Caenorhabditis elegans
C. elegans の微分干渉顕微鏡像
分類(巌佐ほか (2013))
カエノラブディティス・エレガンス Caenorhabditis elegans は、線形動物門クロマドラ綱プレクトゥス亜綱カンセンチュウ目カンセンチュウ科に属する線虫の1種[1]。細胞系譜が明らかになっているなど、実験材料として非常に優れた性質をもつことから、モデル生物として広く利用されている[2]。多細胞生物として最初に全ゲノム配列が解読された生物でもある[2]。生物学の研究者にとってなじみ深く、C. elegans で広く通じ、日本語でも C. エレガンス(シー・エレガンス)と書かれることが多い(詳細は後記)。体長約1 mm(ミリメートル)で透明な体をもつ[3][4]。
分類と名称に大別され[5][6]、うち双腺綱の桿線虫亜綱カンセンチュウ目カンセンチュウ科に分類されていた。しかし、分子系統解析により自然分類でないことが判明し[6]、現在では本種を含むカンセンチュウ目はクロマドラ綱プレクトゥス亜綱に分類されている[1]。
本種ははじめ Maupas (1900) により桿線虫属(カンセンチュウ属、ラブディティス属)の Rhabditis elegans として記載された[7]。この属は寄生性の属で、ヒト桿線虫 Rhabditis hominis などが知られる[8]。Caenorhabditis ははじめ Osche (1952) により、桿線虫属の亜属として設立され、Dougherty (1953) により属に格上げされた[9]。本種 C. elegans は Caenorhabditis のタイプ種である[9]。 学名 Caenorhabditis elegans の属名 Caenorhabditis
名称
本種は代表的なモデル動物であるため、C. elegans としてしばしば言及される。しかし、国際動物命名規約第4版において、ある学名に最初に言及するときはすべての構成要素を略さずに書くべきとされているため[11][12]、初めから略記するのは適切な引用方法ではない[注釈 1]。
日本語では、学名ラテン語読みを音写したカエノラブディティス・エレガンス[13][14][15][16][17](カエノラブディチス・エレガンス[2][18]、ケノラブディティス・エレガンス[19])や、英語風にシーノラブディティス・エレガンス[20](セノラブディティス・エレガンス[21][22])という表記が用いられる。日本語でも通称として C. エレガンス[23][2][24][25][15][14](シー・エレガンス[1][5])と書かれることも多い。エレガンスセンチュウ[26](エレガンス線虫[27])やセノラブヂチス線虫[3]という和名が与えられることもある。 線形動物門の伝統的分類における双器綱では自由生活性のものが多いが、本種が属する双腺綱の線虫は大半の種が寄生性である[5]。しかし、本種は自由生活性である[5]。土壌に生息し細菌類を食べる細菌食性である。実験室では寒天培地上に生やした大腸菌を栄養源として飼育される。 ただし、その生息地は明確にされていない。本種を記載したフランスの動物学者、Emile Maupas は本種を2度採集しており、それはいずれもアルジェ空港近辺の腐植土からと記している。ところが、Felix & Braendle (2010) によると、彼女らが世界中の野外の土壌サンプルを相手にした範囲では、本種が採集されたことは1度もないという。その代わり、人為的に作られた堆肥からは比較的よく採集される。
生態
形態C. elegans
体細胞数は、雌雄同体の成虫では正確に959個(ただしこれは核の数であり、表皮細胞は多核であるため細胞数はより少ない[28])、雄では1033個かそれを少し上回る数である[29][30][31][32]。古い文献では雄の細胞数を1031個とする記述が多く見られるが、2015年に左右一対のMCM神経の発見[31]が報告されたことで、雄の細胞数がこれよりも2個増えている。雌雄同体の腸内に共生微生物が豊富に存在する環境では、子の腸細胞が1?3個程度増加する可能性が報告されている[32]。C. elegans の細胞数を数える際には、細胞融合によって多核細胞となる表皮細胞については細胞でなく細胞核を数えるが、細胞分裂を伴わない核分裂によって多核細胞となる腸細胞については細胞核でなく細胞を数えている[29][30]。
神経、筋肉、消化管、表皮、生殖巣の組織や器官をもつ[24]。体表は角質下層が分泌する厚いクチクラに覆われる[24]。体内には擬体腔を持つ[24]。表皮の内側を縦走筋(体壁筋)が走る[3]。