Apple Newton(アップル・ニュートン)は、Appleが1993年から1998年にかけて販売していたPersonal Digital Assistant(PDA, 個人用携帯情報端末)のプラットフォーム[1]。世界初のPDAであり、1992年1月に開催されたCESにて、当時のCEOジョン・スカリーがPDAの定義と共に発表[2]、1993年発売。ARMプロセッサを用い、手書き認識機能を備える。
NewtonシリーズにはMessagePadシリーズ(6機種)およびeMate 300が含まれる。→#Newtonシリーズの各モデル Newtonは初期のPDAプラットフォームであり、MessagePadは手書き認識機能を搭載した最初のPDAである。 手書き認識システムは、ロシアのパラグラフ・インターナショナル社がライセンス供与したCalligrapherと呼ばれるエンジンを用いていた。Newtonは利用者が書く文字を学習し、データベースを用いて利用者が次に何を書こうとしているかを推測した。また文字や図を画面上のどこに書き込んでもよかった(これは後のPalm Pilotで決まった場所に一文字ずつ書き込まなければいけないのと比べると、洗練されたシステムであった)。Newtonは、三角や丸や四角といった単純な図形を認識してきれいに書き直してくれたり、引っ掻く動作で単語を消したり、文章を丸で囲むことで選択したり、簡単な記号を書くことで文章の入力位置を指定できるなど、直感的な手書き入力環境を提供した。 ただし、初代機MessagePadと続くMessagePad 100では、Newtonの手書き認識システムは非常に不正確な認識しかできず、発売当初の販売が減速する要因となった(この不具合はNewton OSのバージョンが2.xxになった段階で改善された)。また手書き文字の高度な学習機能が裏目に出てしまい、店頭デモではかえって認識率が低かったことも販売不振の一因となったといわれている。 その後、Newtonはこの手書き認識システムを互換性のために装備し続けつつも、Newton OSが2.0にバージョンアップした際に新たにコードネームRosettaと呼ばれる活字体文字認識システムを搭載し、このバージョン2.1でRosettaの認識精度は飛躍的に向上し、1998年にAppleがNewtonの開発をやめるまで、その手書き認識技術は進化しつづけた[3]。 "1+2="などの手書き文字を認識して縦横に計算をするシステムも開発中であったが、主要な技術者が去ってしまったために実現には至らなかった。 多額の開発費をかけ、時代を先行く意欲的な製品だった割には、当時の市場の反応はあまり芳しくなく、販売台数は伸びなかった。 だが、熱心なユーザや 信者 のようなユーザも生み、1998年にAppleによる正規販売が終了した後に「Newton Source」という店名の非正規のNewton専門店がニューヨークで開店されたり、その後20年ほど使い続ける人もいるほどだった[4]。 Newtonは、20世紀のプラットフォームであり過去のものである。中古市場においては他社のPDA製品よりも高値がついた。2004年時点では、古いハードウェアであるNewton 2000型や2100型は、周辺機器無しで100ドル以上で販売されていた。 Newtonは実際のところ、Appleが後年発売することになるiPhoneや、後の世に登場する数十億台にも及ぶ携帯機器やさまざまな文字認識システムやペンタブレットへと続く道となった[4]。 →#販売、評価、レガシー [注釈 1] Apple Newtonの多くは、個人データ管理のためのアプリケーションソフトをあらかじめ搭載していた。たとえばノート、名簿、カレンダなどのほか、電卓、変換計算機(単位換算、通貨換算など)、タイムゾーン・マップなどである。 Newton OSが後期バージョンの2.xのものでは、上記のアプリケーションは更新され、あらたなアプリケーションが追加された。ワープロ、Newton Internet Enablerなどであり、さらにサードパーティー製アプリケーション(たとえばQuickFigure Works spreadsheet、Pocket Quicken, NetHopperウェブブラウザ、Netstrategy EnRoute e-mailクライアント)も追加された。アプリケーションソフトの多くはデータのインポート/エクスポート機能を備えており、Appleのデスクトップのオフィスのファイル形式やPIM (Personal Information Manager)ファイル形式でデータのやりとりをすることができた。 このほかオペレーティングシステム上でファクシミリや電子メールもサポートされており、これを使うには純正のモデムを8pinコネクター経由で使うか、もしくはMegahertz等のPCMCIAモデムカードが必要だった。 MessagePadは電話番号のダイヤルトーンを内蔵スピーカーで出すことができ、受話器をスピーカーのそばに持ってゆけば電話をかけることができた。また、この方法で電話をかけた場合もそのログが記録され、カレンダーの記録を元に一日の行動を把握することができた。 NewtonのデータはSoup
概要
販売数、評価、レガシー
Newtonシリーズの各モデル
MessagePad 1993年8月 - 1994年3月 NewtonOS1.0-1.1(H1000、OMPと呼ばれる。) ロバート・ブルーナーによるデザイン[5]
SpecARM 610 processor 20 MHz4 MB ROM, 640k SRAM赤外線通信機能、ADB port、PCカードスロット(PCMCIA規格が制定される前だったので、ハードウエア的には合致しているが、ソフトウエア的にはコンパチビリティが無い(一部のカードは使えた)
MessagePad 100 1994年3月 - 1995年4月 NewtonOS1.2-1.3
ハードウエア的にはOMPとほとんど一緒。ソフトウエアアップデートがなされ、文字認識は遅延認識ができるようになっている(書いたあとからでもテキスト変換が可能になった)
MessagePad 110 1994年3月 - 1995年4月 NewtonOS1.3(若干細長くなり、フリップ式カバーと伸縮式のスタイラスがついた)ジョナサン・アイブによるデザイン[6]
CPUは変わらずARM 610 processor 20 MHzのまま。メモリーはSRAMが1MBとなった。このモデルには限定版で半透明のモデルが存在した。
MessagePad 120 1994年10月 - 1995年1月 NewtonOS1.3(日本で公式販売開始)[7][8]
CPUは110と同じ、SRAMは1MBと2MBバージョンが存在した。
MessagePad 130 1996年4月 - 1997年4月 NewtonOS2.0(バックライト搭載。OS2.0搭載)、画面は320 x 240ピクセル、サイズは幅101.6 mm x 高さ203.2 mm x 厚さ29.0 mmで重量480gであった[9]。
MessagePad 2000 1996年4月 - 1997年11月 NewtonOS2.1(大幅改良。StrongARMを搭載し大幅に高速化、大形化しPCカードスロット2基搭載)、ディスプレイサイズ129.8mm x 83.2mm、幅118.7mm、高さ210.3mm、厚さ27.5mm、重量640gであった[10]。
ディスプレイ下部のアイコンが液晶表示となり、カスタマイズが可能になった。MessagePad 2100
MessagePad 2100 1997年11月 - 1998年2月27日[11] NewtonOS2.1(内蔵RAMを4MBに)[12]
Newton OSは、シャープやモトローラなどのサードパーティーにもライセンス供給され[13]、上記以外のPDA機器にも使われた。ディスプレイ下部のアイコンが液晶表示となり、カスタマイズが可能になった。通信について。標準の通信方法はADBポートに繋ぐ専用モデムが販売されており、それを利用しての通信が可能であった。PCMCIAカードを利用しての通信は、Megahertz社のモデムカードにNewtonで使える機種があり、それを使っての通信が可能であった。
eMate 300 - 1998年2月27日[11](バックライト付き大画面を搭載、OS2.1を搭載。ARM7を搭載し若干高速化、キーボードを組み込み)
詳細は「eMate 300」を参照eMate 300はNewtonシリーズの中では異色であるが、これは1997年に発表された学校向けの機器である。価格は手頃で(当初は教育用途にのみ800ドルで販売された)、教室用で、サイズが大きめ、頑丈(筐体が貝殻型で、腕の高さから固い床に落しても壊れない設計)、480×320ドットの16諧調グレースケール画面、スタイラス(筆記ペン)、フルサイズキーボード、赤外線ポート、Macintoshの標準シリアル/LocalTalk用ポートを装備し、電源は内蔵の充電式電池で、最大28時間稼働可能。取っ手つきで筐体色が透き通った緑ということも異色であった。
技術的詳細
Newtonのアプリケーションソフト開発にはNewtonScript[14]と呼ばれる、当時先進的だったオブジェクト指向プログラミングのシステムが用いられていて、これはAppleのウォルター・スミス (Walter Smith) ⇒[1] が開発したものだった。NewtonScriptのためのプログラミング環境(Toolbox)は当初は価格が1000ドル以上もし、プログラム開発者たちからは不評であったが、後に無料で利用できるようになった。この開発環境を使いこなすには新しいプログラミング手法の習得が必要であったが、開発環境が無料となったことで、多くのサードパーティー・アプリケーションやシェアウェアアプリケーションがNewtonで使えるようになっていった。
MessagePadのコネクタは、AppleのMacintoshの標準シリアルポート規格同様の、丸いミニDIN 8ピン・コネクタを使っていた。MessagePad 2000と2100は独自の小さいフラットコネクタを備えており、変換ケーブルでつながるようになっていた。