この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。
AV出演被害防止・救済法
日本の法令
正式名称性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律
通称・略称
AV出演被害防止・救済法
AV被害救済法
AV新法
法令番号令和4年法律第78号
種類民法[1]
効力現行法
成立2022年6月15日
公布2022年6月22日
施行2022年6月23日
所管内閣府[男女共同参画局]
関連法令
風俗営業法
職業安定法
労働者派遣法
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性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律[1](せいをめぐるこじんのそんげんがおもんぜられるしゃかいのけいせいにしするためにせいこういえいぞうせいさくぶつへのしゅつえんにかかるひがいのぼうしをはかりおよびしゅつえんしゃのきゅうさいにしするためのしゅつえんけいやくとうにかんするとくそくとうにかんするほうりつ)は、アダルトビデオ(AV)への出演に係る被害の防止と被害者の救済を目的として制定された日本の法律である[2]。
通称は、AV出演被害防止・救済法[3][4][2][5][6](エーブイしゅつえんひがいぼうし・きゅうさいほう)。略称は、AV被害救済法、AV新法など[7][8]。
法令番号は令和4年法律第78号[2]。2022年(令和4年)6月22日に公布され[9]、同年6月23日から施行された[2]。
主務官庁は内閣府男女共同参画局推進課とされ、困難女性支援法を担当する厚生労働省社会・援護局総務課女性支援室および同省労働基準局労働条件政策課、売春防止法を所管する法務省人権擁護局調査救済課警察庁生活安全局人身安全・少年課性的搾取対策官部課並びに警視庁生活安全部保安課と連携して執行にあたる。 本法は、2022年の民法改正(後述)を契機に立法された、AV被害に特化した日本で初めての法律である[10]。AV出演者の心身や私生活について重大な被害が実際に発生していたことから、AV出演被害の防止と被害者の救済が必要として設立された[11]。なお、内閣府はAV出演被害に関する電話相談を#8891で受け付けている[2]。 この法律の主な内容は次の通りである[2][11]。なお、この法律は年齢・性別の区別なく適用され[2]、個人撮影AVや同人AVなどの非適正AVにも適用される[12]。本法に対して、適正AVへの悪影響を指摘する声や、非適正AVを取り締まるための実態に則した法律改正を求める声も挙がっている[13][14][15]。そうした様々な議論を呼びつつも「被害救済の一刻も早い実現が必要」としてひとまず施行され、成立後2年以内に見直しを行う予定である[16][17]。 本法設立のきっかけは、2022年4月1日に施行された民法の改正であった。改正民法では成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたため、従前の未成年者取消権(親の同意なく結んだ契約を取り消す権利)から18歳と19歳が適用対象外となった。そのため、18歳・19歳の若者が自由な判断ができない状況でアダルトビデオ出演に関する契約を強要されるなどの被害の拡大が懸念された。AVの出演被害者の支援活動などをしていた複数のNPO法人が危機感を強め、国会議員と勉強会を開催。与野党6党からなる超党派によって議論が行われ、AV新法がスピード成立する流れとなった[18][19]。 いずれも2022年である。
概要
事業者の義務
出演契約締結時の契約書等の交付と、契約内容の説明の義務化
撮影時の出演者の安全を確保する義務
契約から1か月間の撮影の禁止
全ての撮影終了から4か月間の公表の禁止
出演者の権利
出演者は意に反する性行為等を拒絶することができる
出演者は公表前に撮影された映像を確認することができる
出演者は撮影時に同意していても、公表から1年間[注 1]は無条件に契約を解除することができる
出演者は契約がないのに公表されている場合や、契約の取消・解除をした場合は、販売や配信の停止等を請求することができる
構成
第1章 総則(第1条 - 第3条)
第2章 出演契約等に関する特則
第1節 締結に関する特則(第4条 - 第6条)
第2節 履行等に関する特則(第7条 - 第9条)
第3節 無効、取消し及び解除等に関する特則(第10条 - 第14条)
第4節 差止請求権(第15条)
第3章 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の特例(第16条)
第4章 相談体制の整備等(第17条 - 第19条)
第5章 罰則(第20条 - 第22条)
附則
設立経緯
経過
3月23日、NPO法人ぱっぷす主催のもと、「4月1日の民法改正により、女子高生の性暴力被害が深刻となる」として「4月1日からの高校生AV出演解禁を止めてください」と題した集会が国会の衆議院第2議員室内で開催された。集会には与野党の国会議員や弁護士の伊藤和子らが参加した[20][21]。
3月28日、立憲民主党参議院議員の塩村文夏が、国会質問で「未成年者取消権と同等の効果のある施策を、4月1日以降も存続できるようにすべきだ」と、この問題について国会議員で最初に取り上げた[20][22]。内閣総理大臣の岸田文雄は、現行法で対応する考えを示しつつ、超党派の議論についても「政府として見守った上で、対応を考えたい」と答弁。その後、自由民主党「性暴力のない社会の実現を目指す議員連盟」会長の衆院議員上川陽子と話し合いを持ち、自民党内でも議論が始まった[23][18]。
3月31日、政府が緊急対策として「『アダルトビデオ』出演強要問題緊急対策パッケージ」を公表。若年層への広報や啓発の強化、法制度の運用強化のほかAV人権倫理機構の自主規制で「出演年齢を20歳以上とすること」を強く推奨する方針が定められたが、新法による対策はこの時点で盛り込まれなかった[22][24][25]。
4月1日の民法改正同日、立憲民主党は内閣府へアダルトビデオ出演強要問題に関する緊急要請を行った[22]。3月31日の「緊急対策パッケージ」で既存の各種法制度の下で運用強化する方針のみが示されたのを踏まえ、立憲民主党は「こうした対策の効果を注視しつつ、アダルトビデオ出演強要による被害の防止・救済のため、抜本的な制度・規制の見直し等を求めていきます」「現在の法制度では不十分である」として内閣総理大臣および内閣府特命担当大臣に対する新法制定の要望書を提出した[22]。同党からの出席者は塩村と衆院議員の森山浩行、山井和則、吉田統彦、柚木道義、岡本あき子[22]。
4月6日、自由民主党所属議員による「性暴力のない社会の実現を目指す議員連盟」は、会合で「アダルトビデオ(AV)出演強要問題」を論議し、関係省庁や支援団体から被害の実態や課題をヒアリングした。その中で支援団体は、18歳と19歳が成人年齢となったことで「未成年者取り消し権」の対象から外れたためにAV出演強要被害が拡大する可能性があるとして、「未成年者取消権」と同様の権利を18歳と19歳にも認めるべきだと訴えた。会合後、上川は取材に対して、「今の法律では対応できず、緊急性が高い。立法府の立場からどう対応できるのか、スピード感を持って取り組みたい」と語った。これが、自民党内から出た最初の新法制定推進意見であった[26][27]。
4月13日、自民・公明両党は「AV出演被害防止に関するプロジェクトチーム」の初会合を行った[28]。そこで、「(1)保護する対象者は年齢・性別を問わない、(2)問題のある出演契約はいつでも取り消せる、(3)いかなる出演契約でも撮影前や撮影後の相当期間は無条件に契約を解除できる」という具体的な対策を講じる議員立法を成立させる方針で一致した[28]。
4月26日、自由民主党、公明党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、日本共産党の与野党6党の実務者協議で、第208回国会での法制化を目指すことで合意した[29]。与党は未成年者取り消し権の復活は困難と判断し、同様の法的効果が得られる枠組みを創設することとした[29]
5月13日、与野党6党は超党派の会合で法案の素案に合意した[30]。
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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