ADHDに関する論争
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ADHDに関する論争(ADHDにかんするろんそう)では、ADHD(注意欠陥・多動性障害)に関する論争について記述する。

ADHDに関しては、その医学的診断と実態の曖昧さにより、多くの論争が起きている。DSM-IV-TRにおいては行動障害と分類されていたが2013年のDSM-5では神経発達障害と改められた。2005年、発達障害者支援法において規定されたこともあり、日本では発達障害の一種と認識されている。
障害としての曖昧さ

マイケル・ムーアは、映画シッコにおいて、重篤な疾患を抱えた大勢の国民が治療を受けられずに放置されているなか、あなたは不安症ではないか、注意欠陥障害ではないか、とメディアが国民の不安を煽る現状にも触れている。

日本では1997年11月、朝日新聞神戸連続児童殺傷事件に関し、ADHDが犯罪に関連するかのような印象を与えたと、精神発達指導教育協会などから謝罪を求められ、紙面で謝罪している。1999年には7月22日付けの『女性セブン』28号に、精神科医和田秀樹が、学級崩壊とADHDの関連性などに関して述べ、親の愛情不足の影響に言及したため、当事者団体や当事者家族から抗議を受け、愛情不足が原因と言ったのではなく、影響が大きいのだと反論した。和田は又、DSM-IVによる診断では、生物学的な原因以外でも診断がおりる可能性に言及している[1]。2008年に出版した本では、より明確に、これまで発達障害と思われていたが必ずしも生物学的でないものとしてADHDを挙げている。生物学的で先天性であれば、これほどの急な増加の説明がつかず、社会的な要因によるものと考えるほうが自然であり、具体的には、親の育て方が変わったことが、ADHDを増やしている可能性があると説く[2]

ニューヨーク・タイムズは、ADHD有病率の急激な増加には過剰診断や製薬会社による病気喧伝に原因があると述べている[3]

9歳から15歳までの215人を調べた調査では、生後1年間におけるたんぱく質エネルギー低栄養と、15歳までの注意欠陥に、相関関係があることを示している[4]

ADHDと犯罪の可能性に関しては、確かに行為障害が発現しやすいと言われるが、精神科医のピーター・ブレギンは、ADHD自体は、教室で教師を悩ます行動の全リストに過ぎないと言う[5]。また、精神科医のサイモン・ソボは、ADHDを持つ人の殆どは、楽しいことをしているときは問題なく集中しているため、生物学的脳障害ではないのではないかと論じる[6]。しかし、こういった、ADHDの医学的な実体に異を唱える各見解を、アメリカ精神医学会アメリカ心理学会、米国医師会、米国小児科学会は拒否している[7]

ADHDは神経学的なものと言われているが、正確な原因は不明なままであり、様々な原因により症状を引き起こす障害であることはほぼ間違いない。

1990年、アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)のアラン・ザメトキンは、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン[8]に、運動前野と上前頭前皮質におけるブドウ糖の低代謝と成人の多動を関連づける研究を発表した。3年後、ザメトキンらは、Archives of General Psychiatry誌[9]で、青年に同様の研究を試みたが良い結果を得られなかったことと、最初の研究も良好ではなかったことを発表した。多動な脳におけるブドウ糖の代謝率が、注意力の問題における原因なのか結果なのかもはっきりしないという[10]


2007年11月には、Proceedings of the National Academy of Sciences誌[11]オンライン版に、NIMHのフィリップ・ショウ、ジュディス・ラポポートらの研究で、ADHDの子供たちは前頭前皮質における脳の発達が他の普通の子供たちより3年遅れていると発表された[12]

研究が進むなかで、将来的には脳の画像を見て障害の診断をすることがあるかもしれないが、現在の診断は行動観察と家庭や学校などの情報に基づき臨床的に行われている。以前は微細脳障害と呼ばれていたが、脳障害を確定することができないので、状態を表す診断名となっているのである[13]

日本では、発達障害者支援法により、ADHDを含む発達障害の早期の発見は責務とされているが、乳幼児健康診査での発見方法なども自治体任せであり、必ずしも専門家ではない地域の小児科や保健士が研修を受けながら手探りで行っている。1歳半や3歳では判断が難しく、五歳児健診を取り入れる自治体もある[14]。ただしADHDを理由として特別支援学級に進み、特別支援学校の高等部を卒業しても、それは「高卒」の学位として認められないため中卒扱いになり、就職で大きなハンデになる[15]障害者差別解消法では、普通学級で健常者と同様に学ぶ環境を確保するために、障害の特性に応じた「合理的配慮」が公立学校に義務付けられた[16]
ラベリングの功罪

ADHD研究の権威であるラッセル・バークレーは、ラベルに多くの落とし穴があることは認めつつ、正確なラベルによって支援にアクセスでき、個人の理解にもつながるのだと言う[17]

ADHDと診断された息子を持つ、作家でジャーナリストのトム・ハートマンは、どんな子供であれ、脳障害のラベルを貼るのはむごいと言う[18]。心理学者で教育者のトーマス・アームストロングは、自己成就予言により、ラベルを貼られた子供がラベル通りになる危険性を説く[19]。アームストロングは、ADHDとラベルの貼られた子供がアクセスする行動療法にもラベルにも否定的で、子供の個性や状況に合わせた子育てを提唱している。
食品の影響の有無
砂糖

砂糖はADHDや反社会的行動に影響するという説があるが、通常生活の活動量の多さと砂糖の摂取量にも相関があるため、実際に砂糖が影響しているか否かは明確なエビデンスがない[20]。2006年には、ソフトドリンクの摂取量とADHDとの相関関係が報告された。ソフトドリンク(100g of sugar /L, 1杯あたり約200mL)を1日4杯以上飲む集団でスコアが一番高く(症状が悪く)、週1?6杯で一番スコアが低かった。一方、全く飲まない集団は週1?6杯飲む集団よりスコアが高かった(症状が悪かった)[21]
食品添加物

アメリカやイギリスでは食品添加物などを除去した食事の比較が行われている。たとえば、23の研究で食事とADHDとの関連が見られ、アレルギー症状の軽減も確認されたものもあると報告されている[22]
イギリス政府による発表

2007年11月、イギリス政府は、数種類のタール色素の安息香酸ナトリウムと合成着色料の入った食品がADHDを引き起こす可能性があることを発表し、ドリンクやお菓子に入っていることが多いとして注意を促した[23]。2008年4月には、英国食品基準庁(FSA)はADHDと関連の疑われる食品添加物について2009年末までにメーカーが自主規制するよう勧告した[24]。ガーディアン紙によれば、この政府勧告による自主規制の前に、大手メーカーは2008年中にもそれらの食品添加物を除去する[25]

自主規制対象のタール色素:赤色40号赤色102号、カルモイシン、黄色4号黄色5号、キノリンイエロー

その経緯

1970年代にアレルギー医であるファインゴールドが、食事から合成食品添加物を除去することによってアレルギーが軽減すると共にADHDも軽減すると報告した。ファインゴールド協会[26]の食事療法[27]はイギリスにも「注意欠陥・多動性障害の子供をサポートする会」[28]を発足させた。

こうして二重盲検法による比較研究が行わることにもなり、合成着色料合成保存料を除去した食事によって70?80%以上の子供のADHDが改善するということも報告された[29][30]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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