CRISPR
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CRISPR (: clustered regularly interspaced short palindromic repeat; クリスパー)は数十塩基対の短い反復配列を含み、原核生物における一種の獲得免疫系として働く座位である。配列決定された原核生物のうち真正細菌の4割と古細菌の9割に見出されており[1][2]プラスミドファージといった外来の遺伝性因子に対する抵抗性に寄与している[3][4]
歴史

CRISPRと呼ばれている反復クラスターは、石野良純らによって1987年に大腸菌で初めて記載された[5]。2000年になって、類似の反復クラスターがその他の真正細菌や古細菌で見つけられ、この時はshort regularly spaced repeats (SRSR)と名付けられたが[6]、2002年にCRISPRと命名された[7]。またCRISPRリピート近傍にはヌクレアーゼヘリカーゼをコードするCRISPR-associated (cas)遺伝子群が存在することが示された[7]。この段階においてはCRISPRの機能や役割は不明であったが、その後の2005年に複数のグループが、CRISPRのスペーサー配列がファージに由来するものであることを見いだす[8][9][10]。最終的にBarrangouらによって、CRISPRの役割として知られるバクテリオファージへの耐性獲得機能が実験的に証明されたのは2007年であった[3]
Cas9を応用したゲノム編集技術の開発

一方、CRISPRのDNA切断機構は遺伝子工学的応用にも用いられるようになる。2012年にJinekらがII型CRISPR-Casシステムを構成するCas9がRNA依存性のDNAエンドヌクレアーゼであることを見出し、生化学的にCas9による標的DNAの切断が可能であることを示すと[11]、翌年には同グループを含めた複数のグループが哺乳類細胞のCRISPR-Cas9システムによるゲノム編集に成功する[12]。また、このゲノム編集技術に関する特許申請はその後の係争へ繋がる。今日ではゲノム編集技術の他にも転写制御、イメージング、核酸検出法など、様々な応用法が検討ないし実用されている[13][14]。CRISPR-Cas9システムを発表したエマニュエル・シャルパンティエジェニファー・ダウドナは従来より精度が高く使いやすいゲノム編集手法の開発を評価され、2020年のノーベル化学賞を受賞した[15][16]
Cas12a/Cas13の発見と診断技術・治療技術への応用

2015年、細菌Francisella novicidaに由来するCpf1系において、ヌクレアーゼCas12a(旧名Cpf1)が発見される[17]。2016年にはRNAを標的とするエンドヌクレアーゼCas13a(旧名C2c2)が発見された[18]。Cas13はRNA誘導型RNAエンドヌクレアーゼであり、DNAは切断せず、一本鎖RNAのみを切断することを意味する。Cas13はそのcrRNAがssRNAの標的に誘導され標的と結合して切断する。Cas13の特徴はCas9と比較して標的を切断した後も標的に結合したままで、他のssRNAを無差別に切断することである。この性質はcollateral cleavagと呼ばれ、SHERLOCK法(Specific High Sensitivity Enzymatic Reporter Unlocking、邦訳:高感度核酸検出)またはCas12aとCas13を併用したSHERLOCK v2[19]として様々な診断技術の開発に利用されており、具体的にはHUDSON(Heating Unextracted Diagnostic Samples to Obliterate Nucleases)と併用されることで、4種のデング熱ウイルスと2015年から2016年にわたって流行した地域特異的な鎖を有するジカ熱ウイルスの判別や患者から直接得られたデング熱ウイルスの高度な器具の不要な迅速検査の他、無細胞による悪性腫瘍のDNA変異の診断等に応用される[14][20]。この技術をさらに応用し、Cas13の特定のssRNAウイルス(A型インフルエンザウイルス水胞性口炎ウイルス・リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスの3種)への抗ウイルス的な作用に着目して、CARVER(Cas13-assisted Restriction of Viral Expression and Readout)が開発され、抗ssRNAウイルス薬への応用の可能性も示された[21]。さらにCRISPR-Casシステムには抗菌作用も存在し、DNA編集を行うCas9を使用した場合にはプラスミド上に遺伝子があると適切な殺菌ができず、細菌の変異をもたらすリスクがある一方、RNA編集を行うCas13aを使用する場合はそのような懸念がなく薬剤耐性菌を標的とした増殖の抑制に臨床上使いやすいと期待する研究もある[22][23][24]
COVID-19の世界的流行に伴うSARS-CoV-2診断技術への応用

新型コロナウイルスに関しても、Cas12a/Cas13の診断技術が応用される可能性があり、Cas13aを用いたリキッドバイオプシーからがん変異遺伝子を特定する技術に続いて、2020年3月にはCas13aを用いたSARS-CoV-2の検出プロトコルが発表された[25]。Cas13を用いた検査に関しては、サンプルRNAに関して感度95%以上・特異度99%以上という高精度かつ検査1回当たり0.05ドルという安価な費用、2時間以内という迅速性が利点として挙げられ、この点が従来の検査法であるRT-PCR法に対して優越し、SARS-CoV-2のmRNAに応用することも検討されている[26]。理化学研究所・東京大学先端科学技術研究センター・東京大学大学院理学系研究科・京都大学ウイルス・再生医科学研究所の研究チームは、SARS-CoV-2由来のウイルスRNAを分子レベルで5分以内に迅速に高い特異度で検出する、COVID-19を含む感染症の超高感度の検査技術を開発した[27][28]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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