Adaptive_TRansform_Acoustic_Coding
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ATRAC
拡張子.omg .oma .aa3 .at3 .at9 .atp .hma
MIMEタイプaudio/ATRAC3、audio/ATRAC-ADVANCED-LOSSLESS、audio/ATRAC-X
開発者ソニー
種別音声ファイルフォーマット
ウェブサイト ⇒www.sony.co.jp/Products/ATRAC3/

ATRAC(アトラック、Adaptive TRansform Acoustic Coding)は、ソニーが開発したオーディオ非可逆圧縮および可逆圧縮の技術・規格名、および後年開発された関連技術群の総称。いずれも、ソニーグループや、その他家電系メーカーの開発した規格・製品で主に利用される。ミニディスクのコンセプトである、「CDと同等の記録時間を確保」「コンパクトカセットよりも高音質」「コスト面でリーズナブル」「編集・ランダムアクセスが容易な構造」の4点を満たすことを最優先として開発された[1]
呼称について

ソニーはオリジナルATRAC(便宜上ATRAC1と通称される)の後に、関連技術のATRAC2、ATRAC3、ATRAC3plus、およびATRAC Advanced Losslessを開発した。名称や用途が極めて似ているためこれら5種は「ATRAC系コーデック」としてまとめて扱われることが多いが、これらは相互互換性のない別々の規格である。

なお、ATRAC2・ATRAC3などの名称の末尾についている数字はATRACのバージョン番号であると誤解されることがあるが、正しくは名称の一部である。ソニー製ATRAC1コーデックの名称として「ATRAC Ver.○○」が使われるため、前者としばしば混同されるが、ATRAC3はATRACの最新版ではなく、ATRAC Ver.3とATRAC3およびATRAC3plusは全くの別物である。

ソニーは2005年秋より、これらすべての総称をATRACとすることで、規格混乱の収束を図っている[2]
ATRAC(1)

ATRACでは、QMF (Quadrature Mirror Filters) とMDCT(変形離散コサイン変換、Modified Discrete Cosine Transform)が利用されている。

エンコード過程においてはまずQMFに2回通され、帯域ごとに3分割される。このうち最初の通過で高音域 (11.025?22.05kHz) が分離され、2回目では残った音域が低音域 (0?5.5125kHz) と中音域 (5.5125?11.025kHz) に分離される。

分離後は、各々の帯域でMDCTが行われる。このMDCTの回数は場合によって変化し、高音域では1サウンドフレームあたり1回もしくは8回、低・中音域においては1回もしくは4回とされている。

このATRACはLSIの進歩に合わせて、Ver.1、Ver.2、Ver.3、Ver.3.5、Ver.4、Ver.4.5、TYPE-Rへとバージョンアップを重ねた[2]
ミニディスクにおける利用

ATRACは、音楽用のミニディスク規格で採用された。ステレオ (通常292kbps) 、モノラル (通常146kbps)の2つのモードが用意されている。

最初期のMD機器で用いられていたソニー製ATRACコーデック"ATRAC Ver.1"では実記録ビットレートに現在の半分しか割り当てられていなかったため、MP3より記録音質が極端に悪かった。このことがATRACの音質に対する悪印象を定着させてしまったことから、ATRAC Ver.1はその後の普及・展開にも大きな影響を及ぼしたコーデックとして悪名高い。ただしそれぞれのバージョン間で互換性はあるため、例えば最初期のMD機器でATRAC TYPE-RでエンコードされたMDを再生することは可能である[2]

なお、データ用MDであるMD-DATAやMD-DATA2でも音声を記録する場合のフォーマットとして使われることがある。
SDDSにおける利用

ATRACはまた、SCPC社(現Sony Cinema Products Corporation)が開発した映画の音響システムSDDS (Sony Dynamic Digital Sound) でも採用された。

収録は5.1chもしくは7.1chで、合計ビットレートは最大1280kbps。先行規格のドルビーデジタルdtsより音質の評価は高かったが、設備コストなどが難点となり普及率は低い。現在のところ、劇場再生用しか対応されていない。
ATRAC2

ATRAC2(アトラック・ツー)は、1994年に発表されたミニディスクの汎用版「MD DATA」の標準音声フォーマットとして採用された技術・規格。詳細は不明だが、オリジナルのATRACよりもTwinVQAACに近い技術とされる。

MD DATAでは最大4chの録音が可能で、ビットレートは1チャンネルあたり36.5kbpsまたは73kbps。主に演奏録音の用途において、2ch(ステレオ)録音しかできない通常のミニディスクのかわりに利用された。
ATRAC3 / ATRAC3plus

ATRAC3(アトラック・スリー)は、ATRAC2をベースに開発された技術・規格で、1999年に発表された。

音声は0?2.75625kHz、2.75625?5.5125kHz、5.5125?11.025kHz、11.025?22.05kHzと帯域ごとに4分割される。ビットレートは通常、132kbps、105kbps、66kbpsの3種類が使われる。このうち66kbpsはJoint Stereoを併用することでビットレートの不足を補っている。

ウォークマンに添付されている音楽管理・転送ソフトウェアSonicStage/CONNECT Player/x-アプリの楽曲配信サービスであるmora(モーラ)が、2012年9月までこの方式で楽曲を配信していた(同年10月以降はAACに変更)。

また、ATRAC3plus(アトラック・スリー プラス)はATRAC3をベースに開発された技術・規格で、2002年に発表された。ATRAC3plusではATRAC3で帯域ごとに4分割されていたものを16分割にして特徴の分析精度を高め、多くの非可逆圧縮フォーマットで使用されている整数の符号化においてより多くの置き換えパターンを持つことで圧縮率を高めるといった方法が採用されている。ATRAC3との互換性はないが、発表以後はATRAC3とセットで採用されていることが多い。

ATRAC3plusは登場当初、64kbps、48kbpsの2モードのみが用意され、ATRAC3の基本3モードよりも高圧縮・低音質の用途に振られていた。しかし2004年ごろからは低圧縮・高音質用途向けのモードが追加されるなど、ATRAC3を徐々に置き換えていくかたちがとられている。
PC上での利用

ATRAC3およびATRAC3plusは、AV機器・設備で内部的に使われることの多かったATRAC、ATRAC2とは違い、PC上でファイルとして利用されることが多い。

初めてATRAC3をサポートした一般向けソフトウェアは、ソニーの「OpenMG Jukebox」である。OpenMG Jukeboxは1999年末に発売されたウォークマンに添付されていた音楽管理・転送ソフトウェアで、ATRAC3でのCDリッピング、PC上のWAVMP3ファイルのATRAC3変換、およびウォークマンへの転送機能が用意されていた。

これらの機能は、ソニーが後年開発したSonicStageCONNECT Player、その後継のx-アプリでもサポートされている。また他社からもジャストシステムBeatJamケンウッドのMuliaなど、主にNet MD機器向けに対応ソフトウェアがリリースされている。

ATRAC3plusへ初めて対応したソフトウェアは、バイオの2002年秋モデルにプリインストールされたSonicStage Ver.1.5である。当初は64kbps、48kbpsの2モードに対応し、ATRAC3の3モードよりも高圧縮・低音質の用途に振られていたが、Ver.2.0からは256kbps、Ver.3.2では320kbps、192kbps、160kbps、128kbps、96kbps、Ver.3.4では352kbpsが追加され、ATRAC3 132kbpsよりさらに高音質なモードを含む、幅広い用途をカバーするようになった。

SonicStage Vとx-アプリ(Ver.1.0)ではMP3・WAVなど他のフォーマットからATRACに変換する機能は削除され、CDからの取り込みのみ対応している。BeatJamなどではファイルのATRAC変換も可能である。

ATRAC3ファイルの本来の拡張子は"aa3"だが、OpenMG Audioコンテナに格納した"oma"が利用されることがほとんどである。なお、OpenMGで暗号化した場合の拡張子は"omg"(OpenMGコンテナ)もしくは"oma"となる。"omg"はOpenMG Jukeboxや初期のSonicStageで使われていたが、"oma"登場以降は新たなファイル作成ができなくなり、CONNECT PlayerやSonicStage V、x-アプリでは非対応となった。"oma"はSonicStageバージョン2.1で登場し、初期は暗号化したファイルしか作れなかったが、CONNECT PlayerやSonicStageバージョン3.2以降は暗号化が任意となった。

ギャップレス再生に関しては、LAMEでエンコードしたMP3のように曲ファイルそのものにギャップレス情報を埋め込むわけではないので個別にエンコードしたファイルのギャップレス再生はできないが、所謂擬似ギャップレスには対応しており、CD全体、もしくは何曲かまとめてエンコードすることによってギャップレス再生に対応している。また本来ミニディスク向けフォーマットから発展したためか、ミニディスクと同様のカット編集(分割・結合)がx-アプリなどの対応ソフトウェアで行えるようになっている[3]
メモリースティック規格での利用

ATRAC3を採用した最初の携帯音楽プレーヤーは、1999年末に発売されたソニーのメモリースティックウォークマン「NW-MS7」である。この製品は付属ソフトウェアのOpenMG JukeboxによってCDの楽曲やPC上のWAVMP3ファイルをATRAC3に変換し、本体に挿入したマジックゲート メモリースティック(MGMS)に転送するというかたちがとられていた。

メモリースティック上でのATRAC3/ATRAC3plusの扱いはメモリースティックオーディオとして規格化されているため、別メーカーの別製品に挿入した場合でも原則として再生が可能である。ただしメモリースティック自体に複数のタイプが登場し、またATRAC3plusは遅れて2003年に採用されたことなどから、初期の製品との互換性には一部問題が生じている。

ウォークマン以外の機器でメモリースティック上のATRAC3ファイルを再生できるものには、ソニーのCLIESCEPSPNTTドコモau向けの携帯電話ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ製、三菱電機製の一部モデル)などがある。また、過去にはシャープからヘッドホン型メモリースティックプレーヤー「e-musee」、ケンウッドパイオニアからメモリースティックスロット搭載ミニコンポ、アルパインからメモリースティックスロット搭載カーオーディオ・カーナビゲーションなどが販売されていた。
ミニディスク拡張規格での利用


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