ABC殺人事件
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ABC殺人事件
The ABC Murders

著者アガサ・クリスティー
訳者伴大矩(初訳)
堀内静子 ほか
発行日1936年
1935年(初訳)
発行元Collins Crime Club
早川書房 ほか
ジャンル推理小説
イギリス
言語英語
形態ハードカバー
ページ数256ページ(原著初版、ハードカバー)
前作雲をつかむ死
次作メソポタミヤの殺人

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『ABC殺人事件』(エービーシーさつじんじけん、原題:The ABC Murders)は、1936年に発表されたアガサ・クリスティの長編推理小説である。クリスティ18作目の長編で、エルキュール・ポアロシリーズの長編第11作にあたる。ミッシング・リンクをテーマとしたミステリ作品の中で最高峰と評される作品で[1]、知名度・評価ともに高い著者の代表作の一つである(後述、#作品の評価を参照)。

日本語初訳は『ABC殺人事件』(日本公論社刊、伴大矩訳、1935年[2])。
あらすじ

ロンドンに新しくアパートを構えたポアロの元に、「6月21日、アンドーヴァーを警戒せよ」と文末に「ABC」と署名された挑戦状が届いた。そして挑戦状の通り、Aで始まるアンドーヴァー(Andover)の町で、イニシャルがAのタバコ屋の老女アリス・アッシャー(Alice Ascher)の死体が発見され、傍らには『ABC鉄道案内[注 1]が添えられていた。

警察は当初、彼女が夫と不仲であったため、夫を疑う。間もなくABC氏からポアロの元に第2・第3の犯行を予告する手紙が届き、Bで始まるベクスヒル(Bexhill)でイニシャルがBの女性、「C」で始まるチャーストン(Churston)でイニシャルがCの富豪が殺害され、やはり死体のそばには『ABC鉄道案内』が置かれていた。犯人は、地名とイニシャルが一致する人物をアルファベット順に選び殺害していると推測されたが、被害者達それぞれに動機がある者はいても、被害者たちにABC以外の関連性はなく、犯人の正体と動機はわからない。

やがてセントレジャー競馬が行われる日に犯行を予告する手紙が届く。ポアロらは第4の殺人を防止すべく、競馬の開催地ドンカスター(Doncaster)へ向かうが、町の映画館で殺害されたのはイニシャルがDの人物ではなくEの理髪師の男であった。ポアロも警察も首をひねるが、近くにイニシャルがDの男性が座っていたため犯人に間違えられたものと思われた。

アルファベット順に選んだ対象を無作為に殺害していく愉快犯の仕業と警察が捜査方針を固める中、てんかん持ちのアレクサンダー・ボナパート・カスト(Alexander Bonaparte Cust, A. B. Cust)は新聞報道を読んで自分が犯人なのではないかと思い悩み自首してくる。彼の家からは『ABC鉄道案内』が多数発見され、事件は解決したかと思われた。だが、ポアロは真犯人が別にいると推理する。彼はいかに理性を失したように見える人間の犯行であっても、そこには犯人なりの論理性や理由があるはずであり、何の理由もないのにアルファベット順に人を殺害していくというのは殺害動機としてあり得ないと考えていた。

ポアロは一連の事件の被害者を調べ上げ、一連の犯行予告や連続殺人事件は警察を攪乱するためのもので、真犯人は明確な目的をもって殺害した一件の殺人を、明確な殺害理由のない連続殺人事件の中に紛れ込ませようとしていたことを見抜く。

ポアロの推理どおり、A・B・C・Dの一連の殺人事件のすべてはイニシャル「C」ことカーマイケル・クラーク卿の弟であるフランクリン・クラークの犯行であった。兄のカーマイケルを殺害し、その妻であるシャーロットは存命とはいえ病気で余命いくばくもない状態であることから、財産を独り占めしようと画策しての犯行だった。「C」の人物以外の殺害はあくまでも「C」に到達するためだけのものであり、またイニシャル「D」まで殺害したのは「C」がラストではあまりにも露骨に映ることを避けるためであった[注 2]
登場人物
エルキュール・ポアロ
私立探偵。
アーサー・ヘイスティングズ
ポアロの協力者。
アリス・アッシャー
Alice Ascher1人目の犠牲者。アンドーヴァーで小さな商店を切盛りしていた老女。
フランツ・アッシャー
Franz Ascherアリスの夫。大酒飲みで、たびたび妻のアリスに金をせびっていた。ドイツ系で、第一次大戦中は差別と偏見に苦しんでいたらしい。
メアリ・ドローワー
Mary Drowerアリスの姪。アンドーヴァー近郊のある屋敷でメイドとして働いている。
エリザベス(ベティ)・バーナード
Elizabeth (Betty) Barnard2人目の犠牲者。ファーストネームはエリザベス(Elizabeth)だが、周囲からはベティ(Betty)と呼ばれていた。ベクスヒルのとあるカフェでウェイトレスとして働いていた。異性関係が少々だらしなく、彼女の父親に言わせると「いまどきの娘」らしい。
ドナルド・フレーザー
Donald Fraserベティの婚約者。不動産関係の仕事をしている。激しやすく、ベティの異性関係でたびたび彼女と言い争いをしていた。
ミーガン・バーナード
Megan Barnardベティの姉。ロンドンでタイピストとして働いている。ドナルドとの喧嘩についてベティから相談を受けていた。
カーマイケル・クラーク卿
Sir Carmichael Clarke3人目の犠牲者。かつて医師として成功した富豪。引退後は保養地の近くのチャーストンにある屋敷に住み、趣味の骨董品収拾に熱中していた。
フランクリン・クラーク
Franklin Clarkeカーマイケル卿の弟。兄の右腕として世界中を飛び回って骨董品を買い集めている。
シャーロット・クラーク
Charlotte Clarkeカーマイケル卿の妻。末期ガンを患っており、先が長くない。夫のカーマイケルと秘書のグレイの関係を疑っている。
ソーラ・グレイ
Thora Greyカーマイケル卿の秘書。彼女は事件当日に怪しい人物を見かけていないと証言しているが、当日玄関先の階段で見知らぬ男と話している姿をシャーロットに目撃されている。
ジョージ・アールスフィールド
George Earlsfield4人目の犠牲者なのだが、姓名ともにイニシャル「D」ではない理髪師の男性。
ロジャー・ダウンズ
Roger Downesドンカスターでの殺人の第一発見者であり、被害者の近くに座っていた教師。姓のイニシャルが「D」なので、警察は背格好の似ていた彼とアールスフィールドが間違えられたのだと考える。
アレグザンダー・ボナパート・カスト
Alexander Bonaparte Custストッキングのセールスマン。自身の名前が2人の偉大な英雄(アレクサンダー大王ナポレオン・ボナパルト)に由来することに対してコンプレックスを感じている。原作での途中の数章はヘイスティングズ大尉ではなく彼の視点から描かれている。第一次大戦に従軍したことがあり、復員後はその後遺症に悩まされている。真犯人の策略によって、一連の事件の犯人であるという濡れ衣を着せられる。最終的にポアロから警察への助言もあり、無罪として釈放される。
ジェームス・ジャップ
ロンドン警視庁首席警部。
作品の評価

作者ベストテンでは、
1971年の日本全国のクリスティ・ファン80余名の投票で本作品は4位(1位は『そして誰もいなくなった』、2位は『アクロイド殺し』、3位は『予告殺人』)[3]1982年に行われた日本クリスティ・ファンクラブ員の投票では8位に挙げられている(1位は『そして誰もいなくなった』、2位は『アクロイド殺し』、3位は『オリエント急行の殺人』)[4]

2012年に『週刊文春』で推理作家や推理小説の愛好者ら約500名を対象に実施されたアンケートによる東西ミステリーベスト100で、本作品は62位に評価されている[注 3][注 4]

1930年代のクリスティ作品を高く評価するジュリアン・シモンズは、その時期の代表作として推賞する5作のうちの1作に本作を挙げている[注 5]

日本語訳版

本作の出版は、イギリスでは
1936年1月だが、アメリカでは簡略版が1935年11月に『COSMOPOLITAN』に掲載されている[6]。そのため、ハヤカワ文庫(ハヤカワ・ミステリ文庫、クリスティー文庫)ではイギリスでの出版による著作権の発生年を元に1936年の発表、創元推理文庫ではアメリカでの簡略版の発表を元に発表年を1935年としている。なお、前述の伴大矩による日本語初訳はアメリカで発表された簡略版の翻訳のため、発行年は1935年となっている。

1952年10月『別冊宝石』23号「世界探偵小説全集1 アガサ・クリスティ篇」 に「ABC殺人事件」(伴大矩=訳)、「スタイルズ事件」(宇野利泰、桂英二=訳)、「そして誰れもいなくなつた」(清水俊二=訳)を収録。


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