもつ。

なお、デジタルコンテンツなど大量データの転送には、MOSTまたはIDB-1394、車載Ethernetを用いる。パワーウィンドウなど転送速度をそれほど要求されないシステムにおいては、Local Interconnect Network (LIN) と呼ばれるネットワーク通信を用いるのが一般的となっている。また、エアバッグシートベルトなどの乗員保護装置(Supplemental Restraint System)には、低速で信頼性を高めたSafe-by-Wireという規格が策定されている。しかし、CANを使用しているシステムもあり、はっきりとした使い分けは定着していない。
歴史

CANの開発は、1983年にドイツボッシュ社で開始された[1]。このプロトコルは、1986年にデトロイトで開催されたSociety of Automotive Engineers(SAE)の会議で公式に発表された。インテルフィリップスが製造した最初のCANコントローラチップは、1987年に発売された

ボッシュ社はCAN仕様のバージョンをいくつか発行し、1991年にCAN 2.0を発行した。この仕様には2つの部分がある。パートAは11ビットの識別子を持つ標準フォーマット用であり、パートBは29ビットの識別子を持つ拡張フォーマット用である。11ビットの識別子を使用するCANデバイスはCAN 2.0Aと呼ばれ、29ビットの識別子を使用するCANデバイスはCAN 2.0Bと呼ばれる。これらの規格は、ボッシュ社から他の仕様やホワイトペーパーとともに自由に入手できる[2]

1993年、国際標準化機構(ISO)はCAN規格ISO 11898を発表した。この規格は後に、データリンク層を規定するISO 11898-1と、高速CAN用のCAN物理層を規定するISO 11898-2の2部に再構成された。後に、低速フォールトトレラントCAN物理層を規定するISO 11898-3が発表された。物理層規格であるISO 11898-2とISO 11898-3はボッシュ社によるCAN 2.0仕様の一部ではない。これらの規格はISOから購入することができる。

ボッシュ社はCAN規格の拡張に積極的に取り組んでいる。2012年、ボッシュ社はCAN FD (CAN with Flexible Data-Rate) 1.0を発表した。この仕様では、アービトレーションが決定された後、より高速のビットレートに切り替えるだけでなく、異なるデータ長を可能にする異なるフレームフォーマットを使用する。CAN FDは既存のCAN 2.0ネットワークと互換性があり、新しいCAN FDデバイスは既存のCANデバイスと同じネットワーク上に共存できる。ただし、既存CANコントローラに接続するCANトランシーバを全てCAN FDパッシブ用のものに変更する必要がある[3][4]

CANは、自動車の自己診断機能の標準であるOBD2で使用される5つのプロトコルのうちの1つである。OBD2規格は、1996年以降、米国で販売される全て自動車・軽トラックに必須であり、OBD2と等価のEOBD規格は、2001年以降の欧州連合で販売される全てのガソリン車および2004年以降の全てのディーゼル車に対して義務付けられている[5]
応用
自動車

現代の自動車には、様々なサブシステム用に約70個もの電子制御ユニット(ECU)が搭載されている[6]。通常、最大のプロセッサはエンジンコントロールユニットである。 その他に、トランスミッションエアバッグアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)、クルーズコントロールパワーステアリングオーディオシステムパワーウィンドウ、ドア、ミラー調整、ハイブリッドカー電気自動車用のバッテリーおよび充電システムなどに使用される。これらのうちのいくつかは独立したサブシステムを形成するが、他のサブシステムとの通信は不可欠である。サブシステムは、アクチュエータを制御したり、センサからのフィードバックを受け取ったりする必要がある。この要求を満たすためにCANが考案された。

CANの重要な利点の1つは、異なる車両システム間の相互接続により、ソフトウェアだけで幅広い安全性・経済性・利便性を実現できることである。このような機能を従来の自動車電装によりハードの配線により実現しようとすると、コストと複雑さが増大する。例として、以下の事柄が挙げられる。

アイドリングストップ : CANバスを介して、車両周辺からの様々なセンサ入力(速度センサ、ステアリング角度、空調オン/オフ、エンジン温度)を照合し、エンジンを停止することで燃費と排気を改善できるかどうかを判断する。

電動パーキングブレーキ(英語版) : ヒルホールド機能は、車の傾斜センサ(盗難警報器でも使用される)と道路速度センサ(ABS、エンジン制御、トラクション制御でも使用される)をCANバス経由で入力し、車が坂道で停止しているかを判断する。同様に、CANバスから供給されるシートベルトセンサからの入力(エアバッグ制御の一部)により、シートベルトが締められているかどうかを判断し、車が動き出すとパーキングブレーキが自動的に解除される。

駐車支援システム : 運転者がギアを後退に入れると、トランスミッションコントロールユニットはCANバスを介して信号を送信し、駐車センサシステムとドア制御モジュールを作動させる。ドア制御モジュールは助手席ドアミラーを傾けて、縁石の位置が見えるようにする。また、CANバスは降雨センサからの入力を受けて、後退時にリアガラスのワイパーを動かす。

車線逸脱防止支援/衝突回避システム : 駐車センサからの入力はCANバスを通して車線逸脱警報などの運転支援システムに外部近接データを送る。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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