ABO式血液型
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その後の研究では、健康面(ストレス抵抗性や病気のリスク)へあるという報告は存在している[89]。ABO式以外の血液型では特定の血液型のみある病気にかからないというものがいくつか見つかっている(P式血液型:p型とPk型のヒトパルボウイルスB19耐性、ダフィー式血液型:Fy(a-b-)型の三日熱マラリア耐性など[90]。)が、ABO式では完全耐性の病気は見つかっておらず、下記のように相対値で数割ほど多い少ない程度の「あえて言えば」の範囲である。

マラリア:マラリアそのものの感染率は変わらないが、熱帯熱マラリアによって起きる脳性マラリアに移行するしやすさがA型がO型の1.3倍。(マラリアに寄生された赤血球が脳の血管に詰まるのが原因だがA型のみ毛細血管に若干くっつきやすい。)

胃(十二指腸)潰瘍:ピロリ菌の感染しやすさがO型のみ25%ほど高い(ピロリ菌はルイス抗原のb抗原につきやすいので、Aルイスb抗原やBルイスb抗原に変化しているA型やB型より、これがこのまま残るO型の胃壁につきやすい。)

ノロウイルス:一部の株に限るが、H物質につくのでO型の感染率が若干高い。(以上3例山本(2015) p.180-188より)

COVID-19:関係しないという説と[91]、東アジア人種では関係するという説の両者がある[92]

免疫機構以外の病気の成りやすさで確認されているものでは、O型は血液凝固に必要なフォン・ウィルブランド因子の濃度が他の型より25%ほど低く、このため他の型よりわずかに血液が凝固しにくく、血栓が起きにくい(エコノミークラス症候群発生率がO型を基準とすると他の型は50%ほど多い)[93]

2022年には、科学雑誌『Nature』に、ABO型血液型と腸内細菌叢に関する論文が3報発表され[94][95][96]、うつ病、精神との因果関係が示されている細菌の存在量の違いが示されている。
ABO式血液型と妊娠

ニューヨークのアルバート・アインシュタイン医学校のエドワード・ネジャトが、不妊治療を受けている女性のグループに対して検査を行ったところ、O型の女性は他の血液型の女性よりも卵子の数が少なく、その質もあまりよくなく、それとは対照的に、A型の女性は卵子も多くその質も良好であることが判明した。[97]

これは560人の女性(平均年齢35未満)を対象とした研究で、O型の女性がA型の女性よりも高いレベルの「卵胞刺激ホルモン(FSH)」を持つ可能性が高いということが判明した。不妊治療の専門家からは、高いFSHレベルはその女性の卵子の数が少ないと見なされる。

A型の女性はA抗原(細胞表面を覆うタンパク質)を保有しているが、O型の女性にはこれがないため、このことも妊娠の確率に影響している可能性があると推測している。
ABO式血液型の変化
後天的な変化

ルイス式血液型では出生後に血液型は変化するがABO式では稀である。

白血病の治療などで造血幹細胞移植骨髄移植)を行った場合には、移植したドナーの造血幹細胞によって血液を造り出すようになるため、原則としてドナーのABO式血液型に変わる。

骨髄性白血病などで、特定の抗原糖の産出が停止し、血液型が変わることがある。

細菌感染症で、細菌が出すジアセチラーゼにより抗原糖が変質し、血液型が変わることがある。

ただし、上述の病気や細菌感染症で変わることは非常に稀である。現在の知見では病気やその治療以外の原因で血液型が変化することは基本的にありえないので、病気や治療などの原因がないにもかかわらず献血等で血液検査を行ったときに血液型が異なっていた場合は、本人や親の単純な思い込みや新生児での血液検査が間違っていたと考えた方が良い。
輸血用ABO抗原の変更

(分泌型なら)唾液中からも血液型物質が検出できるのだが、すぐに調べればわかるのに数時間ほど放置してから調べると検出不能になる事例がかなり初期から知られており、さらに採集後すぐに加熱処理すれば長時間置いても検出できるため京城帝国大学佐藤武雄らはこれを研究した結果「口腔内の細菌が唾液中の血液型物質を分解する」ということを発見した。これはすべての型を分解するものだったが1950年代に井関尚栄らが選択的にA・B・Oの各型質を選択的に分解する酵素を発見し、例えばB型血球にB分解酵素を使うとO型血球になることが分かった(O型血球はフコースを失い、ガラクトースだけの志賀赤痢菌などに見られる異性人血球抗体を持つ血球になった。)[98]

上記の時点では輸血に使える代物ではなかったが、2007年4月にA型、B型、AB型の赤血球をO型に変えることのできる酵素開発米国ハーバード大学などの国際研究チームが成功した。O型の血液はボンベイ型を除く全ての血液型の人に輸血が可能であるため、この技術が確立すれば、輸血の際に血液型を考慮する必要がほとんどなくなることとなる[99]
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 出典では「ランドスタイナー」表記
^ 現在の観点から見ると不自然な親子関係があるが、参考にした『血液型の話』14Pの表のままで掲載。
^ あくまで二対対立因子説による仮説である点に注意
^ 前述のフォン・デュンゲルンおよびヒルシュフェルトの初めての調査ではAB型の親とO型の子の組み合わせがあるが、以後の他の学者たちによる調査で確認できなかった。
^ この違いはAB型に現れるはずで、ベルンシュタインの説では「AB型血球にはR凝集原がないので凝集素ρには反応しない」はずだが、古畑らの説は「O型血球に反応する凝集素があればAB型でも反応する」となる。
^ よってオーストラリア・南北アメリカ大陸などは先住民のデータから推測。
^ 比率でわかるように後述の「A型遺伝子やB型遺伝子の多い地域」でも大半はA型遺伝子やB型遺伝子は過半数に達しておらず、O型の方が多数派の場合も多い。
^ 参考にした『血液型の話』原文は「アメリカ・インディアン」表記
^ 古畑(1962) p.213
^ 日本やシベリア先住民ではやや低いが、北海道などのアイヌはB型が比較的多い。
^ A型遺伝子出現率は九州東部・四国南西部では29%以上だが、青森県の北部は24%以下になるなど(保志(1968) p.324図4「日本におけるA型遺伝子出現率の地域差」(古畑より改変)。)。
^ 抗H抗体自体はA型・AB型で一番多いA1型やA1B型の血清にも存在するが、こちらは体温で反応しないため輸血で問題にされることはほとんどない。
^ なお、Row-Iは通常のボンベイ型が分類される。
^ 注:Hを小文字で上に書く書き方もある、以下同じ

出典^ 古畑(1962) p.9
^ a b c 小川聡 総編集 『内科学書』第7版-vol6、中山書店、2009年、p49
^ 山本(2015) p.2-6
^ Dr. Karl Landsteiner:"Ueber Agglutinationserscheinungen normalen menschlichen Blutes", Wiener klinische Wochenschrift, 14 Jg., Nr.46 (14. November 1901), S.1132-1134.
^ Dr. Alfred v. Decastello und Dr. Adriano Sturli:"Ueber die Isoagglutinine im Serum gesunder und kranker Menschen", Munchener medicinische Wochenschrift, 49 Jg., No.26 (1. Juli 1902), S.1090-1095.
^ Prof. E. v. Dungern und Dr. L. Hirschfeld:"Ueber Vererbung gruppenspezifischer Strukturen des Blutes, II", Zeitschrift fur Immunitatsforschung und experimentelle Therapie, 1 Teil, Bd.6, H.1 (22. Juni 1910), S.284-292.
^ yasuoka (2007年11月1日). “ ⇒O型はゼロ型なのか 。yasuokaの日記 。スラド”. yasuokaの日記. 2017年11月1日閲覧。
^ Klinische Wochenschrift, 7 Jg., Nr.35 (26. August 1928), S.1671.
^ 古畑(1962) p.14 I・2表
^ 古畑(1962) p.16 I・3表
^ 古畑(1962) p.16 I・4表
^ 古畑(1962) p.21
^ 古畑(1962) P.14?29「ABO式血液型の遺伝」
^ 古畑(1962) p.29?32
^ 山本(2015) p.44-51
^ 山本(2015) p.63-72
^ 山本(2015) p.97-101
^ a b 遠山博、「赤血球型不適合輸血の機構と予防」 日本輸血学会雑誌 1982年 28巻 5号 p.423-433, doi:10.3925/jjtc1958.28.423
^ ただしニワトリは元々ABO式の遺伝子を持ってない(山本(2015) p.163表ABO血液型が分かる科学』P163表)。
^ 山本(2015) p.124-125
^ ヨーロッパはM遺伝子とN遺伝子が半々ぐらいだが、北米先住民はM型、オーストラリア先住民はN型に偏っている。
保志(1968) p.326図1「M型遺伝子頻度の地理的分布」
^ 保志(1968) p.324?325
^ 保志(1968) p.324図1?3「O・A・B型の出現率の地域差」(ムーラントより改変)
^ CIA World Factbook
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