64(ロクヨン)
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この項目では、横山秀夫の小説について説明しています。64(ロクヨン)の愛称で知られるゲーム機については「NINTENDO64」をご覧ください。

64(ロクヨン)
著者横山秀夫
発行日2012年10月25日
発行元文藝春秋
ジャンル推理小説
日本
言語日本語
形態四六判上製本
ページ数640
公式サイト『64』横山秀夫
コードISBN 978-4-16-381840-5

ウィキポータル 文学

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『64(ロクヨン)』は、横山秀夫による日本推理小説。またこの小説を原作としたテレビドラマ、映画。
連載

別册文藝春秋』(文藝春秋)にて、251号(2004年5月号)、253号 - 260号(2004年9月号 - 2005年11月号)、262号 - 263号(2006年3月号 - 5月号)まで連載された。

改稿作業を続け、2009年頃には発売日まで決まったものの納得がいかず、全面改稿の上、書き下ろしとして2012年10月に刊行された[1]

作品の背景

「D県警シリーズ」の第4作目にしてシリーズ初の長編。

2冊目の短編集『動機』(2000年刊行)を書き終えた後、長編を書こうと書き下ろしの予定で150枚ほど書き始めていたが、他の出版社から連載や短編のオファーが殺到し、必死でこなしていた時に心筋梗塞で倒れた。療養もそこそこに『別册文藝春秋』で連載を始めたが、思うようにストーリーが進まず、ボタンを掛け違ったような違和感があり、「いつか必ず完成させる」と心に誓い、連載を途中でやめてしまった。『震度0』刊行後の2005年、『64』に再び着手できるようになり、手直しを加えた上で2009年に出版されることが決定するが、ただ書き終えただけの作品でしかなく、このままでは読者からお金を貰える作品たりえないと思い、出版を中止するという苦渋の決断をした。担当編集者は絶句していたという。再び『64』の改稿作業に入ったが、今度は突然、記憶障害に襲われ、前日に書いた原稿の内容が思い出せなかったり、主人公の名前さえ思い出せなくなってしまった。廃業という文字を頭に浮かべながら、どうしたらよいか分からず、庭仕事をし、いいアイディアや文章が思い浮かぶと書斎に駆け戻り、1、2行書き、また庭へ戻るという繰り返しだった。次第に筆が進むようになり、小手先の手直しをやめて全面改稿を重ねた[2]
あらすじ

わずか7日間で幕を閉じた昭和64年(1989年)、D県警管内で7歳の少女・雨宮翔子が誘拐され、殺害される事件が起こった。当時、捜査一課特殊犯捜査係に所属していた三上義信も追尾班として初動捜査に加わり、犯人から要求された2000万円の身代金を運ぶ父親の車を追った。だが土地勘に優る犯人に翻弄され、身代金はまんまと奪われ、5日後に翔子の遺体が無惨な状態で発見される。昭和天皇の崩御で悲しみに暮れると共に、新元号「平成」の制定で新しい時代の幕開けに色めき立つ世間とは裏腹に、幼い少女の死と遺族の慟哭を目の当たりにしたD県警は、平成の世に紛れた犯人を逃がすまいとこの事件をロクヨンという符丁で呼び解決を誓うが、遺族に吉報がもたらされないまま時は過ぎ、捜査本部は専従班に縮小され、名ばかりの継続捜査状態となっていた。

平成14年(2002年)、捜査二課次席まで出世していた三上は、突然警務部への異動を命じられ、広報官に任じられる。2年で刑事に戻るつもりで仕事に邁進し広報室の改革を目指すが、赤間警務部長からは上が決めたことを伝える窓口になり、自分が考える必要はないと忠告され、三上もある理由からそれに従わざるを得なかった。三上には元ミス県警の美しい妻・美那子と高校生の娘・あゆみがいる。だが、あゆみは父とよく似た醜い自分の顔と美しい母の顔を憎むようになり、高校を不登校がちになり、ついには部屋に引きこもるようになってしまっていた。カウンセリングを受けさせるなどして、状態は徐々に良い方向へ向かっているかに思えたが、整形を反対されたあゆみが家出してしまう。あゆみの捜索を全国の警察に口利きしてくれたのが他ならぬ赤間で、事あるごとにあゆみの件を持ち出し、自分の意に従わせようとする赤間の言動に、三上は苛立ちを禁じえない。そんな中、自宅にかかってきた無言電話があゆみからのものではないかと美那子が気に病み、再びかかってくることを期待し、美那子までもが引きこもり同然になってしまう。

時効間近のロクヨンについて警察庁長官が視察に訪れることが決まり、被害者遺族宅への長官の慰問許可を取り付けて来るよう赤間から命じられた三上が雨宮宅を訪ねると、雨宮は長官の慰問を拒否する。14年の長きに渡って事件を解決できない警察への失望と怒りが雨宮をそうさせたのかと三上は考えるが、雨宮と密に連絡を取り続けていなければならないはずの刑事部と雨宮の関係が断絶していることが判明する。同じ頃、主婦による重傷交通事故が発生し、加害者が妊娠8か月であったため、母胎への影響を考慮し匿名で記者クラブに発表したところ、猛抗議を受ける。記者たちは本部長に直接抗議文を提出すると息巻き、それを広報官もしくは秘書課長止まりにできまいかとせめぎ合いになり、記者と広報室の間には深い溝ができ、記者らは来たる長官視察のぶら下がり会見のボイコットを通達する。そんな中、三上の同期で人事を扱う警務部調査官の二渡が、ロクヨンについて聞き回っていることが分かる。二渡はかつてのロクヨン関係者に「幸田メモ」という言葉を出していた。幸田とは、ロクヨン事件で自宅班を担当し、事件の半年後に退職した元刑事の名だった。なぜ刑事ではない二渡がロクヨンを調べているのか、幸田メモとは何なのか、雨宮と刑事部の関係悪化の原因がそこにあるのではないか、行く先々で様々な家庭に無言電話がかかっていたことを気にしつつも調査を積み重ねた三上は、県警による隠蔽に直面する。ロクヨン発生当時、雨宮宅を担当する「自宅班」の警察官らが到着したあとにも犯人からの脅迫電話があり、科捜研の警察職員のミスにより、その録音に失敗していた。そして自宅班を率いる漆原はその隠蔽を指示した。憤慨した幸田は一部始終を報告書に記して刑事部長官舎へ投函したが、刑事部は隠蔽を追認し、幸田は警察を追われた。「幸田メモ」とは、幸田による内部告発であり、その隠蔽は歴代刑事部長の申し送り事項となっていた。

やがて、長官は慰問の場でロクヨンを解決できないD県警の刑事部長の座を警察庁人事にすると宣言する予定であることが、刑事部長荒木田の口から明かされ、刑事部はそれを阻止すべく警察とマスコミの関係を意図的に悪化させ、取材をボイコットさせることで長官視察を中止に追い込もうとしていることが分かる。警務部と刑事部の軋轢は深さを増していき、刑事部の暴露によると思われる警務部の不祥事がマスコミにスクープされる。赤間から催促され、雨宮に慰問を受け入れてもらうべく彼の家へ再び訪れた三上は、翔子の遺影をみて、思わず滂沱の涙を流す。すると雨宮は、一転して慰問を受け入れると答えた。

刑事部長職の召し上げに反発しつつも、三上は広報官の務めとしてマスコミ各社との信頼関係を取り戻し、ボイコット回避に成功させる。しかし長官視察の直前となって、ロクヨンを模倣したと思われる誘拐事件が発生。記者クラブと報道協定を結ぶべく会合が持たれる。協定は事件の詳細を記者クラブに逐一発表することが条件にもかかわらず、刑事部は、被害者である目崎歌澄の実名をはじめとする情報を一切漏らさず、一向に増えない情報に記者の不満は溜まる一方だった。何とか被害者の父親の名が明かされるが、協定が破綻して記者が勝手に取材に動けば、警察に通報したことが犯人に分かってしまう恐れがあり、被害者の命さえ危ぶまれる。三上の必死の説得で協定は正式に締結される。三上は、犯人の指示を受け車で疾走する父、目崎正人を追う捜査車両への同乗を許され、そこから広報へ情報を提供する。

しかしそこで、目崎歌澄が万引きをして警察に補導されたという知らせが入る。歌澄は誘拐されていなかった。犯人は彼女の家出を利用して不在時に脅迫電話をかけ、「誘拐事件」を偽装したのだった。なぜか娘の無事を目崎正人に対して知らせようとしない刑事たちに三上は激怒するが、そこで彼は、一連の調査の過程で様々な家庭にかかっていたと知った最近の無言電話が、すべて「ま」行に集中していたことと、この「誘拐」事件直前にも目崎家に無言電話がかかっていたことを思い出し、この偽の誘拐事件の犯人が雨宮芳男であり、そして彼の命令にしたがって疾走している目崎正人こそ、ロクヨンの犯人であることに気づく。

脅迫の電話により犯人の声を知っていた雨宮は、警察による捜査に見切りをつけ、犯人がほぼ確実に県内の人間であることから、事件当時の電話帳に掲載された58万世帯の電話に対して、「あ」行から順番に総当たりで無言電話をかけつづけ、目崎正人の声に辿り着いたのだった。目崎は娘の無事を知らされぬまま、現金2千万円をガソリンで燃やされたあと、「お前の娘は殺された」と読みとれるメモを読まされ、泣き叫ぶ。しかし直後に娘の無事を知ると、メモを半分食べて証拠隠滅を図り、警察は「保護」の名目で確保する。決定的な証拠が挙がらないため目崎への捜査は難航するが、松岡捜査一課長らは、かつて犯人の声を聞いた者たちに「耳実験」をおこなうなどしつつ、千の状況証拠で目崎の周囲を固め、必ず立件すると語る。偽装「誘拐」を引き起こした雨宮と、彼に協力した幸田は姿を消したが、生きているという。

警察庁長官の訪問、および刑事部長職の「召し上げ」は、一連の事件によって流れた。

唯一の手がかりだった「無言電話」があゆみのものではなかったと知った美那子は落胆するが、「あの子を受け入れてくれる別の人の元で元気にしている」という、「生存の条件」を見つけ、気丈に振る舞う。三上もあゆみの生存を信じ、帰りを待とうと決める。そして二渡と再会した彼は、刑事に戻る気はないと語る。ロクヨンが立件された暁には幸田メモの真相を明かさなければならず、そのとき松岡を広報官として支えることを決意した。
登場人物
三上家
三上 義信(みかみ よしのぶ)〈46〉
D県警察本部
警務部秘書課調査官〈広報官〉警視。二渡とは同期。刑事になって3年目に突然広報室への異動を命じられ、刑事としての大事な時期を失ったと考えている。1年後に刑事に戻って以降は、いつまた刑事以外の課に異動させられるかという恐怖感から遮二無二働き、捜査一課で盗犯・強行犯・特殊犯などを担当し、捜査二課で職能を開花させて実績を上げ、知能犯捜査係の班長として汚職や選挙違反事件捜査の現場指揮を取り、次席まで務めた後、この春に20年ぶりに広報室勤務となる。赤間からの制止を聞かず、広報室改革を進め、記者や現場の人間にも理解されかけていたが、あゆみの家出を機に、再び彼らとの間に距離が出来ていく。ロクヨン当時、捜査一課特殊犯捜査係(係長代理)に所属し、身代金の受け渡し場所へ向かう父親の車を追尾する任務に就いていた。
三上 美那子(みかみ みなこ)
義信の妻。元ミス県警の美人。あゆみから電話があるかもしれないからと引きこもり気味になっている。ロクヨンの時は、犯人が身代金の受け渡し場所に指定した喫茶店で、アベックの女役として駆り出されていた。
三上 あゆみ(みかみ あゆみ)〈16〉
義信と美那子の娘。父親に似た顔立ちにコンプレックスを抱き、母親の美貌を憎み、高校を半年で不登校になり、引きこもる。自分の顔を醜いと思うようになり、カウンセラーから醜形恐怖と診断されカウンセリングを受けていたが、三上に整形を反対され、家出する。
D県警広報室

D県警の広報室は4年前に広報課への昇格が持ち上がったが、記者と広報室が結託することを危惧した前任の大黒警務部長によって潰された。記者を飼い馴らすよう命じる上層部と、記者に情報を漏らす敵のような扱いをする現場との板挟み状態になっている。マスコミからは記者発表の準備をするだけの部門と思われ、不遜な扱いを受けている。
諏訪(すわ)
D県警警務部秘書課 係長。広報室勤務は5年で、記者を懐柔する機転にも長ける。
蔵前(くらまえ)


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