74式戦車
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1960年代当時、同盟国のアメリカ軍西側諸国が配備していたM60中戦車には空冷ディーゼルエンジン(コンチネンタル AVDS-1790)が採用されており、M48中戦車やM103重戦車などの既存戦車に対しても同型の空冷ディーゼルエンジンに換装する改修事業が推進されていた。

既に61式戦車の際に開発に成功していた空冷ディーゼルエンジンが存在していたが、目標とされた400馬力級の小型軽量エンジンの要件は満たしていなかった[8]。そのため三菱重工業の高速艦艇2サイクルディーゼル太平洋戦争中に培った空冷技術をもとに新たなエンジンを開発することとされ[8]、1967年(昭和42年)に10ZFディーゼルエンジンとして完成した。

トランスミッションは1964年(昭和39年)より開発が始まり、1967年(昭和42年)にMT-75操向変速装置として完成した。オートマチックトランスミッションでなくセミオートマとなったのは当時の技術的な遅れが原因との指摘もあるが、開発の際にトルクコンバーターを用いることは伝達効率が低い(加速能力などに影響する)という理由でなるべく避けられており、一次変速部と二次変速部は遊星歯車機構を用いた二重差動操向式(クロスドライブ式)となっている[9]。変速操作はパワーシフト式であり、発進及び停止時以外のクラッチ操作は不要である。

射撃管制装置にはレーザー測距儀弾道計算コンピューターなど、当時の世界最高レベルの最新技術が盛り込まれた[10]。車体の挙動に影響されず主砲の照準を保持する安定化装置(スタビライザー)の開発では、砲塔を駆動する油圧システムとジャイロの電気信号で制御される安定化装置の制御が、開発の上で特に困難だったとされている[11]
試作車STB-2

最初の試作車はSTTと呼ばれ、油気圧懸架装置をテストするための車体のみの車両であった。当初は61式戦車のエンジンと履帯が装着されていたが、1967年(昭和42年)には三菱重工が開発した10ZFディーゼルエンジン、およびMT-75操向変速機が装着された。また、105 mm砲も装着され、砲撃が車体などに与える影響も検証された。105 mm砲を装備した試作砲塔もSTTに搭載され、試験が行われた。

STTで各部ごとの試験が行われた後、1969年(昭和44年)9月にはSTB-1とSTB-2の試作車両2両が完成した。この試作車は費用面で妥協することなく開発が行われたが、その装備の多くは結局、費用対効果の問題などで採用されなかった。戦車長リモコンで車内より操作する対空機銃(照準はペリスコープを使う)、半自動装填機、後退用ギアを2段変速とするなど、数々の意欲的な機能が搭載されていた。ほか、細部の構造が量産車と異なる[注 1]

STBを見た、関係していた人物は[誰?]「量産車とはエンジン音からして違った(軽かった)」「細部の作りが丁寧で、綺麗だった」「砲塔の内部は量産車と違い近未来的だった」といった感想を残している。STB-1は1972年(昭和47年)の観閲式で国民に一般公開され、避弾経始に優れた車体の形状は当時の人々を驚愕させるものであった[12]

2両の一次試作車による試験の後、コストの低減を主眼とした二次試作車であるSTB-3からSTB-6までの4両が1970年(昭和45年)4月 - 1971年(昭和46年)12月までに製造された。

STBの審査は1973年(昭和48年)11月に行われた。開発には1年を要し、1974年(昭和49年)に完成し、制式化、翌1975年(昭和50年)から三菱重工業による生産が開始された。なお、制式化当時防衛庁長官だった山中貞則は、装備局に「次期主力戦車の名前を『山中式戦車』に」と主張したが、前例がない上に開発に山中は一切関与していないため、当然の如く却下されている。
特徴
火力避弾経始を追求したことで流線型の砲塔となった。2012年(平成24年)富士総合火力演習での74式戦車の主砲発射。

主砲にはイギリスロイヤル・オードナンス社の51口径105 mmライフル砲L7A1日本製鋼所ライセンス生産した物を装備しており、105 mmライフル砲用の砲弾は当初APDSHEPを使用していたが、現在ではAPFSDS(93式105 mm装弾筒付翼安定徹甲弾)とHEAT-MP(91式105 mm多目的対戦車榴弾)を使用している[13]。ほかに、演習用徹甲弾として00式105 mm戦車砲用演習弾と、空砲射撃用の77式105 mm戦車砲空包がある。砲は車体が傾いても砲自体は水平を保つ安定化装置を備えている。量産型には途中から、発砲の熱によるたわみを防ぐ目的で砲身にサーマルジャケットが着用された。

旧防衛庁『仮制式要綱 74式戦車 XD9002』によれば、砲塔及び戦車砲の動力制御の最高速度は砲塔の旋回速度が約24度/秒、戦車砲の仰俯角速度が約4度/秒となっている。戦車砲の発射速度は初弾が概略照準後(レーザー測距による照準を完了した状態)3秒、次弾は初弾発射後4秒となっている。

射撃の際はルビーレーザーによるレーザー測距儀とアナログ式弾道計算コンピューターを用いる。また、STB-1にはパッシブ式暗視装置が装備されていたが、コスト面からSTB-2以降では廃止され[12]アクティブ近赤外線式の暗視装置を備えることで、夜間射撃を可能としている。

副武装として、12.7mm重機関銃M2を砲塔左側に、74式車載7.62mm機関銃主砲同軸に各1丁装備する(12.7mm重機関銃M2は陸上自衛隊をはじめ、西側諸国で地上用、車両用、対空用を問わず広く用いられている重機関銃である)。STB-1ではリモコン可動式で、車長席に機銃用ペリスコープが装備されていたが、ペリスコープからの狭い視界からは精密射撃が期待できない[12]ため、STB-2以降は通常の手動操作に戻された(74式車載7.62mm機関銃は、本車のために62式7.62mm機関銃を元に開発された新型機関銃である)。M2用の12.7x99mm NATO弾は660発、74式機関銃用の7.62x51mm NATO弾は4,500発を車内に格納する。

このほか、乗員用に11.4mm短機関銃弾薬150発)を2挺、64式7.62mm小銃(弾薬200発)を1挺、21.5mm信号けん銃(弾薬10発)を1挺、手榴弾(8発)を搭載する[14]
防護力

防弾鋼板の溶接構造を採用し[15]90式戦車のような複合素材は採用されていない。だが、避弾経始の思想が随所に見られる設計となっており、車体前方装甲を例にあげると、約80mmの装甲板が斜めに溶接されており、水平弾道に対する厚さは上部装甲板で189mm、下部装甲板で139mmとなっている[16]

車体側面は厚さ35mmの装甲板で構成されている[16]。車体後面装甲は厚さ25mmとされる[16]。防弾鋳鋼製の砲塔に関しては、砲塔上面が約40mm、前面装甲は189-195mmと推測されている[16]

他国の第2世代戦車と比較しても、車体前面装甲厚はレオパルト1の122mm・140mmより厚く、T-62の174mm・204mmよりやや劣る程度である[16]


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