ABO式血液型
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(三複対立因子説の詳細については因子の組み合わせは「機構」、遺伝は「ABO型における親子の理論的な血液型の組み合わせ」を参照。)

両者の内容には差異があるが(後述)どちらもO型は「対立因子がない」のではなく「対立因子の1つを持つが他の因子に潜性遺伝する(古畑の言葉を借りると「AとBに対し潜性するa・bが同じもの[12]」)」という考えで、これならばAB型が少ない理由も子供の生まれる組み合わせも説明できるため、確認のため別の学者たちが何度か家族調査を行った結果、日本国内で合計で958家族、3954人を調べ三複対立因子説の通りの調査成績になったため、1927年のアムステルダムで開かれた第3回国際人類学会とベルリンの第5回国際遺伝学会で古畑らはこれを報告し、ついで1933年の第5回太平洋学術会議で1595家族6826人(子供3636人)の調査結果を報告し、血液型の遺伝は三複対立因子説で説明されるようになった[13]

なお、ベルンシュタインと古畑らの三複対立因子説の一番大きな違いは「O型に型特異性の抗原性があるか否か」についてで、ベルンシュタインはR凝集原とそれに反応する抗R凝集素(ρ)を仮説として唱え、古畑は抗原は合っても全部の型に共通の基本型抗原だとした[注釈 5][14]

(実際のO型血球に存在したH抗原はAB型血球にも存在するため、ベルンシュタインのいうR凝集原ではなく古畑の言う基本型抗原に近い。)
機構

A型はA型転移酵素をコードする遺伝子を持っており、この酵素が元になるH物質にN-アセチルガラクトサミンをつけてA抗原を作るのに対し、B型はB型転移酵素をコードする遺伝子を持っていてこちらの酵素はガラクトースをつけB抗原を作る。AB型は両方の遺伝子を持っているためAとB双方の抗原を作るが、O型はどちらも作れないのでH物質のままになる[15]。これらの抗原が最初に血液から発見されたために「血液型」という名称を冠するもので、血液以外にも唾液精液など、すべての体液にも存在する。ただし血球などに抗原をつける遺伝子と唾液などの体液に抗原をつける遺伝子は別系統(後述)なので、1/4の人は後者の遺伝子が働かない非分泌型という血液以外の体液に抗原が出ない(もしくは微量で検出されない)体質である。

ABO式血液型を決定する抗原を作る遺伝子は第9染色体に存在し、通常のA型とB型の遺伝子では両方355個分(厳密には最後が終止コドンなので354個分)のアミノ酸のデータでそれぞれA抗原とB抗原の転移酵素を作り、これでH抗原を作った後追加の糖をつけるが、A型とB型では中?後半部に7か所(99・176・219・235・266・268・310番目)作られるアミノ酸が違うものがあり、この違いでA酵素はN-アセチルガラクトサミン、B酵素はガラクトースがそれぞれH抗原につけられ、これがA抗原とB抗原の違いになっている。O型の遺伝子の場合は、AやBの遺伝子の後半部分が機能しておらず途中で終止コドンになって、通常のO型では87番目のアミノ酸用の塩基配列が1つ抜けているので以後がずれ、118個分(厳密には最後は終止コドンなので117個分)のアミノ酸のデータで酵素を作るため追加の糖が付けられなくなっている[16]

一方、H物質を発現させる遺伝子は第19染色体に位置し、H前駆物質をH物質へ変換させる。後述のボンベイ型とパラボンベイ型は、H物質を組み立てる際にフコースをつける工程でこの酵素が作られない遺伝子のため「H物質自体が完成せずに、ここから先のA抗原とB抗原も作られない」というものだが、分泌型か非分泌型かでさらに違いが生じており、非分泌型のボンベイ型ではこれらの抗原が血球以外にも存在しないが、分泌型のパラボンベイ型では体液分泌細胞や上皮細胞用の抗原を作る1型糖鎖(血液細胞や血管壁用の抗原の糖鎖は2型)を作る遺伝子は別系統(分泌・非分泌型の遺伝子)で機能しているため、体液中にはH物質があり、遺伝子によってはAやBの抗原も保有している他、そこから漏れたこれらの抗原が赤血球に吸着されて「わずかだがABOに関する抗原を持つ赤血球」を持つことがある[17]

A型 - A遺伝子をすくなくとも一つ持ち、B遺伝子は持たない(AA型、AO型)→A抗原を持つ。B抗原に対する抗体βが形成

B型 - B遺伝子をすくなくとも一つ持ち、A遺伝子は持たない(BB型、BO型)→B抗原を持つ。A抗原に対する抗体αが形成

O型 - A遺伝子・B遺伝子ともに無い(OO型)→H抗原のみ持つ。A,B抗原それぞれに対する抗体α、抗体βが形成

AB型 - A遺伝子・B遺伝子を一つずつ持つ(AB型)→A抗原、B抗原両方を持つ。抗体形成なし

A抗原とB抗原は、持っていないとそれに対する自然抗体が形成されることが多く、この場合、型違い輸血により即時拒絶が起きショック状態となる[18]。自然抗体がなくとも型違い輸血により1週間程度で新しいIgM抗体が生産されこれが拒絶反応をおこす。そのため、基本的には型違い輸血をしてはならない。輸血される血液は受血者の血液より少量のため、血漿によって希釈されて抗原抗体反応が起こらなくなる。

なお、「自然抗体」というのはRh型のように不適合輸血[18]を受けた後などに抗体を生じる「免疫抗体」に対する呼び方だが、実際にはこれも免疫機構によるもので、1950年代にペンシルバニア大学のゲオルク・スプリンガーの実験で無菌状態で育てたヒヨコはABO式血液型の抗原を持っていない[19]が、B抗原を持つ大腸菌を投与すると抗B抗体を持つようになったという報告があることや、人間も腸内細菌のいない新生児の頃は抗A抗体や抗B抗体をもたないが、生後3か月から6か月ほどで持つようになることなどから腸内細菌などに対する免疫の結果生じた抗体とされる[20]
分布
地理的分布

ABO式血液型の遺伝子分布は母集団(地域人種)によって差が大きく、コロンブス以前の分布[注釈 6]では、O型遺伝子の率は世界的にどこでも多い[注釈 7]が特にアメリカ大陸の先住民[注釈 8]で、中南米ではO型が100%近くになる地域がある。A型遺伝子が多い地域はヨーロッパ(約25?35%)とオーストラリアの南部と西部の先住民(約30?35%)、また北米でもカナダ・アルバータ州からアメリカ・モンタナ州にかけてのブラッド族・ブラックフィート族(黒足族)と呼ばれる先住民集団[注釈 9]は例外的にA型遺伝子の比率が高い(最大50%以上)。ただ、この3か所はMN式血液型で調べると分布が全く異なる[21]他、後述のB型の分布も大きく異なる。B型遺伝子が多い地域は北部インドからモンゴル(約30%)となり[注釈 10]、逆に南北アメリカ大陸やオーストラリア先住民では極めて少なく(ほぼ0%)、同じモンゴロイド系の人種でもアジア側とアメリカ側で結果が大きく違うため、B型は「アメリカ先住民の新大陸移住(約2万年?1万5千年前)後にアジアで増加した」か「偶然アメリカ先住民の先祖にB型がほとんどいなかった」のどちらかの可能性が高いと考えられる[22]

なお、アフリカ大陸のABO型分布には取り立てて特徴がなく、大半の地域で一番多いのはO型(65?75%)だが特にこの地域が多いわけではなく、シベリアやヨーロッパ西沿岸部とさほど変わらず、A型はアジアの大半地域並み(15?25%)・B型は東ヨーロッパ(10?15%)程度である[23]

日本人のABO式血液型の分布はおよそO型32%、A型37%、B型22%、AB型9%だが、古畑種基らの研究によるとわずかに地域差があり、九州・四国・中国ではA型、東北・北陸ではO型がわずかに多く、それぞれ反対の方がその分少ない[注釈 11]という分布の勾配があった。


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