B-2_(航空機)
[Wikipedia|▼Menu]
高いステルス性が必要な任務遂行時はレーダー反射を抑えるためドラッグラダーを完全に閉じ、左右のエンジン出力の増減によりヨー方向制御を行っている。機体下部に設けられたタキシングライト(航空標識灯)は、通常時は翼の表面から突出した状態となっているが、任務遂行時はその突出部分がステルス性を妨げるため、機体に格納して平滑な状態にする機能が設けられている。

尾翼が無いことはレーダー反射断面積減少の面で有利となっており、B-2の機体表面はレーダー波を吸収してそのエネルギーを熱に変換するグラファイト/エポキシ複合剤(RAM:Radar Absorbent Material)で覆われているほか、内部構造には非公表ながらレーダー波を吸収するハニカム構造が大量に採用されているとされる。機体表面を環境変化などから保護するために表面には無数の小さな孔があけられており、本体内で発生した水蒸気などを外部へ逃して変形を防ぐ設計がなされている。

4基搭載された米ゼネラル・エレクトリックF118-GE-110 ターボファンエンジンは、レーダー波を反射するエンジンファンが機体正面から露出しないように大きく曲げられたダクトを介して機体内部に深く埋め込まれている。吸気は通常のエンジンへのエアインテークへ、そのやや前部に刻まれたジグザグ状の切れ目の2つに分けられたエアインテークから取り入れられる。また、排出口は赤外線による下方からの探知を避けるために機体上面に開口している。さらに排気温度を下げるため、排出前の排気には冷気が混合されて温度が下げられ、長く作られた排出口以降の翼上部には熱吸収材でできたタイルが並べられている。他にコントレイル(飛行機雲)の発生による目視での探知を回避するために塩化フッ化スルホン酸(Chloro-fluorosulphonic acid)をエンジン排気に混入させる装置が取り付けられている[注 3]

また、B-2は、前脚両側ベイに2基の攻撃目標探索・航法用の米レイセオンヒューズ・エアクラフト)社製AN/APQ-181Ku-バンドフェーズドアレイレーダーを装備しており、ステルス性を阻害しないように自機の放つレーダー電波の周波数のみを通す選択透過性の高いカバーで覆われている。アクティブ・レーダー使用時にはステルス性が失われる危険があるため、レーダー波の照射は爆撃直前に地上の標的近辺のみを対象に限って行なわれるようになっている。Kuバンドによる目標の精密画像データは、搭載のGPS援用目標照準システム(GPS aided targetting system; GATS)によるJDAM爆弾投下の精度を向上させる。このレーダーは開発時はC-135に搭載されテストが行われていた。

自衛用にAN/ALQ-161電子妨害システムとAN/APR-50レーダー分析警報装置を搭載している。AN/ALQ-161電子妨害システムは多数の敵ミサイル・敵航空機・地上からの捜索レーダー波を尾部警戒を含めて360度警戒を行い、複数の探知に対して直ちに適切な複数の妨害電波を送信できる。

コックピットには4台の多機能カラーディスプレイが設置され、パイロットは左側、コパイロットを兼ねる兵装担当士官(Weapon System Officer; WSO)は右側のマクドネル・ダグラス社製ACES-II上方射出シートに座る。これら通常の搭乗員2名のほかに3人目の搭乗用スペースも設けられているほか、WSOの座席の真後ろには長時間航行を想定して簡易トイレおよびギャレー、さらにコクピット後方には仮眠用スペースも用意されている。操縦は4重のフライ・バイ・ワイヤでコンピュータによってアシストされている。兵器管理システムにはIBMフェデラルシステムズのAN/APR-50(ZSR-63)およびZSR-62ディフェンス補助システムの搭載が予定されている[1][2]空中給油を受けるB-2爆撃機

機体と任務の性格上、空中給油受油能力があり、コクピットの後方の機体上面にフライングブーム方式の給油口(リセプタクル)が装備されているが、ステルス機という性格上、リセプタクルは隠匿式となっており、使用時には給油口部分の外板が180度回転し、裏側にあるリセプタクルが露出するようになっている[3]
爆撃AGM-158 JASSM-ER空対地ミサイルを投下するB-2

B-2では、搭載する航法コンピュータに備わる敵の軍事地理の情報を利用し、最も安全な飛行ルートを設定可能である。また、標的から半径8マイル(約13km)以内にまで到達できれば、250-5,000lbsのJDAM(Joint Direct Attack Munition)装着誘導爆弾によりピンポイントでの目標破壊も可能である。JDAMの高空からの滑空距離は27km程度である。この爆弾は、B-2上に搭載されたSBRA(Smart Bomb Rack Assembly)上で再プログラム可能であり、天候やターゲットの変更などに応じて臨機応変に対応できる。B-2には通常16発の2,000lbs爆弾が搭載される。他にも、AGM-158巡航ミサイル(JASSM)や5,000lbs(約2.8t)のEGBU-28バンカーバスターペイブウェイ)を最大8発、B61 Mod 11貫通型核爆弾なら最大16発搭載することができる。今後、SDB小直径誘導爆弾の運用能力付加が予定されている[4][2]
価格と製造数

B-2は1機20億ドル以上(1ドル100円として約2,000億円)という高価な航空機で、世界一高価な飛行機としてギネスブックにも登録されている。例えば、世界的に見ても巨大かつ高価なイージス艦あたご型護衛艦は1隻約1,453億円であり、B-2の価格の高さがうかがい知れる。

開発当初は132機製造を予定していたが、取得費だけでなくステルス性確保のため、7年に一度コーティングの再塗装が必要など維持費も高額で、また冷戦終結もあり結局、試作機を含む全21機しか製作されていない。量産されれば単価は下がるが、先進軍事技術が多数使用された特別な航空機のため友好国への供与は現在も行われていない。

維持費は殆どがその滑らかな機体を研ぐためのものである。F-117の開発責任者、スカンクワークスのベン・リッチは費用対効果の観点からこの機体を酷評した。ただしF-117もレーダー波吸収用特殊素材コーティングのチェックのため、維持費が高額であるのは同様で、この為2008年をもって退役している。
運用部隊情報離陸するB-2爆撃機

B-2はステルス性維持が最重要なため、かつては、湿度・気温などを完全にコントロールされるホワイトマン空軍基地ミズーリ州)の専用ハンガーにのみ駐留し、ほかの基地に展開することは無かった。アフガニスタン空爆などの際もホワイトマン空軍基地から離陸し、空中給油を繰り返して爆撃を行った。このため 1回の作戦行動に40時間を超える事もあった。それ以降は、B-2用簡易ハンガーが開発され、これを設置した基地からの発進が可能となり、2003年イラク戦争ではディエゴガルシア島から出撃した。現在グアム島アンダーセン空軍基地にも時折派遣されることがある。設計開始時と異なり、担当ミッションは核攻撃ではなく通常爆弾誘導爆弾)投下が主任務である。

2013年3月27日、2機のB-2がホワイトマン空軍基地から無着陸で韓国沖の黄海に飛来、デモ飛行をして北朝鮮を抑止した。
リビア空爆

2011年リビア内戦に投入されたほか、2017年1月には再びリビア国内に展開し、ISIL軍事訓練キャンプを空爆している。2017年のケースでは、2機のB-2をホワイトマン空軍基地から出動させ、34時間かけて北アフリカ入りさせた[5]
配備状況

詳細な配備状況に関しては以下に記載する。

第509爆撃航空団(509th Bomb Wing)、ホワイトマン空軍基地(ミズーリ州)

第13爆撃飛行隊(13th Bomb Squadron)

第393爆撃飛行隊(393rd Bomb Squadron)

第394戦闘訓練飛行隊(394th Combat Training Squadron)


第53航空団(53rd Wing):エグリン空軍基地
フロリダ州

第72試験評価飛行隊(72nd Test and Evaluation Squadron):ホワイトマン空軍基地(ミズーリ州)


第57航空団(57th Wing):ネリス空軍基地(ネバダ州

第325兵器飛行隊(325th Weapons Squadron):ホワイトマン空軍基地(ミズーリ州)

第715兵器飛行隊(715th Weapons Squadron): 現在未稼働


実戦配備中の全機リスト

パーソナルネームとして、2機にはそれぞれSpirit of America、Spirit of KittyHawkの名が、残りにはSpirit of 州名の形式で名がつけられている[6]

称号機体ナンバー製造番号正式名称非公式名称
AV-182-10661001Spirit of AmericaFatal Beauty
AV-282-10671002Spirit of ArizonaShip From Hell, Murphy's Law


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:99 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef